「子どもたち、ごめんね」 “#教師のバトン”は、いまどこに?

「子どもたち、ごめんね」 “#教師のバトン”は、いまどこに?
「子どもがかわいくて裏切れないと思って、残業代が出ない中、みんな長時間勤務をしていますが、『子どもたち、ごめんね』と言いながら辞めていく教員も何人もいます」
いま、うつ病で休職している小学校教員の言葉です。
文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクト。
思わぬ展開となり“炎上”とも言われましたが、開始から1か月、投稿を分析していくと、過酷な労働実態だけでなく改善のヒントも見えてきました。
このバトン、どこにつながっていくのでしょうか。(社会部記者 能州さやか)

“#教師のバトン”から1か月~22万投稿の内訳は?

教員の志望者が減る中、文部科学省が3月下旬に始めた「#教師のバトン」プロジェクト。

現場の教員にツイッターなどのSNS上で「#教師のバトン」とつけて、働き方改革の好事例や仕事の魅力などの投稿を呼びかけました。

校長など管理職に許可を得る必要がなく、個人情報などを除けば自由に投稿して良いというもので、霞ヶ関に、そして社会に直接現場の声が届くような異例の企画でした。
しかし、実際に寄せられたのは過酷な勤務環境を訴える悲痛な声の数々でした。
開始から1か月、その後、バトンはどうなったのでしょうか?
NHKがこの1か月にツイッターで「#教師のバトン」というハッシュタグを含む投稿を分析したところ、投稿の数はリツイートも含めると22万5000件以上(含めないものは4万1000件余り)で、反響の大きさがうかがえます。
どんなキーワードが多くつぶやかれたのか見ていくと、上位はやはり「教員」「学校」「文科省」などが並びます。

そしてリツイートも含めてやはり多かったのは「部活」や「部活動」で、このうち「部活」は4万件以上に。

そして「残業」や「労働」「勤務」も多く、中でも「残業」は3万件以上。
「授業」「準備」「子ども」のほか、「保護者」「管理職」なども。
改革」という言葉も多く見られました。

リツイートを含めた投稿数の推移を見ると、直後の6日ほどは1万件を超え2万件近くに上る日も。

その後は減少するものの1万件を超える日もあり、直近でも8000件以上投稿された日があるなど、関心が続いていることがわかります。
実際の投稿をみていくと、「部活」について数多くリツイートされていた中にはこんな声が。
『彼氏も教師ですが、昨日一緒に寝ていると夜中突然バッと起きておかしい様子だったから「どうした?!」って聞いたら「明日の部活行きたくない…」って泣きながらポロッと一言。試合+審判で、審判の講習も自費、審判のための靴や服、小物まで自費。そして無給』
こんな声も。
『まだ中学校教員になって3週間も経ってないけど、正直この1年で辞めようかなって思ってる。理由は部活動。学級経営で頭がいっぱいで教材研究もろくに出来てないのに、放課後休日は部活動って意味わからん』
「残業」に関する投稿はこんな切実な願いも。
『3年勤めて精神疾患になりました。土日休めない。毎日残業。毎月90時間近くの時間外労働。死にたいってずっと思ってた。労働環境の改善こそが、これからの先生たちに届けたい本当のバトンです』

このバトンを、改革につなげたい!

くしくも、厳しい実態が可視化された今回のプロジェクト。
これを一過性のものにせず、実際の働き方改革につなげようと呼びかける人もいます。
教員の働き方の改善に取り組んできた名古屋大学大学院の内田良准教授は、4月18日に、現場の教員たちから話を聞くオンライン報告会を開催。400人近くが傍聴する中、小中学校の教員8人が匿名で参加し、現場の実情を直接語りました。
小学校で教員を務める女性
「今、うつ病で休職しています。自分は活発で、毎日外で子どもたちと楽しく遊んでいましたが、急にこうなってしまいました。実は周りに同じような状況の教員が3人いて、休まずに服薬しながら仕事を続けている人もいます。コロナがまん延していますが、教育現場もある意味、緊急事態です。『子どものために』という仕事が無限に出てきています。子どもがかわいくて裏切れないと思って、残業代が出ない中、みんな長時間勤務をしていますが、『子どもたち、ごめんね』と言いながら辞めていく教員も何人もいます」
子どもが好きで教職に就いたこの女性は、今では転職も考えざるを得ない状況だと、切実な思いを明かしていました。
中学校の男性教員からは、勤務時間をめぐってこんな実態が語られました。
中学校の男性教員
「月80時間以上の残業をする教員が多く、改善を求められた管理職がお茶を飲む時間まで勤務時間の申請から削るような指示がありました。働き方改革の観点から夜間の電話対応などをやめてはどうかと進言しましたが、『周りの学校がやっていないのに角が立つ』と言われて聞き入れられませんでした」
硬直化する現場もある中、投稿だけでなく、リアルな場でも徐々に始まった発信。
実際の改革につなげようという声も相次ぎました。

データも示す“世界一多忙な日本の教員”

日本の教員の過酷な働き方の実態が明らかになった1つのタイミングは、7年前の2014年です。
OECD=経済協力開発機構が5年に1度実施している世界各国の教員の勤務実態などの調査が前年の2013年に行われ、その結果が公表されたのです。

初めて参加した日本は、1週間あたりの教員の勤務時間がおよそ54時間と参加した34の国と地域の中で最も長く、平均の1.4倍に上ったのです。

その後も48の国と地域が参加した2018年の結果でも、1週間あたりの勤務時間は56時間とさらに長くなり、引き続き最長に。
内訳をみると、授業時間に大きな差はない一方、
▼部活動などの課外活動が7.5時間と平均の4倍、
▼書類作成などの事務作業も平均の2倍に上っていたのです。

働き方改革のバトンは現場に届いている?

