謎を突き止める 図書館の力がすごかった

謎を突き止める 図書館の力がすごかった
「知り合いから借金をする際のマナーを知りたい」
「シンデレラのガラスの靴は本当にハイヒールなのか」
はたまた、
「100年前の牛乳瓶の正体を知りたい」

これらの相談、すべて図書館に寄せられたものです。わずかな手がかりからネット上で見つからなかった答えも、お目当ての本も探し当ててしまう。知られざる図書館の力です。

(ネットワーク報道部記者 林田健太 馬渕安代 田隈佑紀)

話題のツイッター

各地の図書館にどんな相談が寄せられ、どう対応したのか、ユニークな事例などを発信しているSNSが話題です。

それが国立国会図書館が運営しているレファレンス協同データベース事業のツイッター。
ここでの「レファレンス」とは図書館の資料を使い調べ物をサポートするサービスのことです。ツイッターでは全国857の図書館から集まったレファレンスの事例を毎日ピックアップして投稿しています。

“昔、読んだ本をもう一度読みたいが、あやふやな記憶しかない…”といった相談もよくあり、断片的な情報から、本を特定してしまう仕事ぶりも紹介されています。

相談1 “粉をかけられた人”の絵本を探して!

「年長か低学年くらいの時に読んだ絵本を探してほしい」

2年前、国立国会図書館国際子ども図書館に寄せられた相談です。
ただ覚えていることは多くありません。
・粉をかけられた人が寝ている間に仕事を始める話
・駅員が切符切りでいろんなところを切っていく
・ペンキ屋がいろんなところを塗っていく
・カラフルではない、どろんこハリー(絵本)くらいの色
出版社もタイトルもわかりません。

そこで司書はまず、依頼者の情報から、1980年から1999年ごろまでに出版されたと想定しました。

そしてキーワードから本を探し出せる国会図書館の検索システムで「粉」「仕事」「働」といった言葉を組み合わせていきました。所蔵している書籍には、あらすじを登録しているものがあり、キーワードで検索することができるのです。

しかし20冊以上がヒットしたものの、お目当ての話はありませんでした。

ひょっとして…

「ひょっとして、普通の絵本じゃないかもしれない」
そこで司書は別の方法を試みます。

当時、絵本の月刊誌が何種類かあり、書庫に出向いて、該当する年代のものを、1冊ずつ確認していったのです。

3種類目まではなかったものの、4種類目の月刊誌の1984年に発行されたものの中に、お目当ての話を見つけました。ただし“ペンキ屋”ではなく、“看板屋”がペンキを塗っていて、実際は「どろんこハリー」よりもカラフルでした。
国際子ども図書館の司書 林嘉信さん
「依頼された本が見つからないこともありますが、さまざまな方法を駆使して回答しています。探すてがかりになりやすいので覚えている情報をできるだけ正確に詳しく教えてください」

相談2 シンデレラのガラスの靴ってどんな形?

単に本を探すだけでなく、「これを知りたい!」という難しい相談に、全力で応える司書の姿も投稿から見て取れます。

去年、三重県の県立図書館に
「シンデレラのガラスの靴は絵本では、一般的にハイヒールの形で描かれています。靴の形状について資料があるのか知りたいです」と相談が寄せられました。

対応したのは、20年近い経験がある図書館司書の稲ヶ部明香さん。

まず、世界児童文学百科などの事典を広げたり、インターネットでも、検索しましたがガラスの靴の形状は載っていません。それでも諦めません。
三重県立図書館の司書 稲ヶ部明香さん
「もし卒論などで使いたいとしたら、“わかりませんでした”で終わらせては困るだろうなと思いました」

「研究の方向性だけでも示せるようなものを、みつけようと考えたんです」

“知りたい!”に全力で応える

稲ヶ部さんはシンデレラの原文と時代を細かく読み解いていきます。
“日本で知られているシンデレラの話はフランスの作家ペローのもの”
                
→ “しかし1697年に出版した原文の和訳本を読むと靴の形の具体的な言及はない”
                             
→ “だが物語にはペローが仕えたルイ14世の宮廷のモードが取り入れられてる”
                
