「在籍型出向」支援制度 約2か月で1700人余が利用

業績が悪化した企業の従業員が人手が足りない別の企業で働く「在籍型出向」を支援する制度を利用したのは、制度開始からおよそ2か月で1700人余りに上ったことが厚生労働省のまとめでわかりました。

「在籍型出向」は業績が悪化した企業が雇用契約を維持したまま従業員を人手が足りない別の企業に出向させるもので、雇用を守る取り組みとして広がっています。

厚生労働省は出向させた企業と受け入れた企業の双方に賃金などの一部を助成する「産業雇用安定助成金」をことし2月に新たに設け、新型コロナウイルスの影響を受けた企業などに活用を呼びかけています。

厚生労働省のまとめによりますと、制度が始まった2月5日から今月9日までに制度を利用したのは1761人に上ることがわかりました。このうち1276人、率にして72.5%が中小企業で働く人だということです。

従業員を出向させた企業の業種をみると
▽「運輸業・郵便業」が685人(38.9%)
▽「製造業」が494人(28.1%)
▽「宿泊業、飲食サービス業」が194人(11%)などとなっていて
航空や観光関連など新型コロナウイルスの感染拡大で大きな影響を受けている業種が多くなっています。

一方で従業員を受け入れた企業は
▽「製造業」が586人
▽「サービス業」が270人などとなっていて
人手不足などを理由に異なる業種から従業員を受け入れるケースは半数以上に上っています。
厚生労働省は、今年度の当初予算などでおよそ4万3000人分の利用にあたるおよそ580億円を確保していて「在籍型出向」の支援を強化したいとしています。

また「在籍型出向」を支援する労働局や労使の団体などでつくる協議会をことし6月末までにすべての都道府県で設置するよう求めています。

厚生労働省は、双方の企業と従業員が話し合って在籍型出向の期間や賃金などを決めるべきだとしています。

そのうえで、従業員の同意を得たり労働条件が不利とならないよう就業規則を整備したりすることを企業に求めています。

厚生労働省は「長期の休業よりも実際に働くことで就労意欲の低下を防ぎスキルの向上にもつながるので、支援制度を利用する企業は今後さらに増えるとみている。企業には出向させる従業員の同意を得ることや賃金が下がるなど不利益にならないよう呼びかけたい」としています。

課題も…

出向の支援などを行う財団法人の「産業雇用安定センター」は東京にある本部のほか47都道府県にそれぞれ事務所があり、およそ500人のコンサルタントが企業からの相談を受けています。

センターによりますと、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「在籍型出向」の相談や問い合わせが多くなり、昨年度、成立したのは3061人と前の年度より1821人増えて2.5倍近くになりました。

一方で課題も出てきているといいます。

異なる業種の企業に出向する場合
▽業務内容への理解が足りなかったり、これまでのノウハウの活用が難しかったりするほか
▽賃金の負担割合や働き方の違いなどについて双方の企業と従業員の間で話し合いがうまく進まないケースがあるということです。

また、出向の期間が短い場合は受け入れた企業から「従業員が職場や仕事に慣れたのに元の会社に戻ってしまう」という声も聞かれます。

このため産業雇用安定センターでは、従業員が出向先の企業を訪問し業務の内容や職場の雰囲気を知ることができる見学会を事前に開いたり、話し合いの機会を増やしたりしているということです。

「産業雇用安定センター」の金田弘幸業務部長は「コロナ禍で業績が好調な企業と悪化した企業の差が出ていて在籍型出向のニーズは高まっていると感じている。一方で出向する従業員からすると、異なる業種の場合は不安がとくに大きく丁寧な調整が必要で簡単に進むものではないのが現状だ」と話していました。

航空業界で「在籍型出向」進む

大阪 泉佐野市に本社がある「スイスポートジャパン」は関西空港でチェックインカウンターでの受け付けや貨物の積み込みなどの業務を行っています。

去年3月ごろから国際線の旅客便の大半が欠航している影響で従業員の多くを休業とし、雇用調整助成金を活用するなどして雇用を維持し続けています。

その理由は、将来、新型コロナが収束して航空需要が一気に回復した時に備えて経験のある従業員をつなぎ止めておくためです。

そこで会社が活用しているのが在籍型出向です。

去年12月以降、メーカーや物流会社などおよそ20社に300人ほどが出向しています。
スイスポートジャパンの武智聡社長は「航空需要が戻った時に会社の思惑どおりに人材を確保できるのか疑問。会社の財務が持つ間は経験やスキルのある社員の雇用を守ることが重要だ」と話しています。
スイスポートジャパンの従業員が「在籍型」で出向しているのが大手機械メーカー「クボタ」の大阪 堺市にある工場です。

コロナ禍の中でも海外向けの小型トラクターなどの需要が好調で人手不足の状態が続き、ことし2月にスイスポート社から8人を受け入れました。
そのうちの1人、矢野国義さん(31)は半年間の予定で在籍型出向しています。人件費は双方の会社が負担し給与は以前の水準が維持されています。

矢野さんは空港で国際線のチェックイン業務にあたっていましたが、去年3月以降は多い時でも月に1、2回しか仕事がなく、自宅での待機が続きました。

現在、工場で担っているのは完成したエンジンを検査に回すためにつり上げて移動させる作業で、慣れない仕事にはじめは戸惑いもありましたがようやく慣れてきたといいます。

矢野さんは「この1年ほど仕事がなく不安でしたが新しい職種で仕事を再開して生活の中に仕事があるのは大切だなと思いました」と話していました。

一方、受け入れ側のクボタにとって、人手不足の解消以外にも通常の採用に比べて安心して人材を雇用できるメリットがあると言います。
クボタ堺製造所の桂太郎勤労部長は「一つの企業である程度の期間勤めて社会人の経験も十分にあり安心して仕事を任せられる。少しでも雇用の確保に貢献できるよう在籍型出向を活用していきたい」と話していました。