児相職員の本当の姿、知ってください~現場の訴え

児相職員の本当の姿、知ってください~現場の訴え
「あすニュースになるのは自分の児相かもしれない」
自分の仕事の危うさをある児童相談所(=児相)の職員はこう語りました。
痛ましい虐待事件があるたびに、対応の不備を追及される児相。しかし、仕事の実情を聞くにつれて、その過酷さを実感しました。
(おはよう日本ディレクター 中村幸代 / 国際部記者 白井綾乃/ 社会部記者 藤島温実)

“絶対安全”はない

まずは、首都圏の児童相談所(以下、児相)で働く40代の女性職員の証言です。
現場経験が10年以上ある彼女はみずからの仕事についてこう話しました。
女性職員
「各地で相次ぐ虐待事件において児相の対応がまずかったことはあるでしょう。でも、いつもニュースを見ながら『あすは自分の児相がテレビに映るかもしれない』と想像してしまいます。子どもに万一の事がないよう最善は尽くしても“絶対安全”ということはありません。ヒヤリ・ハットは正直、長くこの仕事をしていれば誰にでも経験があるはずです」
同じく、去年まで首都圏の児相で働いていた女性にも話を聞くと、当時ひとりで抱えていたケースは100を超えていたといいます。
去年まで児相で働いていた女性
「平日は早朝から深夜まで働いても終わらず、土日もボランティア出勤せざるを得ませんでした。1か月の間に、抱えているすべての案件の現状をなんとか把握することで精いっぱい。どのケースも“紙一重”で、本来“やっつけ仕事”にしてはいけないはずなのに、一つ一つを納得いくまで丁寧にやりきれないのは、つらいし怖いことです」

なぜ今、児相の仕事に注目したのか

ところで、なぜ今、児相の取材なのかというと、きっかけは、福岡県篠栗町で5歳の子どもが餓死させられた事件です。この衝撃的な事件でも児相が親族から子どもの安否を確認するよう相談を受けながら、家庭を訪問するなどの対応を取っていなかったことが問題となりました。
マスコミは、こうした事件が起きるたびに厳しく児相を追及してきましたが、私たちもその一員です。
しかし、長年児相で勤務していた男性から「不手際はどこまでも非難されるが、守られた命は、報道されない」と言われ、はっとしました。
私たちは児相の対応のまずさは指摘しても、なぜその問題が起きたのかをあまり見てこなかったのではないか。
児相の仕事の実態をいま一度、知らなければと思ったのは、そんな理由からでした。

児相の仕事は幅広い

児相は、全国の都道府県や政令市などに設置されています。
ここ数年は、東京の一部特別区にも設置が進められています。
主にその業務にあたっているのが「児童福祉司」と「児童心理司」。
福祉司は任用資格ですが、その立場は通常の地方公務員です。

児相の業務内容は実に多岐にわたります。
1 子どもに関して家庭や地域から寄せられる相談にのる

2 家庭の養育環境を調査し、支援の内容を決める

3 子どもを親から離し、保護する(=一時保護)

4 子どもを自宅に戻すのか、児童養護施設や里親に託すのかを決め、支援する
上記の「3」のような「介入」の仕事もありますが、子どもと家庭の双方にとって、最善の支援とは何かを考え、親との信頼関係を築き、対話を重ねながら、その道筋を探るのが本質のようです。

増え続ける業務

虐待事件が相次ぐなか、寄せられる相談件数は、年々、右肩上がりです。
さらに、通告から48時間以内に児相が子どもの安全確認をするルールなどが新たに作られるなど、業務量は増加の一途をたどっています。
福祉司は国の方針もあり、年々増えていますが、それでも業務はひっ迫しています。
新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛や休校により家庭内の様子が見えにくくなったり、保護者の経済状況も不安定になったりするなど、虐待が起きるリスクは高まっているとされています。

「困ったら児相」~現場の声

その多岐に渡る仕事について、甲信越地方の児相で働く30代の男性福祉司は「児相は“何でも屋”です」と表現しました。どういうことでしょうか?
児相で働く男性福祉司
「保護者には、まずは私たちのことを“味方”だと思ってもらえるよう、あらゆる努力をします。『困った』という連絡があれば、たとえ5分でも、その日のうちに駆けつけるように心がけています。助けてというサインをむげにすると、その後相談されなくなるかもしれないからです。家庭訪問では、話を聞くだけではありません。ネグレクトの家庭では、母親に掃除の習慣をつけてもらおうと、犬猫のフンを毎回、一緒に掃除していました」
また、この男性福祉司は、保護者だけでなく、学校など地域の関係機関からも「困ったら児相」といった具合に頼られることに、難しさを感じるといいます。
連携すべき相手なのに、意外に感じました。なぜなのでしょうか。
児相で働く男性福祉司
「学校で対応できないことは『児相でお願いします』と任されます。よくあるのは、『不登校の生徒が、訪問しても会えない。どうしたらいいか』という相談。また『持ち物がそろっていない、服に穴があいている』といった連絡があった時も。もちろん、虐待を未然に防ぐため、あらゆるサインもキャッチすることは大事です。ただ多くの場合は、児相が関わるほどのケースではありません。ほかのケースも抱えている中“どこまでが児相の仕事なのだろうか?”と思ってしまうことも、正直あります」
取材を始める前は、「虐待の可能性を少しでも感じたら、児相に連絡する」ことが、大切だと思っていました。

