サステイナブルファッションが示す“地球のミライ”

サステイナブルファッションが示す“地球のミライ”
私たち誰もが身につける衣服。
そして気持ちを高めてくれるファッション。
このファッション産業が、石油産業に次ぐ世界で2番目に環境を汚染する産業と言われているのをご存じでしょうか。大量にごみとして捨てられているだけでなく、衣服の生産には大量の水が使われ、CO2も多く排出されています。
こうした中で、業界内では地球環境への負荷を抑える取り組みをする「サステイナブルファッション(=持続可能なファッション)」への意識が急速に高まっています。
私たちの暮らしに欠かせない「衣服」を通して、持続可能な地球の未来を考えるヒントを探ります。
(科学文化部 記者 富田良/制作局クローズアップ現代+ ディレクター 高田理恵子/広島放送局 ディレクター 金道知聖)

百貨店の販売戦略に“変化”

東京都内の百貨店で4月に開かれたドレスの展示会。
並べられた個性的な100着のうち、その半数以上が、古着で占められていました。

新品と見間違えるほど洗練されたアイテムを比較的低価格で購入できるとあって、多くの客が手に取っていました。
その会場のそばで、紹介されていたのは、黒く染められたドレス。
汚れて着られなくなった服を、京都の老舗織物会社の技術を使って黒染めして再生してくれるサービスです。
サービス開始1か月でおよそ80点の注文が入る人気ぶりです。

この百貨店では、トレンドの最先端の商品を取りそろえる販売戦略に加えて、不要になったモノに新たな付加価値を加えることで長く大切に服を着てもらう「アップサイクル」という考え方に今力を入れています。
三越伊勢丹 鳥谷悠見さん
「昨年度行ったアンケートで、環境活動や環境配慮に非常に高い関心を持っているお客様がたくさんいることが分かりました。数百年続く企業経営の中で、その時代その時代の変化というのを受け入れてきました。これからもお客様の求められる、そして社会のあらゆるセクターの方が求められるような企業になるよう、持続可能な社会に対して貢献していきたい」

ファストファッションブランドも

大量生産を進め、手ごろな価格で消費を促してきたファストファッションの業界にも変化が見られます。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目標に掲げ、それに向けた取り組みの一環として、不要になったダウンジャケットを回収し、新品の服に再生させるというプロジェクトを進めています。

ダウンジャケットを再生するためには、服を裁断して羽毛を取り出す必要がありますが、従来は手作業でなければ行うことができませんでした。
そこで繊維・化学メーカーの東レと共同で、風の流れをコントロールし羽毛と生地を自動で分離する技術を開発しました。
これによって作業のオートメーション化が可能となり、50倍の速度で作業ができるようになったといいます。

サステイナビリティーを重視するこうした動きは、「ファストファッションブランド」のみならず、アルマーニ、グッチ、ヴェルサーチといった高級ブランドにいたるまで、業界全体に及んでいます。

“環境汚染産業”からの転換

ファッション業界でサステイナブルへの転換が進むきっかけとなったのは、2015年の国連サミットで「持続可能な開発目標(=SDGs)」が採択され、環境に配慮していないファッション関連の企業に投資家らから厳しい目が向けられるようになったことでした。
ファッション業界で主流だった「大量生産・大量消費」が、環境に大きな負荷をかけていると指摘されています。

たとえば、布を洗ったり染めたりするのに必要となる水の年間使用量は、オリンピックの水泳プールの3700万杯分に相当する930億立方メートル。炭素排出量でも、国際航空業界と海運業界を足したものを上回るとされています。

こうしたデータにもとづき、おととしには国連貿易開発会議で石油産業に次ぐ世界で2番目に環境を汚染する産業だと批判されました。

厳しい視線を向けられるようになったことで、消費者に頻繁な服の買い換えを推し進める、これまでのビジネススタイルから、環境に優しい服作りで、1着を長く大切に着てもらう「サステイナブルファッション」への転換が急速に進んでいるのです。

“素材革命”

ファッションの根幹を担う素材の分野では、環境負荷を減らすために“素材革命”とも言える動きが出ています。
1500社を超えるブランドと取り引きを行っている業界大手の繊維商社「豊島」。高まるサステイナブル素材のニーズに合わせラインナップの充実に力を入れ、独自の商品開発にも取り組んでいます。

たとえば、カット野菜の切れ端やコーヒーのかすなどに含まれる成分を抽出して、それを染料にして染め上げる技術を開発。
また、不法投棄が問題となっている漁網にも着目、回収した漁網を洗浄したあと、ナイロンのペレットに加工し、選別したペレットを原料にアパレルに適した糸や生地を作っています。

