出産後の退職を減らしたい “企業内助産師”

出産後の退職を減らしたい “企業内助産師”
46.9%という割合、何だかご存じでしょうか。

少し古いですが国の2016年の調査で、働く女性が第一子を出産後に仕事を辞める割合を示しています。(出典:国立社会保障・人口問題研究所)

ほとんど2人に1人が辞めているという驚きの数字です。理由は人それぞれですが、出産・育児をする働く女性たちは、今、新型コロナウイルスの感染拡大によって両親学級の中止や外出自粛など相談の機会が減り、困難がさらにのしかかっているといいます。

そんな女性たちを支援しようと動きだしているのが会社の中からサポートにあたる、“企業内助産師”たちです。会社の福利厚生として組み込んだ活動を企業も導入し始めています。(大阪放送局記者 中本史)

退職の道を選ぶ働くママたち

川崎市に住む33才の女性。食品関係のメーカーで営業職として働いていましたが、去年夏に会社を退職しました。

第1子を出産後、子どもを0歳で保育園に入園させて復職しました。しかし、子どもが体調を崩しがちで仕事を早退したり、急に休んだりすることが増え、取引先や職場など周囲の理解が得られなかったといいます。

「しんどくて泣いている子どもにも、カバーをお願いしてばかりの職場にも、どちらに対しても罪悪感が募っていき、追い詰められてしまった」と話していました。

困惑する企業が導入した“企業内助産師”

出産後に退職する女性社員をなんとか減らせないか。

大阪に本店がある「大阪シティ信用金庫」が福利厚生の一環として導入したのがいわば“企業内助産師”ともいえる助産師による相談サービスです。

会社が契約した助産師が社員の悩みにいつでも相談に乗ります。メールは24時間で対応し、オンラインによる相談は朝6時から夜10時まで、社員はすべて無料となります。
この信用金庫は女性の比率がおよそ4割。せっかく仕事に慣れ、ノウハウを蓄積した社員が妊娠・出産で悩みを抱えたり、仕事を辞めてしまったりするのは会社にとって損失だと危機感を抱いたのです。

人事担当者は「毎年80人から100人の女性が育休をとっていて、彼女たちにはぜひ戻ってきてほしいと思っています。女性が働いていく上でライフイベントや健康への配慮は欠かせないのでサポートをしていきたい」と話していました。

妊娠中の女性にアドバイス

「ちょっとおなかが張り気味なんですけど…」。

この日、大阪シティ信用金庫に勤める妊娠8か月の浅井備恵さんは、自宅のパソコンで助産師のオンライン相談を受けていました。

今は産休中ですが、新型コロナの影響で、自治体や産婦人科の両親学級が相次いで中止になり、対面で専門家に相談できる機会がなくなっていました。
「そろそろ安静気味に過ごしてくださいね」。

助産師は、体調を細かく聞き取り、どういう状態になったら出産が近いと判断できるのか専門の立場からアドバイスしていました。

いつ陣痛がくるのか心配でたまらなかった浅井さんは、相談にのってもらい、ほっとした表情でした。
浅井さん
「インターネットで検索すると情報があふれて余計に不安になりました。こんなふうに専門家に丁寧に話を聞いてもらえて不安や疑問を解消できるのは、ありがたいです。しかも福利厚生なので無料だし、会社の紹介ということで安心感もあります」

助産師が相談サービスの会社を立ち上げ

この助産師による相談サービスを提供しているのが大阪のベンチャー企業「With Midwife」。助産師の岸畑聖月さん(29)が1年半前に起業しました。

岸畑さんは、産婦人科で勤務していたときに働く女性たちのさまざまな悩みを聞き、病院ではなく、会社の中からサポートできないかと考えたといいます。
岸畑さん
「働いている女性から、生理や子育てに関する悩みを聞くことが多かったんです。仕事を休んで病院に来る時点でかなり切羽詰まっている状態で、そうなる前に対応してあげられないかなと。1日の中の8時間を過ごす職場で私たちが存在できれば、心強いのではないかと考えました」
登録している助産師は全国に40人。これまでに竹中工務店など14の会社に助産師を派遣しています。
働くママたちをサポートする相談サービスは、ほかにもあります。

東京・千代田区の「Kids Public」は助産師や産婦人科医、小児科医のオンライン相談サービスを展開しています。

登録している専門家はおよそ160人。チャットでは24時間以内に返事が来るほか、夕方6時から夜10時まで音声通話かビデオ通話で10分間相談できるサービスもあります。

特にこの1年はコロナ禍で契約する企業が増え、リクルートや三井住友海上など35社が福利厚生の1つとして導入しています。

助産師、実は男性の悩みにも

会社がこうしたサービスに注目するのは実は女性のためだけではありません。仕事と育児の両立に悩む男性社員も増えているのです。

共働きが一般的になるなか、男性が子どもの送り迎えをしたり、お風呂に入れたりと、育児に関わる時間は増えています。

妻とのパートナーシップの悩みを抱える人もいますが、誰に相談したらいいか分からず、困っている人もいるといいます。

こうした場合、男性は産婦人科に行くわけにはいきません。かといって上司に相談しようにも今ほど育児に積極的でなかった世代の人だとなかなか悩みを理解されにくいという事情もあるようです。

こうした男性の育児などの悩みにも助産師は専門家の立場からアドバイスを行っています。

「妊活」の相談にも応じる

さらに一歩踏み込んだサポートを助産師に依頼する会社も現れています。

大阪信用金庫が社員向けのオンライン相談会で選んだテーマは「妊活」についてでした。

これは子どもがほしい夫婦にとっては切実な問題です。

人事部の担当者に聞くと、円満な家族関係をきずくことが結果として良い仕事につながると考えて後押しをしているとのことでした。
オンラインセミナーに参加した男性社員は、会社が家庭のことまで考えてくれることに満足していて、働き続けたいというモチベーションにつながっていると話していました。

企業幹部の決断力が必要

働くママたちへのきめ細かな相談サービス。しかし、まだ企業の間で広く認知されているとは言えません。

資金的に余力のない中小企業が導入するにはハードルがありますし、企業のなかには「プライベートなことは企業が解決するのではなく、社員が個別に解決するものだ」という考えのところもあるといいます。

日本は少子高齢化とともに労働力人口の減少、つまり働き手の不足が深刻になっています。

こうした中、働く女性をどう増やしていくのか、いかに安心して、やりがいをもって女性が働き続ける環境をつくるのかは社会全体の大きな課題といえます。

その際、社員の妊娠や出産、育児などに寄り添う制度の1つとして助産師によるサポートは、私も働きながら子育てをする身として心強いなと感じました。

社会課題の解決には企業幹部の決断力が求められるでしょうし、場合によっては行政の支援なども必要になってくるかもしれません。
大阪放送局記者
中本 史
平成16年入局
沖縄局、首都圏センターを経て現所属
医療や暮らしを担当
2児の子育て中