→ “宮廷では男女ともにヒールの靴を履いている”
ガラスの靴について時代背景から、そう考察したうえで、今度はフランス国立図書館のサイトを調べました。

そして辞書を片手に、1777年に再版された本の挿絵の中にガラスの靴を発見するのです。
またほかの書物や論文にもあたり、絵本によって靴の形が異なること、ヒールの高い靴として描かれ始めたのは1900年前後の可能性があることなどとまとめ、依頼者に報告しました。

費やした時間は3週間でした。
三重県立図書館の司書 稲ヶ部明香さん
「ネットで調べられる時代に、わざわざ図書館に聞くのは『なんとかしてくれる』という期待だと思います。どんなに難しい相談でも何か見つかるに違いないと信じて調べています」

相談3 道ばたに落ちていた牛乳瓶の起源を知りたい

こうした、こん身のレファレンス、その中から特に優れたものを「レファレンス大賞」として表彰する取り組みも6年前から行われています。

去年、審査員特別賞となったレファレンスは、「道ばたに落ちていた100年前の牛乳瓶の起源を突き止める」という推理小説のような実話でした。
2年前の夏、1人の女性が突然、牛乳瓶を持って鹿児島県指宿市の図書館にやってきました。

「この牧場が今のどこの住所にあるか知りたい。昔の地図か電話帳ないですか?」

道ばたで見つけたという泥だらけの牛乳瓶には、「林山牧場」という名前と「27」という2桁だけの電話番号が記されていました。
牛乳瓶を見つけた女性
「このあたりには牧場なんてないし、痕跡もない。図書館に行けば何かわかるかもしれないと思ったんです」

人から人へ

司書が対応したものの、地図や資料は見つかりません。図書館としては手の打ちようがないように思えます。

一時は諦めかけたところ、館長の下吹越かおるさんが言いました。
「90歳すぎのあの人に聞けばわかるかも」

下吹越さんは、地域をよく知るお年寄りに電話をかけました。レファレンスは図書館を飛び出し、地域に広がったのです。

すると「知っているよ」という返答がありました。
指宿市立指宿図書館長 下吹越かおるさん
「『知ってるんだ!』って思い、そこで司書の魂に火がつきました」

「そこから一生懸命に、次はこの人、その次はこの人って紹介してもらって6人目でなんと牧場の経営者の直系の孫にたどりついたんです」

“生きててよかった”

孫にあたるのは中村忠生さん(82)でした。

台湾で生まれた中村さんは「母から指宿の実家は牧場だと聞いていて、戦争が終わればおいしい牛乳がたくさん飲めると思っていた」と振り返ります。

しかし、牛乳配達をして牧場を支えていた経営者の2人の息子は戦死。

中村さんが8歳で指宿に来た時、牧場はすでに閉鎖されていました。

口にしたいと思っていた牛乳。

長い時を経て、その牛乳が入っていた瓶が中村さんに手渡されました。
牧場経営主の孫 中村忠生さん
「びっくりしましたし、おばあちゃんを思い出しました。2人の息子を戦争で亡くして、牧場も続けられず悔しかったんだろうなと。でもまさかこんなのが残ってるなんて、生きててよかったなと思います」
今、その牛乳瓶は先祖が眠る仏壇の花瓶として大切に使われています。

レファレンスの究極は『人』

調査の過程で、最初に瓶を見つけた女性がツイッターで発信したところ、「大日本牛乳史」という資料の中に牧場に関する記述があること、電話番号の「27番」が市の中心部にあたることなど住所に関わる情報も寄せられ、確認に役立ちました。
指宿市立指宿図書館長 下吹越かおるさん
「資料でわからないところは人に聞く。レファレンスの究極は『人』だと思っています」

「図書館員が探し出せないことも地域の人が見つけて、それを図書館が資料として確認する。今の時代は、みんなが一緒に調べられる時代なんだと感じました」

調べるっておもしろい

ネットで検索すればいろいろな事が瞬時にわかる時代。それでも、なかなかたどり着けない情報があります。

そこを地道に資料にあたったり、人づてに聞いたりして目的に近づいていく。

“知りたかったことがわかる”そのおもしろさを提供するのも、図書館の持つ魅力だと感じました。
指宿市立指宿図書館長 下吹越かおるさん
「『知りたい』を自分の中だけに収めるのではなく、地元の図書館に相談してほしい。知りたかったことを知り、生きる糧や楽しみにしてほしい」

「“あー調べるっておもしろい!”って感じることが次の知りたいにまたつながると思っています」