変異ウイルス 患者増加で医療ひっ迫近づく 都モニタリング会議

東京都の「モニタリング会議」が開かれ、専門家は、新規陽性者の増加に伴って感染力の強い変異ウイルスへの置き換わりが進んでいることで、入院患者がさらに増加し、医療提供体制のひっ迫が近づいているとして、強い危機感を示しました。

会議のなかで専門家は都内の感染状況と医療提供体制を、いずれも4段階のうち最も高い警戒レベルで維持しました。

このうち感染状況については、新規陽性者の7日間平均が、
▽12日時点でおよそ840人と、
▽1週間前の5月5日時点の、およそ768人の109%となり、
9週連続で100%を超える高い水準で推移していると説明しました。

また、感染力が強い「N501Y」の変異があるウイルスに感染した人の割合は、
▽4月25日までの1週間は57.4%でしたが、
▽5月2日までの1週間は68.4%まで上昇し、
流行の主体が置き換わりつつあるとしています。

一方、都内では、12日時点の入院患者が1週間前より232人増えて、2399人となりました。

専門家は、新規陽性者の増加に伴って変異ウイルスへの置き換わりが進んでいることで、入院患者がさらに増加し医療提供体制のひっ迫が近づいているとして強い危機感を示しました。
また、重症の患者も1週間前より17人増えて、12日時点で86人となりました。

専門家は、第3波のことし1月初旬に救急医療体制がひっ迫し、医療提供体制が危機に直面した時の数値に近づいているとしています。

さらに、通常の医療への影響が深刻になっているとも説明し、引き続き感染防止の対策を徹底するよう呼びかけました。

小池知事「インド株も懸念 緊張感持って進める」

モニタリング会議のあと東京都の小池知事は「インド株も懸念されているので、危機管理の観点からもより緊張感を持って進めていく。都民の皆さんとその緊張感を共有できればと思う。ここはコロナ対策をみんなで取り組んでいくことをお願いしたい」と述べました。

また、開幕まで2か月余りになった東京オリンピックについて、東京都の小池知事は、記者団から、安全に開催するには感染者をどのくらいに抑えるのが望ましいのか問われたのに対し「数字的なものはどういう形で整えていくか、また全体の医療提供体制にかかってくるのだろうと思う。それらを総合的に見ていく必要があると考えている」と述べましたが、具体的な数字は示しませんでした。

「N501Y」の変異があるウイルスが60%超に

今月9日までの1週間に都の「健康安全研究センター」が行った検査で、感染力が強い「N501Y」の変異がある新型コロナウイルスが検査全体のおよそ6割で見つかりました。

都の「健康安全研究センター」は、今月9日までの1週間で新規陽性者の検体121件を分析しました。

その結果、61.2%にあたる74件で感染力が強い「N501Y」の変異があるウイルスが検出されたということです。

「N501Y」の割合は前の週に続いて6割を超えました。

このほか、インドで報告されている「L452R」の変異があるウイルスが新たに1人の検体から検出されました。

これで、この変異ウイルスが都の健康安全研究センターの検査で確認されたのは6人目です。

感染状況

13日のモニタリング会議で示された都内の感染状況と医療提供体制についての分析結果です。

新たな感染の確認は、12日時点の7日間平均が840.3人となりました。

1週間前、5月5日時点の768.1人と比べると、増加比はおよそ109%で、専門家は高い水準で推移していると分析しています。

さらに、連休明けの新規陽性者数は、医療機関の休診による検査数の減少や報告の遅れの影響を受ける可能性があるため、過小評価しないよう注意する必要があると指摘しました。

また、都内の検査で、感染力が強い「N501Y」の変異があるウイルスの割合は、5月2日までの1週間では68.4%で、その前の週より11ポイント増加しました。

一方、5月10日までの1週間に、新型コロナウイルスの感染が確認された人の年代別の割合は、
▽20代が最も多く26.1%
次いで、
▽30代が19.5%
▽40代が16.7%
▽50代が12.6%
▽10代が7.1%
▽60代が5.8%
▽70代が4.5%
▽10歳未満が4.0%
▽80代が3.0%
▽90代以上が0.7%でした。

専門家は、10代から40代の割合が依然として高く、新規陽性者全体のおよそ7割を占める状況が続いていると分析したうえで「若者であっても後遺症が長引くリスクがある。変異ウイルスでは、従来の株よりも若い世代の重症患者が多く発生している」と指摘しています。

65歳以上の高齢者は、今週は576人、割合は11.0%で、前の週と比べて人数、割合ともに横ばいでした。

感染経路がわかっている人のうち、
▽同居する人からの感染が56.9%と最も多く、
次いで、
▽職場が12.1%
▽高齢者施設や病院、保育園や学校といった施設での感染が11.2%、
▽会食が6.3%でした。