しかし、「なんでも児相任せ」では、さすがに限界があると感じます。

さらに、「子どもの安全」が確保できた後にも課題がありました。
「一時保護所」や「児童養護施設」から、「集団生活に馴染めないので、他を探してほしい」といわれるなど、子どもの預かりをめぐって、何度もやり取りをすることが少なくないといいます。

ひとたび事件が起きれば、非難の矛先が向いてしまう児相の現状を、ある職員はこう表現しました。
「児相は責められることはあっても、褒められることはほとんどないのです」

疲弊する職員たち

取材をすればするほど、明らかになる職員の置かれた状況の厳しさ。
心身のストレスやプレッシャーなどを理由に、休職や離職など、現場を離れる人も少なくないといいます。心身ともに疲弊する職員たちの現状について、長年児相に勤めてきた立正大学の鈴木浩之准教授は、次のように語りました。
鈴木准教授
「本来、児相の仕事は、親御さんと一緒に子どもの未来や幸せを作るお手伝いをする、とても意義のある仕事。しかし、実際は日々の業務をこなすことに追われ、その“意味”を見いだす時間や心の余裕すらなく、疲れ果ててしまっている。児相の組織内でも、“できたこと”より“課題の分析”ばかりが取り上げられる。むしろ“よい実践”を学んだり、フィードバックをもらえるような環境づくりも必要です」

あなたのやりがいは?

今回の取材の最後に、職員たちに、過酷な環境にありながら、何を心の支えに働いているのか、聞いてみました。
□子どもの笑顔を取り戻す
「正直、自分のやったことが、すぐに結果にでる仕事ではありませんが、今、ここで子どもの将来をつぶさず、少しでも前向きになってもらうことに意味があると思っています。何年もかけて関わった子どもが、笑顔を取り戻していく過程を見られることが、なによりうれしい経験であり、支えになっています。子どもたちにとって、『明日が楽しみだな』と安心して眠れる夜が来ることが、私の目標です」(30代・児童福祉司
□家族の再統合
「両親の不和を理由に、家を飛び出した小学生の男の子を一時保護しました。母親は仕事のストレスで家事をする気力を失い、ネグレクトに近い状態。父親は当初、離婚を考えていましたが、息子の保護をきっかけに夫婦で児相に面接に通ってくれるようになりました。男の子の気持ちを夫婦に伝えると『そこまで精神的に負担をかけていたんだ』『もっと息子の声を聞かなければ』と気づいてくれました。その後、男の子を家に帰すことになりましたが、継続して支援するうちに家族仲がすごく良くなったのです。“家族の再統合”が実現できたとき、この仕事のやりがいを感じました」(40代・元児童福祉司
□親も変われる
「子どもが成長するのはもちろん、親も変わるという実感がうれしく、児童福祉に携わる希望を感じます。向き合う親は、精神的な不安定さや経済的な問題を抱えている人、それに親自身が虐待を受けて育ち、何が適切な養育なのかわからない人もいます。子どもへの関わり方を提示する中で親に変化が現れることは、職員の自信になります」(元児相所長
このやりがいを口にする時は、みなさん少し明るい声だった気がします。そして、共通していたのは、子どもとその家族が幸せになることを願い、見守り続ける姿でした。
しかし、現状はそんな個々の職員の頑張りに頼っているのが実情ではないでしょうか。

児相で働く方々はもとより、同じような思いで仕事をされている方もいると思います。
ぜひご意見をお寄せください。私たちもさらに取材を続けます。
おはよう日本ディレクター
中村 幸代
2015年入局
北九州局・福岡局を経て
去年から「おはよう日本」
社会格差や
子どもの貧困などを取材
国際部記者
白井 綾乃
2014年入局
岐阜局・名古屋局を経て
現所属
社会部記者
藤島 温実
2013年入局
高知局、熊本局、
警視庁担当を経て
現在は主に
教育・福祉分野を取材