“教師のバトン”も大事ですが、そもそも“働き方改革のバトン”は、国から各地の教育委員会、そして学校現場へと、渡されているのでしょうか。

例えば「部活動」について、文部科学省は、
▼部活動は必ずしも教員の仕事ではないとしているほか、
▼休日の部活動を地域の活動とすることで、
教員が携わらなくてもよくなる仕組みの整備を進めるとしています。

また「残業」に関わる点では、
▼閉庁日を設けることや、
▼タイムカードを導入して正確な勤務管理を徹底することを求めていて、
▼教員の残業時間の上限を月45時間とすることを「指針」で定めました。
ではその状況はというと、例えばタイムカードなど客観的に勤務時間を管理する方法については、去年9月時点の導入状況の調査で
▼都道府県の教育委員会では前年の66%が92%に、
▼市町村でも前年の47%が71%に上がっています。
数字上は導入が進んでいるように感じますが、「#教師のバトン」で投稿された声をのぞいてみると…。
『無理やり「定時に帰る日」を設定されて「持ち帰り残業」または「隠れ残業」。タイムカードに記載されず』

『仕事を減らすどころか増やし、人員はほぼ変わらず…それでいて早く帰れ!?勤務時間の過少申告と改竄の嵐が吹き荒れ始めた』
タイムカードも、上限45時間も、実際の働き方改革につながっていない現場があるようです。

働き方改革のヒントも…

こうした中、バトンをつなぐために具体的に改善して欲しい点や、現場で進んだ一歩も投稿されています。

すぐに部活の地域活動への移行が進まない中でも、こんな声が。
『部活顧問拒否、失敗しました。でも、休日活動なし、平日2日の活動なし、朝練廃止を管理職に確認しました。ちょっと前進』
残業については文部科学省に対して。
『文科省は教員の働き方のモデルを示してほしい。何時に出勤して、どんな風に授業をして、授業研究をして、残業をしないで帰るイメージなの?』
学校の電話を定時で留守電に切り替えることも有効のようです。
『保護者の理解はこの5、6年でかなり進んでいると思います。夜間の電話も少なくなりました。留守電に切り替えても、全く困らなかった』
教員を応援しようという雰囲気も出てきているようです。
『先生方には健康的な働き方を取り戻して欲しい。変わらなければ何度でも言うつもり。心ある保護者の方、ぜひ働きかけを』

『今日、生徒に「教師って残業代出ないんですよね?Twitterで見ました」と言われました。「お前あんまり先生に迷惑かけんなよ」と言っている生徒もいました』
このほかにも、多くの具体的かつ幅広い改善への提言が投稿されていました。

現場から国へ、この“バトン”を改革に

この「バトン」を文部科学省はどう受け止めているのでしょうか。
義本局長
「国としても現場から直接声を受け止める初めての試みで厳しい勤務実態を訴える投稿が多く寄せられた。社会から注目を集めたことを前向きに捉えつつ、教師の声を集積する役割を果たしていると思うのでこの声を推進力に、迅速に具体的に勤務環境の改善を進めたい」
1か月で22万件も集まった「バトン」。
文部科学省には、ぜひ言葉だけで終わることなく、いまこそ改革の成果を形にして可視化してほしいと思います。
そして名古屋大学大学院の内田良准教授は現場と国が連携することが改革のカギだと指摘します。
内田准教授
「これまで学校現場は『子どものために』とずっと足し算でやってきた。教員は夜遅くまで頑張ってこそ子ども思いだという文化も根強くあり、『つらい』と言えない。だからこそ匿名でも言えることが大事で、現場の状況が把握できなくては改善もできないが、今回、教員たちは多くの問題点を提示してくれている。同時に『こう改善したら実際に仕事が減ったけど、意外とみんな満足してるよ』といった声も届けていくと、それがハッシュタグによって1か所に集まる。国はその改善事例を全国に広げるなど、この想定外に集まった事実を、教員の長時間労働の解消に建設的に生かしていく必要がある」
過酷な働き方が続けば、教員がつらいだけなく、子どもたちにも確実にしわ寄せがいきます。
それはつまり、未来の社会にも影響することになります。
次の投稿にある願いがかなうように、このプロジェクトを引き続き注視していきたいと思います。
『あちこちで欠員が出てる。ごめんね、ごめんねって言い合ってる。子どもにもごめんねって思う。保護者にも申し訳ない気持ち。こんなバトンは引き継ぎたくない。今、教職を志す人たちが現場に立つ頃には、改善していますように』
社会部記者
能州 さやか