硬い漁網のイメージからは想像できないほど柔らかい生地が特徴で、多くの問い合わせが寄せられているといいます。
また、山形県鶴岡市に本社を置くベンチャー企業「スパイバー」は、伸縮性があり、鋼鉄のワイヤーをしのぐ強さがあるクモの糸から着想を得た、人工的に合成した「たんぱく質素材」を開発しました。

軽くしなやかで破れにくい特性を持ち、衣服はもちろん、自動車のシートやドアなどさまざまな分野で使われています。

デザイナー

こうした素材を取り入れた新しいファッションを提案するデザイナーがいます。
中里唯馬さんです。
今年1月に開かれたパリ・オートクチュール・ファッションウィークで、「たんぱく質素材」の生地を使ったドレスを発表、高い評価を受けました。
水にぬらすと収縮する「たんぱく質素材」の生地の特徴を生かした立体的な曲線美は、あふれ出るエネルギーとともに、“未来感”を感じさせます。

この素材を使うことで、服の型に沿って生地を成形する作業の必要がなくなり、はぎれが全く出ない全く新しい服作りが可能になると言います。
デザイナー 中里唯馬さん
「もともと衣服の起源というのは、動物の皮をまとっていたところから始まっていると言われています。(たんぱく質は人間の体の構成要素でもありますが)人工的に作られたたんぱく質を使うことで、衣服の起源のようであり、そして未来でもあるみたいな、そういうところをつなげるようなドレスなのかなと思っています」
中里さんのコンセプトは、“自分のためだけの服”。

愛着を持ち続け、長く大切に着る服こそが、サステイナブルな服作りだと考えていて、生地のパーツをつなぎ合わせることで、身体の成長などに対応して形やサイズを簡単にカスタマイズできる服も作っています。
デザイナー 中里唯馬さん
「衣服ってなんで着るんだっけ?みたいなところから始まって、衣服っていうのは人にとってどうあるべきなのかっていうのをもう一度考え直そうみたいな。それが、サステイナビリティーのコアなんじゃないかなと思っています」

消費者ができることとは

日本でも、ざまざまな動きが出ているサステイナブルファッションですが、どれだけ環境負荷の軽減につながっているのか。全体としては、まだまだ今後の取り組みが必要です。

環境省が今月公表した推計によると、国内では去年、家庭で使い終わるなどした衣服がおよそ51万トン、ごみとして捨てられていました。大型トラック130台分の衣服が毎日、捨てられている計算です。

一方、リサイクルや再利用された衣服は、全体の3割あまりにとどまっています。
そして、このサステイナブルファッション、持続可能性という意味では、環境に配慮しているかだけでなく、生産に関わる労働者の人権が守られているか、地域の伝統文化の保全に役立っているかなど、多様な視点から推進していくことが求められています。

最近でも、途上国での強制労働によって作られた素材を使った衣服を販売して、そこから利益を得ているのではないかという指摘を受け、世界各国のファッション企業が対応に追われるなどの動きもありました。

そうした中、鍵を握っているのが、服を選び、購入し、身に着ける私たち消費者の行動です。

「サステイナブルでなければファッションではない」

消費者の行動をサステイナブルへと導くために、消費者庁からの要請を受けて『エシカルライフスタイル SDGs アンバサダー』に就任するなど、サステイナビリティー活動に積極的に取り組んでいるモデルの冨永愛さんに話を聞きました。

世界の第一線でトップモデルとして活躍してきた冨永さんは、世界では今、「サステイナブルでなければファッションではない」という認識が当たり前になっていると指摘します。
冨永愛さん
「サステイナブルな取り組みを行っているブランドを応援するという気持ちでそこの服を買うというのは、募金と一緒ですよね。サステイナブルなことをしていないとブランドでいることが許されないという時代になりつつあります。そんな中、何かを応援する気持ちでそこの服を買うことは自分のパワーにもなると思います」
さらに冨永さんが重要視していたのは、「環境に優しい商品を買うだけでなく、服を長く着ることもサステイナブルだ」ということです。

イギリスの環境NGOのデータによると、衣類の寿命を9か月延ばすだけで、二酸化炭素・水・廃棄物の排出量をおよそ20~30%削減でき、さらにふだんよりも低温で洗濯したり乾燥機やアイロンの使用頻度を減らしたりすることでも、二酸化炭素の排出量削を減らすことができるとしています。

ふだんの生活で服の取り扱い方を少し見直すだけでも環境負荷の軽減につながります。

ファッションが私たちに身近な存在であるからこそ、小さな心がけや意識の転換を一人一人が進めること。持続可能な未来へ、できることから始めてみたいと思います。
サステイナブルファッションについては、4月22日(木)午後10時放送予定の「クローズアップ現代+」、「あなたの服選びも変わる!?~サステイナブルファッションが示す“地球のミライ”~」で詳しくお伝えする予定です。
科学文化部 記者
富田良
制作局クローズアップ現代+ ディレクター
高田理恵子
広島放送局 ディレクター
金道知聖