「訪問入浴」新規利用停止相次ぐ 人材確保が深刻な課題 金沢

専門のスタッフが自宅で入浴をサポートする「訪問入浴」の介護サービスについて、金沢市内の3つの事業所が新規の利用申し込みを受けられないか、訪問しやすいエリアの人に限定せざるをえない状態になっていることがわかりました。
背景にはスタッフの人材不足があるということですが、利用を断られたALSの患者が長期間入浴できないケースなども出てきていて、人材の確保が深刻な課題になっています。

「訪問入浴」は看護師など3人以上の専門スタッフが利用者の自宅を訪問し、持ち運びできる専用の浴槽を使って入浴をサポートする介護サービスで、通常の訪問介護では入浴が難しい、寝たきりのお年寄りや、重度の障害がある人たちにとって欠かせないものになっています。

しかし、金沢市では市内の3つの事業所がいずれも新規の利用申し込みを受けられないか、スタッフが訪問しやすいエリアの人に限定せざるをえない状態になっていることがわかりました。

事業所によりますと従来、介護保険制度で得られる収入が限られ、ぎりぎりの人員でサービスを提供していた中で、スタッフの退職が相次いでいます。

さらに新型コロナの感染拡大以降、病院や施設での治療や介護を避け在宅サービスを利用したいという人が増えたことも重なって体制のひっ迫につながったということです。

市内では利用を断られたALSの患者が4週間もの間、入浴できないケースなども出てきていて、人材の確保が深刻な課題になっています。

「訪問入浴」とは

「訪問入浴」のサービスは、スタッフ1人で自宅を訪問する「訪問介護」とは異なり、看護師や介護職員3人以上の体制でサービスを提供します。

入浴の前には看護師が体温や血圧を図って、利用者のその日の健康状態をチェックします。

持ち運び式の浴槽を使い、スタッフが声をかけるなどしながら、頭や背中、足などすみずみまで時間をかけて洗います。

皮膚を清潔に保ち、血液の循環もよくなって筋肉や関節の痛みもやわらぐということです。

利用者の多くは要介護度の高いお年寄りや、重度の障害がある人たちです。

息子が交通事故で重い障害を負い、訪問入浴のサービスを利用している石川県津幡町の女性は「体をふくだけでは、においも取れないし、夏場になると皮膚のトラブルにも悩まされます。訪問入浴を受けた日の夜は、息子はいつもぐっすり寝ています」と話していました。

利用が必要な人の声

金沢市では、訪問入浴の利用が必要な人に大きな影響が出ています。

高橋利子さん(48)は、去年10月、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病のALSと診断されました。

先月、病院から自宅に戻り、夫やヘルパーの介護を受けながら生活しています。

障害の程度が重く、夫やヘルパーの介助では入浴が難しいことから、ケアマネージャーを通じて、訪問入浴を申し込みましたが、すべて断られたということです。

高橋さんは、退院から4週間がたっていましたが、1度も入浴することができず、体のかゆみなどにも悩まされていました。

高橋さんは、「何度も事業所に連絡し、1度は訪問入浴を利用できると返事をもらいましたが、前日になって『スタッフが退職した』という理由で、キャンセルになってしまいました。食べることや排せつと同じくらい、清潔であることは大事で、この先もお風呂に入れないと思うと、本当につらいです」と話していました。

訪問入浴サービスの事業所では

金沢市にある訪問入浴サービスの事業所、「オークスライフケア金沢」では、新型コロナの拡大以降、病院や施設での治療や介護を避けて「在宅」を選択したとみられる要介護度の高いお年寄りなどの利用が重なりました。

感染拡大前は、100人前後で推移していた利用者が、先月の時点で140人にまで増えていましたが、こうした中、2人の常勤スタッフが最近相次いで退職したということです。

現状では十分な体制が組めないとして、先月以降に寄せられた10人の新規の利用者の申し込みを断らざるを得なかったということです。

しかし、スタッフの待遇を上げたり、新たに求人を出したりしたくても、人件費に割ける金額は限られているということです。

訪問入浴の介護報酬の単価は「1回いくら」という形で定められているため介助に時間がかかる人の場合でも加算はなく、この事業所の場合、訪問入浴の赤字をグループのほかの事業の利益で補填(ほてん)する形で、サービスを維持してきたということです。
「オークスライフケア金沢」の中島敏勝さんは、「待遇を上げられないことに加え、入浴の仕事は体力的に厳しいイメージがあることも人材確保を難しくしています。若い人が入ってきてくれるような仕事でなければ、この先も厳しいと感じています」と話しています。

専門家は

訪問入浴の事業者を取り巻く状況について、介護の問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授は「訪問入浴サービスの今の単価で事業を運営するのはなかなか難しく、全産業に比べて賃金が安いことも、人材不足につながっている。現場の待遇を改善するために介護報酬を引き上げるべきだが、そのためには国民の負担も増えるため、合意の形成が必要だ」と話しています。

また、結城教授が全国の「訪問介護」の事業所を対象に行った調査では回答した107の事業者のうち、4割近い39の事業所が「新型コロナの影響で離職したり休職したりしたスタッフがいる」と回答したということで、全国的には、こうした状況も現場の人手不足に拍車をかけているとみられます。

厚生労働省では

厚生労働省によりますと、訪問入浴の事業所は去年12月の時点で全国に1600余りあります。

一方、経営状況について行われた調査では、事業所の40%以上が、赤字を抱えていて、経営難や人手不足は全国に広がっています。

厚生労働省老健局は取材に対し、「事業所の数は減少し、1事業所当たりの訪問入浴介護の利用者は増えている。地域の事情によって希望する人がサービスを利用できない事態が起こることは否定できない」としています。