パジャマのままで働きたい、あなたへ

パジャマのままで働きたい、あなたへ
せっかくの在宅勤務だから、リモート会議が始まるギリギリまでソファーやベッドでくつろぎたい。満員電車を避けて自転車通勤にしたけど、急な雨でスーツが台なしだ。そんな声に応えるスーツが今、次々と登場しています。コロナ禍で生まれた紳士服の新潮流、市場に大きな波をもたらすのでしょうか。
(経済部記者 保井美聡)

スーツのような「作業着」

ことし2月に発売された1着のスーツが、ネットで大きな話題となりました。

発売したのは作業着メーカーの「ワークマン」。上下合わせて税込み4800円という価格もさることながら、生地を光にあてるとスケスケに見えるほどの通気性と、水やケチャップをかけてもすべり落ちるほどの高いはっ水性を兼ね備えています。
上着はリバーシブルで、裏返せばフードもついていて、ちょっとした雨をしのぐこともできます。

ワークマンと言えば、手ごろな価格の作業着を売りにしていましたが、最近はそのノウハウを生かしたアウトドア系や女性向けの衣料品で注目を集めています。

もともと、今回のスーツは、建設現場などの作業員が取引先とのちょっとした打ち合わせでも着られるようにと開発しました。ところが、発売すると、コロナ禍で自転車通勤を始めたビジネスマンなどから思いがけなく支持を集め、発売開始から2か月で約15万着を売り上げました。完売する店舗も相次いでいるそうです。

会社としても想定外の反響で、この秋冬向けには、防寒性を売りにしたスーツやコートの新商品も投入する計画です。
ワークマン広報部 伊藤磨耶さん
「作業服として展開していた商品をアウトドアやタウンユースで着てもらえるようになり、作業着と一般着との垣根がなくなってくる中で、作業着とスーツも垣根なく商品展開できるのではないかと考えました。一般のスーツチェーンや他社が発売しているスーツとは違う、ワークマンらしいスーツを今後も販売していきたい」

紳士服大手は「ふだん着」のこだわり

コロナ禍で生まれた新たなスーツのスタイル。業界では「カジュアルスーツ」とも呼ばれていて、大手紳士服チェーンもこうした需要の取り込みに注力しています。

紳士服大手「AOKI」が売り出した新たなスーツ。こだわったのは、作業着ならぬ「ふだん着の着心地」です。
どんな動きも邪魔しないという伸縮性が売りで、価格は上下で税込み5000円から6000円程度。素材はポリエステルを使い、自宅で洗濯してもシワになりにくく、雨にぬれても劣化しにくいのが特徴です。

ネット限定販売ながら、すでに人気商品になっているそうです。AOKIは数万円のビジネススーツを主力としてきましたが、今後は従来の価格帯や素材にとらわれない商品の開発にも力を入れる方針です。
AOKIホールディングス 青木彰宏 社長
「お客様が求める価格、うれしい価格を市場調査しながら新たなスーツを展開してみようと思いました。5000円から1万円、1万5000円と、その市場をどんどん大きくしていく。第2の柱として徹底的に強化していこうと思います」

究極の「部屋着」もスーツに

AOKIが今取り組んでいる秋冬ものの新商品の開発現場を、今回特別に見せてもらうことができました。

目指しているのは「着たまま寝られる、起き上がってすぐに勤務ができる」スーツ、その名も「パジャマスーツ」です。究極の部屋着とも言えるパジャマと、ビジネスの象徴であるスーツを融合しようという大胆な発想です。地肌に触れるパジャマの肌触りを実現するため、生地はやわらかいレーヨンなどを織り込みつつ、シワになりにくい素材を開発しました。
さらに、紳士服メーカーとして長年取り組んできた技術を生かして、肩や肩甲骨の部分に立体的な縫製を施すことで、寝転んだりしても型崩れしにくく、リモートの会議にとどまらず、ビジネス、カジュアルどちらの外出にも対応できるとしています。

2021年3月期の決算で最終赤字に陥ったAOKI。会社はカジュアルスーツのラインナップをさらに強化することで、5年以内にカジュアル部門の売り上げを昨年度の約6倍の100億円規模に拡大したいとしています。
AOKIホールディングス 青木彰宏 社長
「コロナ禍は、われわれが持っている強みと資源が何なのかをしっかりと把握する機会になったと思います。紳士服業界に限らず、いろんな他社の方々がスーツ市場で商品を展開し、マーケットが広がることに対して非常にワクワクしていますし、60年間培ってきたスーツを作る力をカジュアルの分野にも転用することで、われわれのポジションをしっかりと確立して差別化していきたい」
コロナ禍での働き方が大きく変化する中、ビジネスとカジュアルの境目が薄れた結果、新しいニーズが生まれています。

従来のビジネスモデルにとらわれず、新しいニーズにいち早く対応していくことが、今後の成長の鍵を握っているのではないでしょうか。
経済部記者
保井 美聡
2014年入局
仙台局、長崎局を経て
流通業界などを担当