大学生を、取り残さない

大学生を、取り残さない
新しい出会いに心躍らせるこの季節。キャンパスで友達をつくったりサークルに入って新しいことにチャレンジしたり…。

でも、そんなふうに思い描いたキャンパスライフはコロナ禍で一変しました。新型コロナが収束する見通しが立たないまま2年目の春を迎え、「不安」や「孤独」を深めている大学生たちもいると思います。

そうした学生たちに知ってもらいたい大学や先輩たちからのメッセージです。
(ネットワーク報道部記者 小倉真依 井手上洋子 野田綾)

“不安”つぶやく学生たち

「授業は原則オンライン」「部活動は自粛」。

こうした要請が地域によって大学に再び出される中、SNSでは不安の声が上がっています。
「きょうから全面オンラインだけどパソコン弱くて、できてるかよくわかんない。大学生活この先どうなるのかわからなくて不安だし、こんなに楽しくないとは思わんかったなぁ…」。

「全然楽しいイベント行事なくて、このまま4年終わっちゃうのかなぁって…時々未来が不安になる」。

思い描いたキャンパスライフは…

都内の私立大学に通う大学2年生の林美里さん(19)も不安のなかで学生生活をスタートさせました。
去年の春は入学式や新入生歓迎会などのみんなで集まる行事やイベントが次々と中止になり、5月から始まった授業もオンラインとなりました。
林美里さん
「新しく始まる大学生活にわくわくしていたのですが、現実は全く違いました。新入生歓迎会で思いもよらない出会いがあって新しいことを始めたり、授業の合間に友達とカフェでおしゃべりしながら勉強したりする、そんなキャンパスライフを想像していたんですが…」
地方から上京した林さんは留学生や同級生たちと交流できると考え、大学の寮に入りました。

でも、当初、寮に入る予定だった学生たちの多くは母国や実家にとどまり、仲間の姿はまばらでした。

外にも遊びに行けず、バイト以外はオンラインで授業を受けて部屋にこもる日々。
希望していた海外留学も見通しが立たず、理想の大学生活が何もかなわないことに落ち込んだといいます。
林美里さん
「オンラインでは友達をつくるのも難しくて、孤独感がありました。大学に行くことができず、自分がなんだか周りから取り残されているように感じていました」

「心に影響」調査結果も

思い描いた大学生活が送れず、不安や孤独を感じ、なかには心に深刻な影響を及ぼすケースも出てきています。

新型コロナによる学生生活への影響について、秋田大学が去年5月から6月にかけて大学生と大学院生を対象に調査を行ったところ中等症のレベル以上のうつ症状が、
▽女性の11.5%、
▽男性の10.3%で見られたのです。
(対象5100人余りのうち53%が回答)

また、九州大学では去年6月、大学生と大学院生を対象に調査を行い、
▽「孤独感や孤立感を感じる」と答えた学生と
▽「気分が落ち込んでいる」と答えた学生がそれぞれ、およそ4割に上ったということです。(対象の3割ほどにあたるおよそ6000人が回答)

”カウンセラーX”も学生支援

学生が感じる不安や孤独を解消したいと、大学もあの手この手で支援に乗り出しています。
名古屋大学は、食料支援の情報や学生がつながることができるオンラインイベントのお知らせをツイッターで毎日のように配信、また去年は総長みずから学生の声を直接聞くオンライン対話も開催しました。

さらには「カウンセラーX」として学生支援センターのカウンセラーがラジオDJとして登場し、コロナ禍で実家に帰れず寂しい思いをしている学生などに向け、YouTubeを使って年末年始の深夜、6夜連続で語りかけました。
親しみやすく、敷居を低くしていくことで、学生支援センターにはこれまでより早い段階から気軽に相談が寄せられるようになってきたということです。
名古屋大学 学生支援本部 鈴木健一 副本部長
「これまで学生相談の窓口は“最後の砦”として受け止められていましたが、学生にとってより身近な存在になったように感じています。去年、入学式も開かれずオンライン授業が続いていた今の2年生については引き続き手厚いケアが必要だと考えています」

