SNSひぼう中傷 投稿者の速やかな特定へ 新たな裁判手続き創設

SNSでひぼうや中傷の投稿をした人物を速やかに特定できるように、新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が21日の参議院本会議で可決・成立しました。この法律では、SNSでのひぼうや中傷による被害を防ぐため、投稿した人物に関する情報開示を速やかに進める新たな裁判手続きを創設します。

投稿した人物を特定するため被害者が訴えを起こす際、現在はSNSの運営会社と投稿者が利用する接続業者のそれぞれに対し、裁判の手続きが必要で、時間がかかることが課題となっていました。

改正された法律では、被害者からの申し立てをもとに裁判所が投稿者の情報を開示するかどうかを判断し、SNSの運営会社や接続業者に命令を出せるようにします。

また、情報の開示を命じる前に投稿者の通信記録などが削除されないよう、あらかじめ接続業者に対して情報の消去を禁じることができるようにします。
フジテレビの番組に出演していたプロレスラーの木村花さんがひぼうや中傷を受ける中で自殺した問題をきっかけに、総務省の有識者会議で法律の改正の議論が進み実現したものです。

木村花さんの母 響子さん「さらなる改正に期待」

木村花さんの母、響子さんは法改正についてコメントを出しました。

この中で響子さんは「今回の法改正は、ひぼう中傷による被害者の迅速な救済につながる大きな一歩だと思います。尽力くださった皆様には心から感謝を申し上げます」としています。

一方で、「被害者救済のためには、まだ十分であるとは思っておりません。まだまだ被害者が背負う精神的、経済的負担は大きいといえます。現在は、法的救済を受けるまでのハードルは極めて高い上に時間もかかります。法的救済を受けようとする間にも、次々にひぼう中傷は繰り返され、最初に求めた法的救済だけでは、実質的に被害者が救済されたことにならないこともあります。侮辱罪の厳罰化、SNS事業者に対する協力などの義務づけや罰則の創設など、さらなる改正に期待しています」としています。

ブロガー はあちゅうさん「まだまだ最初の一歩」

ブロガーのはあちゅうさん(35)は、ネットでのひぼう中傷に悩んでいた中、去年5月にプロレスラーの木村花さんが亡くなり、泣き寝入りはやめようと投稿者に法的措置を取ることを決意したと言います。

去年6月以降、200件以上の投稿に対して、投稿者を特定するために仮処分の申し立てや裁判を起こしています。

はあちゅうさんは「人前に私生活を出すような仕事のしかたをしているので、それに対して悪い意見もあるのは当たり前で、それを受け止めるのが私の仕事だと思っていた。私をひぼう中傷する人たちがSNSや匿名掲示板でコミュニティー化してしまい日常的に嫌がらせを始めた。自宅の前で記念写真を撮られてネットに投稿されたり、ハッシュタグや匿名掲示板で、私が子どもを虐待しているかのような“児童虐待通報祭り”というのが行われ、実際に自宅に警察と児童相談所が2回来た。ネット上での被害にとどまらず、現実に生活を脅かされるような機会が何度もあったので、抑止の意味も込めて裁判に訴えようと決めた」と話しています。

また、「現時点では被害者側の分が悪く、法改正はすごくありがたいが、まだまだ最初の一歩だと感じている。現状では、ひぼう中傷については、『こういう被害がありました』とすべてをまとめて、自費で裁判を起こす必要がある。被害者の負担が大きすぎるのではないか」と話しています。

IT業界団体 削除依頼は半年間で900件超

IT企業20社が参加するセーファーインターネット協会は去年6月(2020年)、被害者からの相談を受けてSNSの運営会社にひぼうや中傷の削除を求める「誹謗中傷ホットライン」を設置しました。

去年12月までの半年間に削除を求めた投稿は973にのぼり、このうち87%にあたる836の投稿が削除されたということです。

中にはSNSで掲載していた写真を悪用されて別のSNSでなりすまされ、侮辱されたというものやなりすまされて「コロナに感染した」などとうそを書き込まれたというものもあったということです。

また、この団体ではSNSの運営会社向けの対応指針をまとめ、明らかにひぼうや中傷にあたると判断できるケースでは、裁判の手続きをとらずに投稿した人の情報を開示するよう促しています。

セーファーインターネット協会の吉田奨 専務理事は、「表現の自由を守っていくためには、SNSの運営会社が自律的に対応することが大事だ。協会としてもより態勢を強化して、被害者や運営会社からの相談に応えられるような形にしたい」と話しています。

SNS運営会社の対応は

SNSの運営会社の間でも投稿への書き込みができる人や書き込みの内容を制限する機能を導入してひぼうや中傷を防ごうという動きが出ています。

このうちフェイスブックは国内の利用者数が3300万人で匿名の利用者も多いSNS「インスタグラム」で、書き込まれたコメントにひぼう中傷につながる言葉など利用者が設定した言葉が含まれる場合、表示されなくなる機能や、自分の投稿にコメントを書き込める人を制限する機能などを設けています。
さらに、英語などの一部の言語では不快にさせるおそれがあるコメントを書き込もうとするとAI=人工知能が特定し、考え直すよう通知する機能を導入していて、今後、日本語向けにも導入する方針だとしています。

今回の法律についてフェイスブックは「改正後の規制に対応していく。利用者の安全は最重要課題で、対処するための効果的な解決策を検討すべく、政府や業界との協力を続けていく」とコメントしています。
またツイッターは英語版でひぼうや中傷が疑われるコメントが投稿される前に、考え直すよう通知する機能の実証実験を進めていますが、日本語版での対応は未定だということです。

今回の法律についてツイッターは「各国の法制度と自社のルールに従って適切なオペレーションに努めている。法改正後も、これまで同様、捜査機関などからの正式な照会依頼には迅速に対応していく」とコメントしています。

弁護士「サイト管理者の協力が不可欠」

インターネットでのひぼう中傷の問題に詳しく、投稿者の特定や損害賠償の裁判を多く手がけている神田知宏弁護士によりますと、去年5月にフジテレビの番組に出演していたプロレスラーの木村花さんがSNSでのひぼうや中傷を受ける中で自殺したあと、相談件数が急増したということです。

神田弁護士は「悪口を書かれた側ではなく、自分が書いたことは、ひょっとしたら悪口なんじゃないか、訴えられるんじゃないか、違法なことを書いてしまったんじゃないかと心配して相談に来る人がとても増えた。事件をきっかけに、一般の人が何気なくいろんなことを書いていたが、実は自分が書いていることが違法なことなんじゃないかと気づき始めたと言える」と指摘しています。

神田弁護士に寄せられる相談は、月ごとの件数でそれまでの5倍から10倍に増えたということです。

今回の法改正について、神田弁護士は「これまでは投稿者を特定するために2段階の設計になっていたが、それが1段階で済む。手続きの流れとしては、あまり変わらないが、若干楽になる、手続きが簡単になることが考えられる」としています。

神田弁護士によりますと、投稿者を特定するまでに、半年から、長いものだと1年程度かかっていましたが、新しい制度では海外の事業者であっても簡易に呼び出すことができるようになるため、迅速化が期待されるということです。

また、費用についても、これまでは40万円から60万円かかっていましたが、半額になる可能性もあるということです。

神田弁護士は「手続きで重要になるのは、サイトの管理者がどこの接続プロバイダーが使われているかを調べて、それを裁判所に知らせるところだ。新しい制度がうまく動いていくには、サイト管理者の協力が不可欠になる」と話しています。