トンネルの先に光は… 東京オリンピックへのカウントダウン

トンネルの先に光は… 東京オリンピックへのカウントダウン
この春、オリンピックでも期待されるアスリートたちの活躍が目覚ましい。しかし、その姿も新型コロナウイルスの感染の波によってかき消されようとしている。
聖火リレーやテスト大会といった本番に向けた重要なイベントも、コロナ禍における理想と現実のギャップに直面し続けている。
「東京大会をトンネルの先にある光にしたい」。
去年、IOCのバッハ会長が東京で発したメッセージ。7月23日の開幕まで3か月。トンネルの先で私たちが目にするものは…。
(スポーツニュース部 記者 松山翔平/今井美佐子/沼田悠里)

輝き放つスポーツの“力”

4月。アスリートが放つ輝きに目を奪われる印象的なシーンが続いた。
1つは競泳の日本選手権での復活劇。白血病との闘いを経て池江璃花子選手が3年ぶりに4冠を達成。リレー2種目で東京オリンピックの切符を手にした。
もう1つはゴルフのマスターズ・トーナメントでの快挙。松山英樹選手が日本男子ゴルファーの悲願だった海外メジャー大会を初制覇。憧れのグリーンジャケットに袖を通し高々と両腕を突き上げた。
2人が改めて示したのはスポーツが持つ“力”。
アスリートが抱き続けた夢や積み上げてきた努力が発露する瞬間にもたらされる喜びや感動は特別な価値を持つということだった。

ただ現状では、この活躍が夏の東京オリンピック開催に向けた機運を高めることとは直接結び付いていない。

『まん延防止等重点措置』
『3回目の緊急事態宣言』

そして、日常となった新型コロナの感染者数を伝えるニュースにかき消されるかのように「選手の努力とオリンピック開催は別問題」という空気が広がる。

松山選手は優勝後のインタビューで、オリンピックについて尋ねられるとはっきりと「金メダルを目標に頑張りたい」と答えた。ただ、そのことばには前置きがあった。

「無事、開催されれば」と。

“希望の光”のリレー

大会開催への機運を盛り上げるため、関係者が起爆剤として期待した聖火リレー。3月25日、福島県で行われた出発式典では印象的なシーンがあった。
公式アンバサダーを務める石原さとみさんの言葉だ。
石原さとみさん
「聖火リレーに対する考えはさまざまであっていいと思っています。その判断は間違っていないと思います。ただ目標があるということは生きる希望になる。ランナーだけでなく多くの方が目標を持って前向きに生き抜いてほしい」
新型コロナによってオリンピック開催や聖火リレーを疑問視する声。相次ぐ著名人ランナーの辞退。
難しい状況の中でスタートを切らざるをえない聖火リレーの現状を物語っていた。

それでも、そこで語られた“聖火のともし火は希望の光”というメッセージ。これが全国をリレーされていくことで、大会への機運も膨らむのではないか。そんな希望と高揚感を感じる聖火リレーのスタートだった。

聖火リレーの“ジレンマ”

スタートから1週間。
その小さな希望の光にも、新型コロナは容赦がなかった。

4月1日、大阪府の吉村知事が「大阪市内でのリレーを中止すべき」と発言。この日の表明が寝耳に水だった組織委員会ではあったが、その方針を受け入れざるを得なかった。

新型コロナ対策のガイドラインでは、都道府県に緊急事態宣言などが出ている場合は、実施方法を変更することもあるとしている。そういう意味では「想定の範囲内」の対応ではあったが、スタートから1週間での計画変更は、聖火リレーのその後を左右する分岐点になった。
ほどなくして松山市でも公道でのリレーが中止され、沖縄県でも本島の公道を走るコースの中止が決まった。

組織委員会の幹部は「できない自治体では無理はしない。走らなくても聖火はつながる」と割り切るしかなかった。

「公道でリレーをしなくても聖火はつながる」

組織委員会がそう強調する背景には、聖火リレーが抱える“ジレンマ”がある。

人々の関心を引き、機運を高めるという目的と、感染対策による密集を防ぐという、相反する2つを同時に進める難しさだ。
スポンサーの車両が大音量で先導するリレーの在り方についても疑問を投げかける声が上がっている。

感染対策を取りながらイベントを成功させる、大会本番への「試金石」と位置づけられていた聖火リレーだが、今のところ不安の声の払拭(ふっしょく)や機運の醸成につながる気配は見えない。

“火を見て何を思うか”

オリンピック・パラリンピックの理念に詳しい中京大学の來田享子教授は指摘する。
中京大学 來田享子教授
「聖火リレーを人がつないで走ることを楽しみにしていた方がいるので、その人たちのために、というのはあったと思うが、リレーでなくてもいいという考え方もある。いろいろな街で関わってもらう予定のところや、コロナでいろいろなことを諦めなきゃいけなくなった人もいる。そこに象徴的に火をともすということができれば、それでいいという考え方もある」
物理的な「リレー」ではなく“象徴的に火をともす”。
その真意を尋ねると。
中京大学 來田享子教授
「物理的に火をつなぐということより、聖火を見て何を思ったのか、その思いを残すことのほうが今回のオリンピックの姿を象徴するのではないか。医療従事者や困難な人の中には励まされた思いになる人もいるだろうし、『今はこんな状況じゃない』と思う人もいて、それでいい。それが社会なので。聖火を見て何を思ったのかが大事であり、それが未来のオリンピックやその理念を作っていく」

