“大気中から二酸化炭素を直接回収” 本格的な研究開発始まる

地球温暖化対策にとって重要な技術として、大気中から二酸化炭素を直接、回収するための研究開発が活発になっていて、日本では大型プロジェクトとして、今年度から本格的な研究が始まり、新しい物質や特殊な膜の開発が進められています。

国連の専門機関、IPCC=「気候変動に関する政府間パネル」は、世界の平均気温が19世紀後半と比べて2度上昇すると、多くの人が極端な熱波や日常的な水不足によって深刻な影響を受けると予測していて、1.5度の上昇に抑えることの重要性が広く認識されるようになっています。

このため、2050年ごろまでに温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにすることが必要とされ、実現のための重要な技術として大気中から二酸化炭素を直接、回収する手法の開発が世界的に始まっていて、日本でも3年間で55億円を投じた大型プロジェクトが立ち上がり、今年度から本格的な研究が始まりました。

名古屋大学とガス会社などは共同で、二酸化炭素を吸収する特殊な物質と、今まではほとんど捨てられていた液化天然ガスの「冷熱」と呼ばれる冷たいエネルギーを組み合わせたユニークな手法の開発に取り組んでいるほか、九州大学は極めて薄い膜で二酸化炭素を選択的に取り出す独自の発想で研究を進めています。

いずれも、二酸化炭素を回収する効率をさらに高めて、システム全体の製造と運用の過程ででる二酸化炭素よりも多くの二酸化炭素を回収できるようにすることが課題になります。

プロジェクトのまとめ役の地球環境産業技術研究機構の山地憲治副理事長は「地球温暖化対策の最後の切り札とも言えるもので、課題もまだ多くあるが2050年の実用化に向けて急がなくてはならない」としています。

大気中からの“回収”は「最後の切り札」

気象や環境の分野の科学者などでつくる国連の専門機関、IPCC=「気候変動に関する政府間パネル」が3年前(2018年)にまとめた報告書によりますと、世界の平均気温は19世紀後半と比べて2度上昇すると、極端な熱波や豪雨が多くなるほか、トウモロコシやコメなどの食料の生産量の減少の割合が大きくなるなどの影響が予測され、気温の上昇を1.5度にとどめることの重要性が広く認識されるようになっています。

IPCCの報告書では、世界の平均気温は19世紀後半と比べてすでにおよそ1度高くなっているとしていて、シミュレーションをもとに気温が2度上昇した場合と1.5度上昇した場合を予測しています。

その結果、2度上昇した場合は1.5度の上昇と比べて、気象では、極端な熱波に頻繁にさらされる人口はおよそ4億人増加し、強い雨も世界全体で頻度や強さが増えるほか、深刻な水不足によって生活が脅かされる人が世界で9000万人ほど増加する可能性があると予測されています。

また、食料ではアフリカや東南アジアなどでトウモロコシやコメなどの穀物の生産量の減少の割合が増え、コメと小麦は栄養の質の低下が進むとされています。

こうしたことから、気温の上昇を1.5度にとどめることの重要性が広く認識されるようになっています。

1.5度にとどめるには、2050年ごろまでに最も影響が大きな温室効果ガスの二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにする必要があるとされています。

日本でも去年10月、菅総理大臣が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにし、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しています。

これまでは工場などの排気から二酸化炭素を減らす技術の開発が続けられてきて、福岡県大牟田市の火力発電所では実証事業で排出量の半分以上を回収できることが確かめられています。

しかし、二酸化炭素の排出量を2050年ごろまでにゼロにするには、排出量を減らすだけではなく二酸化炭素を大気中から回収する方法の必要性が指摘されています。

こうしたことから、大気中の二酸化炭素を人工的に回収する技術開発が加速しています。

温暖化対策の技術に詳しい地球環境産業技術研究機構の山地憲治副理事長は「航空機や船舶、それに製鉄業など私たちになくてはならないいくつもの業界で二酸化炭素の排出をゼロにすることは難しく、大気から回収することで実質的な排出量をゼロにする方法を考える必要がある。この技術は地球温暖化対策の最後の切り札とも言える」と話しています。

日本では今年度から本格的な研究が始まる

大気から二酸化炭素を回収する技術の開発は挑戦的な課題に取り組む、「ムーンショット型研究開発制度」と呼ばれる、国の大型プロジェクトの中で今年度から本格的に研究が始まりました。

プロジェクトでは2030年までに実用化への道筋が立てられる試作機レベルでの技術を確立し、2050年までに社会に普及させることを目指しています。

海外でも研究開発が行われていて、スイスでは大型の送風機で装置に空気を送り込んで化学物質に大気中の二酸化炭素を吸収させたうえで、廃棄物処理施設から出る熱を利用して二酸化炭素の回収を実証するプラントが設置されています。

アイスランドでも地熱を利用した同じような方法で、運用が計画されています。

ただ、こうしたシステム全体の製造から運用の過程ででる二酸化炭素よりも回収できる二酸化炭素が多くなるよう効率を高める必要があるほか、コストも課題になるとされています。

この事業の運営を担っているNEDO=新エネルギー・産業技術総合開発機構の山田宏之新領域・ムーンショット部長は「非常に挑戦的で難しいところに取り組んでいるが、社会実装につなげるため、技術の見極めや進捗(しんちょく)の評価をしっかり行い研究開発を後押ししたい」と話しています。

捨てられていた「冷熱」を活用

名古屋市に本社を置くガス会社の東邦ガスや名古屋大学などの研究グループは、今までは捨てられていたエネルギーを使って二酸化炭素を回収するユニークな手法の開発に取り組んでいます。

液化天然ガスは日本が世界の輸入量の2割を占めるほど利用されていますが、専用の船を使って輸入する際はマイナス162度まで冷やされていて、「冷熱」と呼ばれる冷たいエネルギーはガスとして使用する際にほとんどが捨てられています。

研究グループは、二酸化炭素を吸収する特殊な物質を溶かした溶液と「冷熱」を組み合わせました。

大気中の二酸化炭素を特殊な溶液で吸収させたうえで、「冷熱」で冷やすと二酸化炭素がドライアイスとなって回収できます。

現在は実験室のレベルで二酸化炭素を回収する効率がさらにあがるよう新しい物質の開発を行っていて、10年後をめどに実証プラントを作る計画です。

名古屋大学の則永行庸教授は「原理としてはかなり明快で、全体としてCO2を減らす技術ができるように研究開発を進めたい」と話しています。

また、東邦ガス先端技術アドバイザーの梅田良人さんは「有効利用されていない冷熱はもったいないもので、地球温暖化は深刻な問題になっているので、この技術で貢献したい」と話しています。

「膜」を使って“回収”

九州大学ネガティブエミッションテクノロジー研究センターの藤川茂紀教授は極めて薄い膜を使って大気中から二酸化炭素を回収する独自の発想で開発に取り組んでいます。

これまでに厚さが食品用のラップのおよそ300分の1にあたる34ナノメートルという極めて薄い膜を作成しています。

この膜には二酸化炭素の分子が通ることができる小さな隙間があり、二酸化炭素を回収することができます。

膜の化学的な性質を変えることで二酸化炭素の分子をより選択的に通すよう改良し、数年後までに家庭や職場などで使える小型の試作機を開発したいとしています。

藤川教授は「膜を使う手法は世界中でこれ以外にはないと思う。課題も多いが頑張りたい」と話しています。