“高齢者施設クラスター” 再び増加 現場で何が起きているのか

新型コロナウイルスの感染が拡大する中「高齢者施設」のクラスターなどが増加しています。

厚生労働省によりますと、高齢者施設で、全国の自治体がクラスターと認定したり、2人以上の感染が明らかになったりしたケースは、4月5日までの1週間は22件、翌週の12日までの1週間は28件でしたが、19日までの1週間は43件、そして26日までの1週間は48件に増加しています。
さらに連休明けの今月6日までの10日間では、72件に上っています。

全国でこれまでに発生したクラスターなどの数の累計は、今月6日時点で6997件となっていて、このうち高齢者施設は1389件と、企業(1356件)や飲食店(1283件)を上回り最も多くなっています。

定期的な検査を行っても感染拡大

相次ぐ高齢者施設のクラスター。中には定期的にウイルス検査を行っていても、感染が拡大してしまうケースがあり、一刻も早いワクチン接種を望む声があがっています。

大阪市にある「城東特別養護老人ホーム」では先月上旬から中旬にかけて、職員と入所者の合わせて9人が感染しました。

大阪市では高齢者施設での感染拡大を防ぐため、定期的な検査を実施していました。この施設でも、全職員80人余りを対象に、ことし2月以降月に2回から3回、PCR検査が行われていました。

さらに、ウイルスの持ち込みを防ぐため家族の面会など外部からの訪問も中止していましたが、それでも施設で感染が拡大しました。

いったいなぜなのか。

3月28日に行ったPCR検査では職員全員が陰性でした。ところがそのおよそ1週間後の先月5日、90代の入所者の女性が発熱し、検査を行ったところ、感染が判明しました。その翌日、別の入所者2人も発熱し、検査を受けた結果、陽性。

さらに、3月28日の定期検査では陰性だった職員も体調不良を訴え、同じ日に検査を行ったところ感染が確認されました。施設では4月8日に再び職員全員にPCR検査が行われましたが、そこで陽性者はいませんでした。

ところがその後、2人の職員が体調不良を訴え改めて検査した結果、陽性となりました。結局、最初の感染者が確認されてから10日ほどで、入所者5人と職員4人の感染が明らかになりました。このうち入所者2人は入院先の病院で亡くなりました。

PCR検査は、感染の初期で体内のウイルスが少ない場合などは陽性にならないこともあります。
城東特別養護老人ホームの中島素美施設長は「定期的にPCR検査をしてもらえるのは本当にありがたいが、それでもすぐに感染に気づけないこともあるんだと痛感した。検査にも限界があるとするならば、一刻も早くワクチンの接種を進めていかないと、感染を防ぐことは難しいのではないか」と話しています。

この施設では現在、感染は収束し新たな感染者は出ていません。

高齢者 感染しても入院先が見つからないことも

施設で感染者が出ても医療機関にベッドの空きがなく、入院先がなかなか見つからない事態も起きています。

城東特別養護老人ホームでも高齢の入所者4人が感染が確認された後も、2日間ほど施設で待機せざるをえなかったといいます。

いずれも心臓疾患やぜんぞくなどの持病があり、最初は発熱の症状だけでしたが、次第に呼吸状態が悪くなる人もいました。しかし、施設に医師は常駐していないため、施設で対応するには限界があったといいます。

さらに80代の入所者の女性はがんなどの基礎疾患があり、一時は熱も高く食事もできないほど衰弱しましたが、入院できないまま、施設で過ごしたといいます。女性はその後、何とか症状が回復し、現在は元の生活に戻っています。

城東特別養護老人ホームの中島素美施設長は「介護施設なので夜間は看護師がおらず、急変しても医療的なフォローが全くできず、息苦しいということになっても職員が勝手に酸素を投与することもできない。また、もともと職員の数に余裕はなく、体調が悪くても頑張って出勤した職員もいて、体制の見直しも検討してもらいたい」と話しています。

専門家「入所者と施設職員のワクチン接種急いで」

高齢者施設の実態に詳しい、東洋大学の高野龍昭准教授は、感染拡大を食い止めるため、検査を活用することは有効だとしながらも、過信しすぎないことが必要だと指摘しています。

高野准教授は「PCR検査がかなり広がっているが、感染していても陰性となるケースもあるし、検査の直後に感染することもあるので、万能ではないことを理解する必要がある。行政は検査だけでなく、万が一感染が拡大した場合に、医療チームや介護チームを派遣する体制を整え、施設側もちゅうちょなく引き受けるべきだ。場合によっては都道府県をまたいだ協力体制も整備しておくことが必要だ」と話しています。

そのうえで高野准教授は「入所者と施設職員へのワクチン接種を急ぐことが何より重要だ。ワクチンによってクラスター化する感染は防げるし、職員が外から持ち込むリスクも減る」と指摘しています。