インド 新型コロナ感染拡大続く 医療体制整っていない地方にも

インドでは、新型コロナウイルスの新たな感染者が連日40万人以上確認される爆発的な感染拡大が続いています。感染は医療体制が十分整っていない地方にも広がっていて、新たな懸念になっています。

インドでは9日、新たに40万3738人が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、1日当たりの新規感染者は4日連続で40万人を超えました。

また新たに4092人が亡くなったということで、前日に続き死者が4000人を超えました。

各国からの支援が届いていますが、首都ニューデリーを中心に各地で依然として医療用酸素の不足が深刻になっていて、医療体制の危機的な状況が続いています。

当初感染が急拡大したニューデリーや商業都市のムンバイでは感染者が減る傾向にありますが、医療体制が十分整っていない地方都市や農村部に感染が広がっていて、新たな懸念になっています。

一方、インドの保健当局は今月5日の会見で、「複数の州でこの1か月半にみられた感染の拡大は、インドで最初に見つかった変異ウイルスの増加と関連している」と述べたうえで、新たな変異ウイルスの割合が増えているとしています。

この変異ウイルスは感染力を強めたりウイルスを攻撃する抗体の働きを弱めたりするおそれがあり、政府は詳しい分析を進めるとともに感染対策の徹底を呼びかけています。

爆発的感染拡大の2つの要因

インドでは去年9月に第1波のピークを迎えたあと感染の減少が続き、ことし2月上旬には1日の新規感染者が1万人を下回るまでになりました。

また1月中旬からはワクチンの接種が始まっていたこともあって、モディ首相は当時「世界の人口の18%を占める国が新型コロナを効果的に封じ込めることで、人類を災害から救った」と述べるなど、感染拡大の抑え込みに成功したとアピールしていました。

ところが2月下旬から感染が再び増加し、先月爆発的に拡大していき、その要因として専門家からは主に2つ指摘されています。

1つは、変異ウイルスです。

インド政府は3月下旬、複数の特徴的な変異を併せ持つウイルスが見つかったと発表し、一部の州で広がりつつあるという認識を示しました。

この新たな変異ウイルスについて、WHO=世界保健機関は感染力を強めたりウイルスを攻撃する抗体の働きを低下させたりするおそれがあるなどと指摘しています。

もう1つは、感染対策の緩みです。

3月から先月にかけてインドではヒンドゥー教の大規模な行事や祭りが相次いで行われ、ガンジス川の周辺ではもく浴のために訪れた大勢の信者が、マスクをつけずに密集する状態が連日続きました。

また同じ時期には複数の州で地方選挙が行われ、感染が再拡大する中でも連日大規模な集会が開かれていました。

1日の新規感染者が20万人を超えていた先月中旬には、モディ首相も集会に出席して与党候補への支持を訴えていて、政府の感染対策が不十分だったという批判も出ています。

モディ首相 全土での外出制限避けたい考えか

感染の急拡大を受けて首都ニューデリーの地元政府は、先月中旬から生活必需品の買い物などを除き、原則として外出を禁止する厳しい外出制限を導入しました。

他の州でも同様の制限措置を取る動きが相次いでいますが、これまでのところ感染の拡大に歯止めがかかっていません。

このため医師や専門家、それに野党などからは一致した感染対策が必要だとして、外出制限を国全体で導入するよう求める声が高まっています。

ただこうした措置について、モディ政権はこれまで否定的な見解を示していて、モディ首相は先月20日の国民向けの演説の中で全土での厳しい外出制限は「最後の手段」としていました。

その背景には、去年3月に取った全土での外出制限の影響が指摘されています。

去年の措置により経済活動はほぼ停止し、去年4月から6月にかけてのGDP=国内総生産の伸び率は前の年の同じ時期に比べてマイナス23.9%と、過去最大のマイナス成長となりました。

また、1億人とも言われる出稼ぎ労働者の多くが仕事を失い、大勢の人が故郷に引き上げましたが、公共交通機関の運行停止により何百キロもの道のりを歩いて帰らざるをえない人も多く、その途中で亡くなる人が相次いだことから、政府の措置に対する批判の声も出ました。

このためモディ首相としては、経済などへの影響を考慮して、全土での外出制限は避けたいと考えているとみられています。

40以上の国・地域から支援物資

インド外務省によりますと、これまでに40以上の国と地域から医療物資を支援する動きが進んでいるということです。

このうち日本は、緊急援助として酸素濃縮器と人工呼吸器をそれぞれ300台供与することを決め、第1段として酸素濃縮器100台が8日、首都ニューデリーの空港に到着しました。

日本はこのほかにも、追加的に55億円の無償支援を行う方針をインド側に伝えています。

またアメリカは1億ドル以上、日本円で100億円以上に相当する医療物資を提供すると表明していて、医療用の酸素や抗ウイルス薬のレムデシビルなどを相次いで送っています。

このほかイギリスやロシア、ドイツ、イスラエル、それにタイなどからの物資も到着していて、インド各地に届けられた量は3000トン以上に上るということです。

ユニセフ インド事務所副代表「ウイルスが身近に来ている」

ユニセフ=国連児童基金インド事務所の木村泰政副代表に現地の状況を聞きました。

木村さんの住む地域では地区ごとに往来が制限され、人通りや交通量がかなり減っています。

食料品店や薬局は営業していて必要な食料や医薬品は入手できていますが、自宅療養で使われる血液中の酸素の値を測る「パルスオキシメーター」が入手困難になっているということです。

ユニセフの事務所では、スタッフやその家族に感染者が出て亡くなった人もいるということで、木村さんは「今回の感染拡大は非常にスピードが速く、ウイルスがかなり身近に来ていると感じる。事務所での緊張感も高まっている」と話しています。

年間の出生数がおよそ2500万人に上るインドでは、猛烈な感染拡大によって子どもたちへの影響も強まっています。

乳幼児や出産後の母親を支援する施設が多くの州で閉鎖されたため、乳幼児が必要な予防接種を受けられないほか、母親も適切なケアを受けられない状況だといいます。

新型コロナで両親を亡くすなどした子どものための電話相談には、1日におよそ2500件の相談が寄せられていて、事業を支援しているユニセフは、全体の数は明らかになっていないものの保護が必要な子どもが増えているとみています。

木村さんは「保護者を失った子どもは、人身売買や暴力に巻き込まれやすい状況におかれている。関係省庁と協力しながら、子どもたちを守る対策に力を入れていきたい」と話していました。

ユニセフでは医療物資の提供や子どもへの支援プログラムを継続していくために、さらなる国際的な支援を呼びかけています。