持続化給付金詐欺 不正連鎖の実態

新型コロナで経済的に苦しむ人たちへの給付金。悪用される事件が相次いでいます。中でも5兆円が投入された「持続化給付金」の詐欺では、さまざまな職業の人たちが逮捕されました。中でも異質だったのは、主婦グループの間で不正が広がった、関西の事件でした。
(大阪放送局記者 高橋圭太、NHKスペシャル「コロナ犯罪」取材班)

意外な顔ぶれ

新型コロナの影響で売り上げが前年から50%以上減少した中小企業の事業者に最大で200万円、個人事業主には最大で100万円が支給される「持続化給付金」。

困っている人を迅速に助けるため、手続きは確定申告書や売り上げ台帳、本人確認の書類などを用意すれば、比較的簡単にできるものでした。

職業を偽り、でたらめの売り上げを記した書類を用意して、給付金をだまし取る手口が相次いだのです。

去年の夏から摘発が始まり、学生、新聞社の社員、税務署の職員までもが逮捕されましたが、中でも異色だったのは大阪府警が摘発した事件でした。

主婦仲間で広がった不正

主犯として逮捕・起訴されたのは、平川誠被告(44歳)。

妻の明希被告(33歳)と、知り合いを介してつながった中村紀代子被告(57歳)も起訴されました。
押収されたパソコンや携帯電話には持続化給付金の申請に必要な銀行口座や、運転免許証など不正受給に協力したとみられる250人分のデータが残されていました。不正受給が疑われるのは全部で3億円。この中に、複数の主婦が含まれていたのです。
捜査に当たる大阪府警の担当者もいぶかしがります。
大阪府警 生活安全特別捜査隊 畠久保毅 第一中隊長
「今把握している中では、申請者は60代までの幅広い年齢層の人たちです。私から見ても『なんでこんな一般の人が犯罪に手を染めてしまったんだろう』と、首をかしげてしまうところもあります」

仲間のランチ会で

警察への取材で、中村被告を中心にした主婦仲間に、不正が広がっていたことが分かってきました。

まず誘われたのは中村被告の友人のA。50代で、保険関係の仕事をしているといいます。

女性Aの供述
「中村とは30歳すぎに知り合い、時々飲みに行く関係でした。去年5月ごろ、中村に勧められて不正受給をしました」

Aは誘いに応じ、自分の個人情報を中村被告に渡しました。これを元に平川被告らがうその申請を行い、Aに100万円が振り込まれました。このうち40万円をAが受け取り、残りの60万円を中村被告に手渡したといいます。

Aの幼なじみのBも100万円を不正受給。去年の夏ごろ、AとBは喫茶店で主婦仲間のCとDにも不正受給を持ちかけました。

女性Cの供述
「去年の夏ごろ、4人でランチをした時に不正受給を誘われました。『捕まらないか』と聞いたところ、『ちゃんとしているから』と言われ、カネに目がくらみ、大丈夫だと思いました」
不正はさらに広がっていきます。Cの友人、Eも不正に手を染めました。

女性Eの供述
「Cから『不正受給でカネが手に入る』と教えられ、手続きをしました。『自分の取り分は30万円で、70万円は手数料として渡さなければいけない』と言われました。ばれないと思いました」

“お金入った?”“入ってへん”

不正拡大の中心になった中村被告とはどんな人物なのか。周辺を取材しました。連日、近所に住む人や行きつけだったという飲食店などを訪ねて回り、数十人に会いました。

中村被告は小さな清掃会社の代表をつとめていて、「車に仕事道具を積み込んでいる様子をよく見た」と話す人もいました。実際、近くにずっととめられていた小さな車には清掃用具が積まれていました。

一方で、「不正受給を誘われたが断った」と話す女性もいました。まじめな職業人と、不正受給の中心人物。どちらが本当の顔なのか。

取材を続ける中で、中村被告をよく知っているという男性に話を聞くことができました。明るく、慕われる性格だったといい、不正に関わったのを信じられない様子でした。
中村被告をよく知るという男性
「あの奥さんがぱくられんの?何したん?陽気なお姉さんとしか知らんから。明るく優しい、普通のお姉さん。もうみんな友達やもんな。慕っている人もけっこういてる」

一方で、行きつけの喫茶店で中村被告の主婦仲間が、こんな話をしていたと明かしました。

男性
「持続化給付金の話してはって、『(お金)入った?』『入ってへん』って言ってはった」
「中村被告と知り合いやわ。みんな知り合い。地元で大きいお祭りがあるからな」
中村被告の地元の知り合いが、持続化給付金について話していたというのです。

不正をしていたのかどうかは分かりませんが、持続化給付金の話がさらに広がっていたことはうかがえました。

「手数料」で不正が連鎖

不正はなぜ広がっていったのか。

全国で相次ぐ不正受給の実態に詳しい捜査関係者に取材すると、主婦たちから中村被告に支払われた「手数料」が鍵だと話しました。

人を紹介すればするほど金が入る仕組みになっているというのです。
捜査関係者
「『給付金をもらわないか』と、メンバーがいろいろな人に声をかけていきます。紹介することに対し、『手数料』が発生します。ねずみ講のような形です。『紹介した』というだけで、お金が舞い込んでくるのはやはり大きいです。紹介する側も、紹介を受けて不正受給する側も、どちらも得をします。どちらにも一定のお金が入るというところが、不正が広がっていく一つの要因です」
また、特定の人をだますのではないので罪悪感も薄かったのではないかと指摘します。

捜査関係者
「国民の税金なので、公金をだまし取っていることには変わりはないのですが、一個人からお金を取っているわけではありません。それが被害を与えているという気持ちが薄い一因になっていると思います」

主婦グループから中村被告に支払われた手数料。大部分は平川被告に渡ったとみられています。

平川被告の駐車場には、ランボルギーニ、ベントレー、フェラーリ、ポルシェ、4台の高級車がありました。

不正受給した金の多くを吸い上げたとみられる平川被告。警察の調べに「一切身に覚えがありません」と否認しています。

“後悔しかない”“友達に罪”

一方で、不正に手を染めた主婦たちは反省した様子で、取り調べに応じているといいます。

女性Eの供述
「当時お金に困っており、お金欲しさに頼みました。本当に軽率なことをしたと後悔しかありません」

女性Bの供述
「お金が楽に入った喜びから、別の友人にも教えてしまいました。軽率な行動は、友達に罪を犯させる結果にもなってしまったのです」

越えてはならない一線

感染拡大が続き、3度目の緊急事態宣言が出されました。長期化するコロナ禍の中で、経済的に苦しい人は増えています。

清掃の仕事を続けていた中村被告や、主婦仲間たちもある面では普通の人たちでした。コロナで苦しい思いをしていたのかもしれません。

一方で、私は日々の取材の中で、ハローワークで仕事を探す人、家も仕事も失って支援団体に相談に来た人など、困難を抱えているたくさんの人たちに会いました。

当たり前の事ですが、困っている人が必ず不正を行うわけではありません。そこにはやはり、簡単に越えてはいけない一線があると感じました。