ビジネスパーソンこそPTAに!

ビジネスパーソンこそPTAに!
経営の専門家が言いました。

「第一線で働くビジネスパーソンこそPTAに参加するべきだ」と。

ところが、ネット上にはこの時期、役員決めなどをめぐってネガティブなことばがあふれています。

きょう私たちがプレゼンするのは、マネジメントの視点から考える「PTA」です。これまでの見方がちょっと変わるかも知れません。

(ネットワーク報道部 記者 小宮理沙/高杉北斗/杉本宙矢)

マーケットリサーチ

まず、本題に入る前に少しだけネットの声を紹介させてください。

新学期がスタートしたこの時期は役員決めなどPTAにとっても大事な季節。

ネット上には保護者たちのさまざまな投稿があふれています。
「PTAの役員決めの件考えてたら寝れない マジでやりたくない…」
「恐怖のPTA役員決めがあるので泣く泣く行ってきます」
「誰かが役員をやってくれないかな」、そんな心の声も聞こえてきそうですが、ことしは少し事情が違うようです。
「立候補が多いなと思ってたら、今年はコロナの影響で明らかに活動が少ないから、ねらい目ということらしい」
「今年はコロナ禍でPTA活動が少なくて済むと目論み、立候補者が乱立でした」

ダイバーシティー

本題に入ります。

企業経営の専門家によると敬遠されがちなPTAの運営には、ビジネスに役立つマネジメントのノウハウが詰まっているというんです。

そう話すのは、情報経営イノベーション専門職大学でベンチャー戦略などを専門に教えている川上慎市郎准教授。

公立小中学校で5年間にわたりPTA会長を務めた川上さんが注目するのは、企業に求められる組織の運営との類似点です。

いま、企業ではさまざまな背景や事情を抱える社員が力を発揮できるよう「ダイバーシティー(多様性)」という考え方が求められています。
PTAのメンバーにも年齢や性別、性格だけでなく、共働き家庭や専業主婦など事情が異なる人たちがいて、毎年、役員が替わっても継続したパフォーマンスが求められます。

川上さんは組織の運営にはリーダーがPTAのイベントや取り組みが目指すゴールを明示して、活動の必要性や道筋を丁寧に伝えることが必要で、会社におけるプロジェクトとも共通する考え方だといいます。
川上慎市郎さん
「PTA活動では参加者のあいだでコミュニケーションルールを確立できるかが試されます。女性の割合が高いことが多く、家庭事情もますます複雑になるなかダイバーシティーをうまく取り入れることが重要です」
川上さんが会長に就任した当初、役員をやりたがる人はほとんどいませんでした。

連絡はすべて紙で行われ、会議は平日の昼間に集まって行われていました。

仕事のある保護者は参加しづらい一方、専業主婦の女性役員のなかには活動を押しつけられたように感じる人もいて、モチベーションは高くなかったといいます。

そこでSNSやクラウドサービスなどを導入し、IT技術に詳しい保護者にウェブサイトを作成してもらうなどして、会議の告知や議事録を共有。

集まらなくてもできる活動を増やすことで負担を減らしました。

毎年、役員が変わっても対応できるよう作業をマニュアル化したり「キカイが苦手…」という人のためITの講習会を開いたりもしました。

その結果「PTAがめっちゃラクらしい」と保護者の間で評判となり、子どものために参加したいと役員の希望者が「2年待ち」になったということです。
川上慎市郎さん
「メンバーがそのつど、目的を設定しコンセンサス(合意)を形成しながら柔軟に対応する組織がますます求められる時代です。多様な人材をまとめあげるビジネスパーソンこそ、PTA活動から学ぶことが多いでしょう」

ビジョン & ミッション

ここで、そもそもPTAは何のためにあるのか、確認します。

ビジョン(目指す将来)は「子どもの健やかな成長を図る」こと。

そのために、親(Parents)や教師(Teachers)が互いに協力し合い、学校に関するさまざまな取り組みをサポートしていくことがミッション(果たすべき務め)です。
具体的な活動例としては運動会やバザーの手伝い、登下校の見守り、ベルマークの回収による学校に必要な物品の購入などがあります。

ただ、いつ、どのような活動をするかはPTAごとに決めることができます。

おさえておきたいのは、PTAは任意団体で、“必ずやらなければいけないわけではない”という点です。

専門家の指摘にあったとおり、大切なのは組織や活動が形骸化したものにならないよう役員会で説明・議論し、メンバー1人1人の積極性を引き出すことにあります。

メリット・デメリット

それでもPTAの活動を重荷に感じる、という人もいると思います。

そこで、PTAにジョイン(参加)した場合のメリットとデメリットを整理してみました。
まずはメリットです。
ネットワークが広がり、情報網を構築できる

個人的な交友関係や仕事以外で、さまざまな人と知り合うことができます。

子どもに関する話だけではなく、生活やビジネスに役立つ情報も思わぬところから入ってくるかもしれません。

課題解決しやすい

団体として学校側にアプローチすることで個人で先生に相談するより問題意識が共有されやすく、結果として子どもの生活環境などの改善につながりやすくなります。
続いて、デメリットです。
時間をとられる

