クレヨンから酒まで!?「木」の使いみちが広がる意外なワケ

クレヨンから酒まで!?「木」の使いみちが広がる意外なワケ
木を使うことに対して、皆さんは、どんなイメージを持っていますか。「ぬくもりがあって気持ちがいいけれども、木を切ることは環境破壊につながるのでは…」。実は私もそう思っていました。しかし、今、環境のために木の利用を拡大することが大切だと言われているんです。どういうことなのでしょうか?(経済部記者 川瀬直子)

木を使おう!

3月、東京・代官山の書店で開かれた展示会。テーマは、「ウッドチェンジ」。木の使いみちを広げようという林野庁のキャンペーンの一環で開かれました。

会場にはスギの繊維を糸にして作ったマスクや木材を顔料にしたクレヨン、それに間伐材を薄く削ったストローなどが展示されていました。
会場を訪れたお客さんに声をかけてみると「このクレヨンを子どもに使わせたい!」とか「SDGs(国連が定める持続可能な開発目標)にもつながるなんてすごくいいですね」といった感想が聞かれました。

なぜ木を使うの

なぜ、木の使いみちを今、広げようとしているのでしょうか。それは「脱炭素」のためだというのです。
木は成長のために「光合成」を行います。その過程で二酸化炭素を吸収して、酸素を排出しますが、成長のピークを超えると、二酸化炭素の吸収量は徐々に減っていくことが分かっています。

森林には「天然林」と「人工林」があり、多くの「天然林」は生物多様性の観点からも安易な伐採は控えるべきだとされていますが、「人工林」は使うために植えられています。
しかし、日本では木材需要の低迷などもあり、林野庁によりますと、人工林の半分以上が植えられてから50年を超え、高齢化が進んでいます。このため、日本の森林の二酸化炭素の吸収量は年々減っているとされています。

政府の目指す脱炭素社会を実現するためには、成熟した木を切って有効に使い、そこに新たな木を植えることで、吸収量を回復させることが重要だとされているのです。

銀座に森が?木の高層ビルも

こうした中、新たな木の使いみちとして注目を集めているのが、木の「高層ビル」です。

高層ビルは耐火性などの問題から鉄とコンクリートで建てることが一般的でした。しかし最近、5階建て以上の建物に求められる耐火性能を持つ木の部材が開発されたことなどから、木造での建設も可能になりました。

東京・銀座では、東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場のデザインを手がけた建築家の隈研吾さんがデザインを監修した12階建ての木造ビルが建設中です。隈さんは、「銀座に森を出現させたい」としていて、ことしの冬に完成予定です。

さらに、東京・日本橋でも三井不動産と竹中工務店が17階建て、高さ70メートルという国内で最も高い木造ビルの建設を検討しています。

木に囲まれながら、都心でひとときを過ごすというのが当たり前となる時代が近づいてきています。

まさかの飲み物も!?

「木材」としてではない、木の活用も広がっています。その1つが「お酒」です。つくば市にある国の研究機関、森林総合研究所で開発が進んでいます。取材をした日は、クロモジという木を使ったお酒づくりの真っ最中でした。

においを嗅がせてもらうと、かんきつ系のような爽やかなにおいの中にしっかりとしたアルコールの香りがしました。もともと香料にも使われている木なので、その良さが存分に出ていました。

作り方は、木の粉を特殊な技術を使ってすりつぶし、ワイン用の酵母などを入れて5日ほど発酵。その後、蒸留して完成です。
ほかにも、杉や桜、白樺などでも実験していて、それぞれ味や香りが異なることから、地域の特産品にもなると期待されています。

商品化すれば世界初ということで、酒造会社などから問い合わせが相次いでいて、早ければ再来年にも商品化する可能性があるということです。
野尻チーム長
「木のお酒を味わうことで木の魅力がわかれば、家を建てたり、家具を作ったりするときに木を使うようになる。木を使うことが木の循環になり、林業が盛んになることで森林が守られる」

プラスチックの代わりにも!

さらに、産業界が熱い視線を注ぐ新素材の研究も進められています。

森林総合研究所の別の研究室が開発したのは、杉の木くずに薬剤を混ぜるなどしてできた「改質リグニン」という素材です。

ほかの物質と組み合わせることで、石油由来の高性能なプラスチックの代わりとして使うことができ、環境に優しい新素材として注目されているのです。
例えば炭素繊維などと組み合わせると軽くて強い部材になり、すでにスピーカーの振動板に使われているほか、自動車の外装に使う実験も行われています。また、粘土と混ぜると、電子基板用のフィルムとして使うことができ、プラスチックで作る場合と比べて7割ほど安くできるということです。ことしの夏には量産できるか実証するための工場も完成予定です。
山田拠点長
「日本は資源がない国だと言われていたが、すぐ近くに石油に代わる資源がある。山が資源の供給ステーションになる」

木に思いをはせて

取材を通じてさまざまな木に出会いました。こうした木を生み出す人工林の多くは、戦後、草木もない荒れ果てた山だったところに先人たちが将来のためにと整備してくれたものです。

その努力に感謝しながら木をありがたく使い、そして次の世代のために新しい木を植える。その繰り返しが、脱炭素や地球の温暖化防止につながっていくのだと強く感じました。
木に囲まれ、木製の日用品に触れた時、その木がどんな歴史をたどってきたのか、そして、私たちの未来にどうつながっていくのか、思いを巡らせてみてはどうでしょうか。
経済部記者
川瀬 直子
平成23年入局
新潟局、札幌局を経て現所属
農林水産行政を担当
木のお酒が発売されたら真っ先に飲んでみたい