想定外に直面 テスト大会

聖火リレーのほかにも想定外の事態に直面しているものがある。運営面の課題を洗い出すために本番会場を使って行われる「テスト大会」だ。
本番を見据えた重要なリハーサルの場になるはずだったが「まん延防止等重点措置」が埼玉や千葉など4県に拡大された4月16日、自転車BMXフリースタイルのテスト大会の延期が発表された。

テスト大会の延期は、これが4大会目。ことし3月から各競技で再開される予定だったが、その開催さえままならないという異常事態となっている。

延期の舞台裏は~飛び込みテスト大会~

大会の開催を難しくしているのは何か。
延期された飛び込みのテスト大会の舞台裏を取材すると、海外から入国する関係者のコロナ対策をめぐる調整の難しさが浮かび上がってきた。

対策が足りないのではない。
“対策しすぎ”が焦点になったのだ。
飛び込みのテスト大会は、世界各国・地域のオリンピック最終予選を兼ねて国際水泳連盟が主催し、国内外から選手や関係者およそ600人が参加して、4月18日から23日まで東京で開催されるはずだった。

しかし、政府の水際対策によって海外からの日本への入国は認められていないため特例として入国を認める代わりに厳しい防疫措置が必要とされた。

その1つが、選手・コーチ以外の関係者は、入国から3日間は宿泊先から1歩も出られない“缶詰状態”の隔離だ。

これに強く反発したのが国際水連だった。「競技役員などが会場に行けないと大会の準備を進められない」と国際水連は一時、大会の中止もちらつかせて制限の緩和を要求。間に入った組織委員会は、政府などとの調整に奔走した。

その結果、関係者は外部と接触しないようにするいわゆる「バブル」の状態を確保すればホテルと競技会場を行き来できるという条件で双方がなんとか折り合い、大会の日程を延期することで決着がついた。

“+おもてなし”プライドをかけて

こうして5月1日から開催されることになった飛び込みのテスト大会。

30の国や地域から訪れる審判などの関係者およそ70人を受け入れるのが、東京 江東区に去年オープンしたばかりのホテルだ。
開催をめぐるゴタゴタに振り回されながらもコロナ対策の肝である「バブル」を担う立場から、綿密に受け入れ態勢を練ってきた。

最も頭を悩ませたのが、ほかの宿泊客と動線をどう分けるかだ。そこで大会関係者のホテルの出入りには、一般の客が通らないスタッフ用の裏口を使うことにした。

エレベーターは専用に1機確保、さらに関係者の宿泊するフロアしか停止しないように設定する徹底ぶりだ。

隔離された環境下でも快適に過ごしてもらおうという心遣いも忘れていない。日本が世界に誇る「おもてなし」だ。

その1つとしてこだわったのがホテルでの食事。
「バブル」の環境下で、自室で食べられるテイクアウト形式だが、料理が冷めにくい容器を用意。ヴィーガンやハラールといった多様な価値観に応じた弁当の準備も抜かりない。
東京イーストサイドホテル櫂会 多田敬一営業部長
「安全を最優先しながらおもてなしができるかはすごく難しいが、海外からの客をどう受け入れるか、大会本番へのテストケースとしてできることをやっていきたい」
おもてなしの心は、大会本番でも必ずや訪れた人の心に響くはずだ。

“安心安全”と“大会運営”の両立は

「飛び込みのテスト大会は、本番を見据えたいいテストになった」

組織委員会の幹部は、う余曲折を含めて前向きに捉える。

その一方で「大会は安全にやらないといけないが、実務も回るようにしないといけない。その接点がないとオリンピック本番もできなくなる」と厳しい認識を示す。

別の関係者は、文化や価値観が異なる中で、「コロナへの考え方の違い」も調整を難しくしていると指摘する。
大会関係者
「ヨーロッパやアメリカは検査至上主義。出国前と入国時、それに隔離期間中と、検査を何回かやって陰性ならば、そこまで隔離を厳しくする必要があるのかと主張してくる」
安心安全を担保するためには、コロナ対策は厳格にしなければならない。しかし、厳格にすればするほど大会運営の障壁にもなってしまう。

テスト大会で浮き彫りになったこの現実は、テスト大会とは桁違いの規模のオリンピック・パラリンピック本番で安心安全と大会運営の両立を図ることの難しさを、改めて思い知らされる出来事となった。

トンネルの先に待ち受けるものは

予断を許さないコロナの感染状況と、感染対策や観客の数など運営面の課題。あと3か月でクリアしていかなければならないことは山ほどある。

そして、その一つ一つがどれも一筋縄ではいかない難題ばかりだ。
東京大会を「トンネルの先の光」と信じて進むこと。
コロナという暗いトンネルの先は見えないという指摘。
どちらも正論であり、賛否両論ある中で、3か月後を迎えることは、もはや避けられそうにない。

それでも
“目標があるということは生きる希望になる”
コロナによって目標や希望を持つことが難しくても、私たちはこの暗いトンネルを1歩ずつ前に進んでいくべきではないか。

その先に待ち受けるのが、それぞれの希望の光だと信じて。
スポーツニュース部 記者
松山翔平
スポーツニュース部 記者
今井美佐子
スポーツニュース部 記者
沼田悠里