アプリでこころの健康チェック

学生向けにこころの健康をセルフチェックできるスマートフォンのアプリを開発したのが九州大学です。

早ければ来月に無料で配信される予定というこのアプリ、学生は1日1回、「食欲」「運動」「睡眠時間」それに「気分」についての4つの質問に答えて記録します。
1週間の記録をもとに、心身の状態の簡易診断が行われ、「睡眠時間が十分ではないです」とか「気分が落ち込んでいる日が続いています。一度相談に来ませんか?」といったメッセージが表示されます。
試作のアプリを学生に使ってもらって検証したところ、使っていない学生と比べて”精神健康度”に改善が見られたということです。
アプリを開発した九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 梶谷康介 准教授
「自分の心の健康状態を知るセルフチェックをするだけでも改善の効果が期待できます。コロナ禍の大学生はオンライン授業などで孤独や孤立を感じやすく、それらは心の不調の大きな要因になり得るため、早めに不調に気付き、支援につながってほしいです」

きっかけは“地域留学”

理想の大学生活がかなわず落ち込んでいた林さんですが、あることがきっかけで変わることができたといいます。

それが“地域留学”でした。

夏休みの期間を利用して地方に移住し、地元の人たちと交流しながら地域課題に取り組む活動に参加したのです。

林さんは東日本大震災で被災した福島県南相馬市に行き、まちづくりをする住民たちと交流を重ねたり、農家の手伝いや企業へのインターンシップにも参加したりしました。
林美里さん
「大変な状況のなかにあっても前を向いて取り組む地元の人たちの姿に感銘を受けました。コロナ禍でも何か自分でやれることを見つけようというエネルギーをもらえて、いろんなことにチャレンジできたし、オンラインでは得られない人のあたたかさを感じることができました。仲間ができたことでひとりじゃないと思えました」

オンライン授業もメリットに

さらに、オンラインの授業にもメリットがあることに気付くことができました。

場所を選ばず学ぶことができるため、夏休みが明けても南相馬市に滞在し、去年12月まで授業を受けながら地域で活動を続けたのです。
いまは東京に戻り対面とオンラインで授業を受ける生活を送っています。

この1年、コロナ禍の逆境をチャンスに変えてさまざまなことにチャレンジしてきた林さん。

この4月から大学生活をスタートさせている後輩たちに伝えたいことを教えてくれました。
林美里さん
「授業やサークルだけではなく、さまざまなコミュニティーに入ることで自分の居場所ができ、大学生活が楽しいものになると思います。感染状況が刻々と変わり、先が見えないなかでいまは不安の中にいる学生もいると思いますが、どんな状況にあってもいかに楽しむかが大切だと思います」

学生が体験する“喪失”

思い描いた大学生活が送れない状況が長引いていることは、学生の心理面にどう影響しているのでしょうか。

日本学生相談学会の理事長で甲南大学教授の高石恭子さんに話を聞きました。
高石恭子さん
「すべてがちゅうぶらりんで、しんどくて、孤独で、自分がだめなんだという思いを抱えて2年目を迎えている学生も多いと思います。これからようやくそこを取り返せるかなというところで、またこのような状況になり、とても心配しています。遠隔授業や課題を頑張ってきた真面目な学生さんほど燃え尽きてきていて、ダメージが大きく、これ以上頑張れないというところにきていると思います」
そんな学生たちに、私たちはどう向き合っていくといいのでしょうか。
高石恭子さん
「学生は、本来あるはずだったキャンパスライフの『喪失』という体験の渦中にあります。最初は“1か月我慢すれば”と思っていたのが、2年目に突入すると、“学生生活の半分はもう戻ってこない、下手すると卒業まで、求めていたものが得られない”ということが見えてきてしまっているわけです。その喪失をどう回復していくか、乗り越えていくかという、人生において長い取り組みが始まっていると、そういう目で学生をみてあげないといけないと思います」

“頑張れないことがあっても当たり前なんだよ”

最後に高石さんに、学生たちへのメッセージを聞きました。
高石恭子さん
「大学生になったから、自立を期待されて“頑張らないと”と思っている人も多いと思います。そういう人たちが無理をして心が折れてしまわないように、いまは本当に特殊な状況にあって、“思いどおりにいかないこと、頑張れないことがあっても、それは当たり前なんだよ”ということを伝えたいです」