大型連休の影響で同居する人から感染する割合が増加した一方、施設や職場での割合は減少しました。

ただ、施設内での感染事例には保育園や小学校、大学の運動部や寮などで十数人から数十人規模の比較的大きなクラスターの発生が、都内各地から複数、報告されているということです。

5月10日までの1週間の新規陽性者5228人のうち、15.8%にあたる824人は無症状で、専門家は「無症状であっても感染源となるリスクがあることに留意する必要がある」と指摘しています。

また、発熱がある人に医療機関を紹介する都の「発熱相談センター」に寄せられる相談の7日間平均は、12日時点で2011件で、2000件を超える高い数値で推移しています。

「感染の広がりを反映する指標」とされる、感染経路がわからない人の7日間平均は、12日時点で503.4人で、前の週から74人増えました。

増加比も3月中旬から継続して100%を超えていて、12日時点では117.3%と、高い水準で推移しています。

年代別で感染経路がわからない人の割合を見ると、
▽20代から40代で60%を超え、
▽50代と60代でも、50%を超えています。

専門家は「感染経路が追えない潜在的な感染が拡大していることが危惧される」と指摘しています。

医療提供体制

◇検査の「陽性率」は、12日時点で7.1%となり、前の週の5月5日時点と比べて2ポイント低下しました。

専門家は「連休明けの検査数の増加が新規陽性者数の増加を上回り、検査の陽性率が低下した」と分析しています。

◇入院患者は、12日時点で2399人となり、2167人だった前の週の今月5日時点と比べて232人増えました。

入院患者のうち、
▽70代以上の割合は減少傾向です。
一方、
▽ことし3月末には50%を切っていた60代以下の割合は増加傾向で、12日時点では67%でした。

◇また、都の基準で集計した12日時点の重症患者は、今月5日時点より17人増えて86人でした。

重症患者を年代別に見ると、
▽20代が2人
▽30代が1人
▽40代が5人
▽50代が19人
▽60代が26人
▽70代が23人
▽80代が9人
▽90代が1人で、
60代が最も多くなっています。

重症患者数に占める60代以下の割合が、およそ62%と高く、なかでも60代だけで30%をしめています。

専門家は「肥満や喫煙歴のある人は若年であっても重症化リスクが高く、N501Yの変異があるウイルスの重症化率と死亡率は、従来のウイルスより高いという報告がある」として、警戒を呼びかけました。

このほか、
◇人工呼吸器やECMOの治療がまもなく必要になる可能性が高い状態の人は、12日時点で274人で、先週の220人から54人増えました。

専門家は「重症患者は、新規陽性者の増加から少し遅れて増加してくる。人工呼吸器を外すまで長い期間が必要になるため、ICU=集中治療室の病床を占有する期間が長期化することを踏まえ、重症患者数の推移を注視する必要がある」と指摘しました。

このほか、
◇今月5日時点と12日時点を比べると、
▽自宅で療養している人は120人増えて2230人
▽都が確保したホテルなどで療養している人は283人減って1182人
▽医療機関に入院するか、ホテルや自宅で療養するか調整中の人は244人増えて1413人でした。

「療養が必要な人」全体の数は、12日時点で7224人で、5月5日時点から313人増えていて、専門家は「高い水準で推移している」としています。

また、
◇今月10日までの1週間では、新型コロナウイルスに感染した22人が亡くなりました。
前の週と同じ人数でした。

亡くなった22人のうち、19人が70代以上でした。

繁華街の人出 「連休明け 昼夜ともに増加」

都内の繁華街の人出を分析した都の専門家は、4月に3回目の緊急事態宣言が出て以降、減少していたものの、今週に入って増加に転じ始めていることを明らかにしました。

専門家は、このまま増加が続くと、感染の急拡大が起きる可能性があると指摘しています。

東京都医学総合研究所社会健康医学研究センターの西田淳志センター長は、都のモニタリング会議で都内7つの繁華街の人出について分析した結果を報告しました。

このなかで、西田センター長は「緊急事態宣言の開始後2週間で主要繁華街の人出は急激に減少した。宣言の直前の週に比べると、昼間はおよそ40%、夜間はおよそ50%減少した」と述べました。

一方で「大型連休明けの今週に入ってからは、昼間、夜間ともに増加に転じ始めている」と述べました。

増加幅の詳しい数値の報告は、会議の場ではありませんでした。

西田センター長は「人出の増加が続くと、早い段階で感染の急拡大が起きる可能性があり、しっかりと食いとめていく重要な局面だ」と指摘しました。