中国のファッションブランドがなぜ銀座に?

中国のファッションブランドがなぜ銀座に?
中国発のファッションブランドの店舗が銀座のデパートにオープンしました。聞き慣れない中国のブランドが、なぜ銀座に?取材を進めると、日本のアパレル業界や繊維産業の抱える課題が見えてきました。
(経済部記者 茂木里美)

中国の“シンプルファッション”

中国南部の広州で2013年に創業したファッションブランド「DAN NONG(ダンノン・単農)」。シンプルなデザインが特徴で、柄はほとんど使わず、白や黒、グレーなど単色が基本です。
中国では、深センに集まるIT企業の若手エンジニアらを中心に支持され、現在は北京や上海など中国国内に100店舗以上を展開しています。
去年、多くのブランドショップが集まる東京・南青山に海外初の店舗を出店。そしてこの2月には銀座の一等地とも言える松屋銀座5階の紳士服フロアに進出しました。
松屋 鈴木健一 営業四部長
「中国にはブランド好き、派手好きというイメージがあったんですが、こういうシンプルなものもあるんだなと、中国のブランドのイメージが大きく変わりました。洗練された感じなど、私どものお客様にきっと評価をいただけるんじゃないかと強く思いました」

なぜ日本に出店?

ダンノンはなぜ、日本を海外初出店の場所として選んだのか。

その理由は、日本文化が好きだというオーナーの思いに加えて、世界に打って出るには、品質にこだわる日本人に評価されることが重要だと考えたからです。

このブランドは生地など素材の5割が日本製です。現在、繊維メーカーなど日本の企業およそ30社と取り引きをしています。
名古屋の会社が製造している、横糸に和紙を使っている生地(写真左)や、静岡県にある企業が製造している波打っているようなデザインの生地(写真右)など、日本のメーカーが作り出す個性的な素材が採用されているのです。
ダンノンIT部門責任者 季男さん
「私たちのブランドの主な顧客は文化人やアーティストです。彼らはシンプルでありながらも上質な生活への追求に共感を持っています。ですから、われわれのブランドにとって最も重要なことは、上質な生地を選ぶこと。その点で日本には、100年の歴史をもつ伝統的な工房で作られた手作りの生地だけでなく、テクノロジーによって開発された新しい素材もあり、日本は上質の生地を作る重要な生産地だと考えています」

繊維メーカーの中国進出の足がかりに?

日本の繊維産業は、このところ厳しい時代が続き、20年前に比べて出荷額は半分以下に減っています。その理由は、重要な取引先である国内のアパレルの売り上げが落ち込んでいるだけでなく、多くの企業がアジアなどコストの低い海外に縫製工場を設けるようになったことがあります。生産拠点の海外移転で原材料も現地で調達することになり、国産の生地の需要が落ち込んでいったのです。

こうした状況にあって、ダンノンのような中国ブランドの進出を、大きなチャンスと捉える繊維メーカーもあります。
ポリエステルの生地の製造を得意としている石川県の繊維メーカー「丸井織物」は、3年前、ダンノンとの取り引きを始めました。これまでは、製品のほとんどを日本のメーカーに卸してきましたが、日本の繊維市場に危機感を抱いてきました。

丸井織物は、5年前に自社で販売する独自ブランドを立ち上げました。
見た目は綿のような自然の風合いですが、実は素材はポリエステル。しわになりにくく、乾きやすいといった着心地のよさが特徴で、これまで培ってきた技術を結集したこだわりの生地だと言います。

この生地がダンノンの目にとまり、シャツなどの素材として採用されました。取り引きは年々増え、当初の5倍以上に拡大しています。
丸井織物 宮本米藏副社長
「中国市場を見てますと、都市部の若い人のファッションもセンスが急激にあがっているように感じています。中国との商売は日本と規模が1ケタ違うほど大きいので非常にいいマーケットで、いい出会いができたと思っています。ここからのスタートということで中国にもっと展開していきたい」
日本のファッションブランドの中心地に進出した中国のアパレルブランドと、進出に期待する日本の繊維メーカー。

厳しい状況に直面する国内のファッション産業にとって、新しい風となるかもしれません。
経済部記者
茂木 里美
フリーペーパーの編集者を経てNHKに入局。
さいたま局、盛岡局を経て平成29年から経済部