東京パラ100日 テスト大会通じ感染対策準備より慎重に

東京パラリンピックの開幕まであと100日です。
新型コロナウイルスの感染拡大で大会開催への懸念が高まる中、大会組織委員会などは医療体制への影響や安全確保の方策を丁寧に説明し、国民の理解を得られるかが問われています。

最大約180の国・地域から選手4400人参加

ことし8月24日に開幕する東京パラリンピックには、最大でおよそ180の国と地域から4400人の選手が参加する予定で、国内では80人以上の選手が代表に内定し、世界ではおよそ7割の出場枠が決まっています。

パラリンピックを目指す選手の中には、障害や基礎疾患によって新型コロナウイルスの感染や重症化のリスクが高い選手もいて、感染対策の準備がより慎重に進められています。

こうした中、先月以降、車いすラグビー、競泳、陸上の3競技で本番と同じ会場でテスト大会が開かれ、感染対策の確認が行われました。

テスト大会で感染対策確認

今月、国立競技場で開かれた陸上のテスト大会には選手117人と審判やボランティアなどおよそ1000人が参加しました。
選手は事前にPCR検査を済ませ、当日も受付で手や指の消毒と検温を受けてから入場したほか、競技以外は常に2メートル以上の距離をとり、マスクを着けることが求められました。さらに選手の招集所には、消毒液や除菌シートが置かれ、競技用の車いすや義足などパラリンピックに不可欠な器具も消毒が徹底されました。

視覚障害の選手が気付かずに人と接触することがないよう、入退場では前後の選手と3メートル以上の距離をとり、車いすの選手の中にはマスクを着けたまま競技する選手もいました。
また、試合後の選手へのインタビューでは報道陣と2メートル以上の距離を保つようロープが張られました。

免疫の難病で重症化リスクがある車いすの伊藤智也選手は「PCR検査が徹底され、安心感を持つことができた。選手や関係者もきちんと距離をとるなど非常に意識が高かったので、本番がより安心安全な大会になってほしい」と話していました。

内定選手たちの複雑な思い

東京パラリンピックの代表に内定している選手の中には新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、開催への懸念が高まっている状況に複雑な思いを吐露する選手もいます。

リオデジャネイロパラリンピックの銀メダリストで、男子走り幅跳び義足のクラスで東京パラリンピックの代表に内定している山本篤選手(39)は、「開催する、しないを決める権利は選手にはないが、今の状況では開催は厳しいというのが僕の中の気持ちだ」と述べ国民の不安が拭えなければ大会の開催は難しいという認識を示しました。
パラ陸上の第一人者の山本選手は、東京大会を最後のパラリンピックと位置づけています。開催のカギを握る感染対策は今月、本番と同じ国立競技場行われたテスト大会で体験し、「選手が検査を受けたうえでマスクをし、距離をとっていたので、感染対策はしっかりできていたと思う。ただ、どこまでやればできているのかという線引きは難しい」と話しました。

そのうえで、東京オリンピック・パラリンピックの代表に内定した選手に出場辞退を求める声が寄せられる現状について「開催への不満を選手個人にぶつけるのは、もし僕に来ても何もできませんとしか言いようがない。選手としては予定されている大会に向けて全力でトレーニングをする、この1つしかない」と話し、難しい立場にある選手への理解を求めました。

「最後まで希望は捨てずにいたい」

陸上女子走り幅跳び義足のクラスで東京パラリンピックの代表に内定している中西麻耶選手(35)は「人の命をおかしてまで活躍したい選手はいない。私は不安から選手に向かう声も抱えて前を向きたい」と心境を語りました。
おととしの世界選手権で初優勝した中西選手は去年、世界女王として臨むはずだったパラリンピックが延期になり、新柄コロナウイルスから高齢の家族を守るため、実家のある大分を離れ練習拠点を大阪に移さざるをえなくなりました。

緊急事態宣言で競技場も使えなくなりましたが、公園の不安定な地面で走れば義足のバランス感覚が磨けるとプラスに捉え、自己ベストの更新など自身の進化につなげてきました。

そうした経験も踏まえ、中西選手は、「人の命をおかしてまで活躍したい選手はいない。ただ、難しいことを承知でどうにか開催できる方法を考え工夫することを責めることはできないのではないか。最後まで希望は捨てずにいたい」と心境を語りました。

そのうえで、選手に対してさまざまな意見が寄せられていることについては、「何を信じればいいのか分からないくらい、見えないウイルスと戦うのは大変だし不安も大きい。今、アスリートに向けられているのは、根本的には不安から来ることばだと思う。それがコロナ禍と向き合う手段の1つになっているなら、私はそういった声も抱えて前を向きたい」と話していました。

選手として医師としての思い

医師としてコロナ対策にあたりながら東京パラリンピックを目指しているスペインのトップ選手は「大会が医療資源を奪うのではなく人々に希望や平等を広めるための投資だと捉えることはできないか。東京なら大会が安全に行われると信頼している」と述べ、大会の開催に期待を示しました。

トライアスロン女子視覚障害のクラスで世界ランキング1位のスペインのスサーナ・ロドリゲス選手(33)は、東京パラリンピック出場をほぼ確実にしているトップ選手であり医師でもあります。
ロドリゲス選手は生まれた時から視力がほとんどありませんが、トライアスロンの選手として「ガイド」と呼ばれる伴走者とともに競技に取り組み、おととし横浜で行われた国際大会で優勝するなどこれまで多くの大会で実績を残してきました。

しかし前回のリオデジャネイロパラリンピックでは5位と表彰台を逃し、東京パラリンピックでの金メダル獲得を目指して練習を積んできました。

ロドリゲス選手は東京パラリンピックに向け「いま自信と喜びを感じます。私にも他の選手にとっても大会100日前は希望への100日前なのです」と話し、開幕を待つ心境を語りました。

一方で医師としては去年、スペインを襲った新型コロナウイルスの第1波の感染拡大の時期には医療現場の最前線で患者の診断や調査を担いました。その後もスペインで初めての視覚障害のある医師としてコロナ患者のリハビリ支援にあたってきたということです。

医師の立場としてコロナ禍での大会開催についてロドリゲス選手は、「とても大変なことで、日本の人たちが怖れを感じてそれぞれに考えを持つのは当たり前のことだと思います」と不安を抱くことに理解を示しました。

そのうえで大会開催に伴って日本国内の医療体制への影響が懸念されていることについては、「すべての物事はバランスを取る必要があります。オリンピックやパラリンピックが医療資源を奪うと考えず、人々に希望や平等を広めるための投資だと捉えることはできないでしょうか。大きな挑戦は必ず勝者を生みます。いまコロナ禍で勝者の姿を世界に示せる国があるとしたら、それは日本なのだと思います」と持論を述べました。
そして、「東京であれば大会が安全に行われると信頼しています。これまで期待していたものとは違う形になったとしても、すばらしい大会になることは間違いありません」と大会の開催に期待を示しました。