仕事や家事が忙しいと負担に感じるケースがあります。

人間関係のストレス

仕事でも起こりうることですが、メンバーどうしの相性が悪かったり、活動の内容や方針について意見が合わなかったりして、ストレスを抱えることもありえます。

サステイナビリティー

話をマネジメントに戻しましょう。

PTA活動には、誰もが参加できるダイバーシティーという視点が求められることはお伝えしました。

こうした視点がコロナ禍でも継続して活動できる、サステイナビリティー(持続可能性)を組織にもたらしたケースもあります。

東京都小学校PTA協議会が去年7月に公表したコロナ禍のPTA活動についてのアンケート結果によると、加盟207校の58%にあたる122校がPTA総会を「開催した」または「開催予定」と回答しました。
開催方法について複数回答で尋ねた結果、「書面」が最も多く78.7%。

次いでWEB上で意見を集める「アンケートフォーム」が30.3%、「オンライン会議」が3.3%などと、コロナ禍というかつてない状況の中、集まらずにすむ方法で対応しようとしたことが伺えます。

川上さんが会長を務めていたPTAでは、IT化を進めていたおかげで連絡や議論に影響はなかったということです。

キャリアアップ

PTAでのマネジメントが結果として自身のキャリアアップにつながったケースもあります。

埼玉県富士見市の小学校でPTA会長を務める熊谷麗さんは、この春から市議会議員として活動しています。
「今の時代にあったPTA」を掲げ、役員の選出もクラス単位ではなく学年全体からとするなど柔軟に対応することで立候補しやすい環境をつくり、必要のない仕事を見極めてスクラップするなど周りと協力して改革を進めたそうです。
地域の人たちとの新たな人脈もでき、学区にとどまらず子どもたちの成長をサポートしたいと政治の世界に飛び込む決心をしました。
熊谷麗さん
「PTAも議員も自分の考えと違う意見をたくさん聞きますが、柔軟な姿勢で向き合うことで全体をよい方向に持って行くという共通点があります。PTAのノウハウは今の活動にも生きていると思います」

システムのアップデートを

PTAを変えるためには、まず思い込みをやめなければならない。

そう指摘するのは、ことし3月まで公立の小学校のPTA会長を3年間務めていた、政治学を専門にする専修大学の岡田憲治教授です。
岡田教授によるとPTAは戦後、民主主義教育の一環として委員会制度などを取り入れてスタートしましたが、次第に前年踏襲型の硬直化した運営となり、誤った理解が広がっているといいます。
岡田憲治教授
「本来、見返りのないボランティアであるのに『一人一役が義務』といったイメージに多くの女性たちが苦しみ、男性たちは仕事を理由に『無理だ』と避けていました。私自身、暇な人がやっているという偏見がありました。やらされるPTAから抜けだし、自分たちでやり方を決めていいのです」
岡田教授はPTAのネガティブなイメージを払拭しようと、早くから組織改革に乗り出したフロントランナーを紹介してくれました。

東京・大田区嶺町小学校では平成26年度からPTAの委員会制度を全廃して完全ボランティア制に移行し「役員会」の名称を「ボランティアセンター」と変え、できるときに参加する方式としました。

代表によるとメンバーは1つの役職に専念する必要はなく、手が空いたときに気軽に活動できると評判が広がり、以前よりも参加者が増えたそうです。
岡田憲治教授
「PTAが抱える問題は子どものために何かしたいと考えている保護者が参加できる環境が整っていないことです。実際、役員会の開催時間を土曜日の午前に変えただけでパパ役員が5人増えました。古いシステムをアップデートしなければなりません。苦労ばっかりしょい込んでやる必要はなく、体の力を抜いて活動しようよ、と伝えたいですね」

コンクルージョン

岡田教授はPTA活動に関わるすべての人に大切にしてほしい10のメッセージを教えてくれました。

PTA「思いだそう10のこと」

1、自発的に作られた「任意団体」です。強制があってはなりません。

2、加入していない家庭の子どもを差別しません。企業ではないからです。

3、人が集まらないなら、集まった人たちでできることをするだけです。

4、「労働」ではありません。対価のないボランティア「活動」です。

5、ボランティア活動は、もともと不平等なものです。でも「幸福な不平等」です。

6、活動はダメ出しをされません。評価はたったひとつ、「ありがとう」です。

7、活動は生活の延長にあります。家庭を犠牲にする必要はありません。

8、あまり頑張りすぎてはいけません。前例となって「労働」を増やします。

9、学校を応援しますが指導はされません。学校と保護者は対等です。

10、義務は一つだけです。「何のためのPTA?」と考え続けることです。
みなさん、PTAに対するイメージ、変わりましたか?新たなマインド(意識)で、PTAを見つめてみてはどうでしょうか。

以上、プレゼンでした。