陸上 福士加代子「自分自身と戦うことには逃げていなかった」

東京オリンピックの代表選考を兼ねた陸上の日本選手権女子10000メートルには、39歳の福士加代子選手も5大会連続のオリンピックを目指して出場しました。結果は出場選手中、最下位の19位に終わり、オリンピックへの道は限りなく遠くなりましたが、その背中で後輩を大舞台へと導きました。

2人の代表内定選手が出た今回のレースで、優勝した廣中璃梨佳選手がフィニッシュした2分50秒ほどあと、最後にフィニッシュラインをこえたのが福士選手でした。
日本女子長距離界を引っ張ってきた39歳、その背中は所属先の垣根を越えた後輩たちの皆が追ってきました。

「自分が好きなだけやっておこう」

「もしかしたらワンチャンスあるかも」
そんな思いで臨んだレースでしたが、決して万全の状態で迎えたわけではありませんでした。
マラソンでの代表入りを逃し一度は「やめようかな」と思いましたが、「自分が好きなだけやっておこう」とトラック種目でオリンピックに再挑戦する道を選びました。
3日のレース、スタート直後こそ集団の前についていきましたが、3周目に入った時にはすでに1人、大きく引き離されました。それでも、必死に、くらいつく姿がありました。
5000メートル手前、優勝した廣中選手と、所属先の後輩、安藤友香選手の2人に抜かされ、周回遅れとなりました。
その直後、廣中選手の後ろにいた安藤選手が前に出て、ここから3000メートル以上トップを譲りませんでした。
安藤選手は、おととし福士選手の所属先に移籍し、日本のレジェンド“福士加代子”の背中を追っかけてきた1人です。
福士選手を周回遅れにしたときの心境について、レース後「福士さんの『背中』を見た時はすごく勇気をもらった。一緒に練習をしていて福士さんは福士さんの立場でもがき苦しんでるところを間近で見てきた。なので、私は私の場所で戦わなければダメだとあの時は勇気をもらった」と語りました。

みずからの道しるべとしてきた福士選手の背中を見ながらそれを追い越したとき、背中を押されたように安藤選手は廣中選手とのマッチレースを続けオリンピック代表の座をつかみとりました。
最下位の19位でフィニッシュした福士選手は、大きな拍手を受けてトレードマークの笑顔は忘れませんでした。
観客に手を挙げて応え「ありがとうございました」と大きな声に出して一礼、トラックをあとにすると、数歩歩いて去り際にもう一度、深々とトラックに頭を下げました。
「日本選手権は最後だなっていうことと、もしかしたら10000メートルで大きい大会を走るのはもうないかもしれないと思い感動して一礼した。そしてトラックのレースはおもしろかったなという感じで一礼した」

感慨深い表情でその意味を語りました。
そして最後まで走りきった34分間を振り返りました。

「自分自身と戦うことには逃げていなかった。常に前を見ることはずっとやってきたことなんだろうなと改めて自分でわかった感じがする」

最後に、今後について問われたのに対し「何にも見据えていない。もう1回やりたいと思うのか…。ちょっとじっくり味わいたい」といつもの福士流でかわしました。

このあと、どんな決断をしても、これまで走りきってきたその背中は後輩たちの目に確かに焼き付いているはずです。