看護師が足りない

看護師が足りない
「看護師をいくら募集しても集まりません」

コロナ禍で看護師不足が深刻化する医療・介護の現場。
ある介護サービスの事業所は、派遣の看護師に頼らざるをえない状況が続いています。

4月からは日雇い派遣も一部解禁されましたが、SNSでは賛否が分かれています。

いったいどうしてなのでしょうか。
(社会部 原野佑平 映像センター 宗石岳弥)

投稿した現役看護師 反対の理由は

ツイッターに投稿した1人、中国地方の有料老人ホームで働く現役の看護師の女性に話を聞きました。
「初めて来た看護師ができることはごくわずか」
「生活できるだけの保障(賃金)をもらえたらみんな働いている」
日雇い派遣にこう疑問を投げかけていた女性。

最初に感じたのは安全面の不安だったそうです。
看護師の女性
「認知症の人は自分の名前をはっきり言えないこともあるので私たちが顔と名前、その人の状態を覚えておいて一人一人に必要な処置やケアを間違えないようにする必要があります。以前、まだ仕事に慣れていない人が飲み込む力が弱い利用者に誤って”とろみ”があまりない食事を出して、むせてしまったことがありました。その時は大事に至りませんでしたが、一つ間違えば命にかかわることもあるんです」
看護師の女性
「また利用者はほとんど出歩かないので、ウイルスを持ち込むとしたら私たちです。入れ代わり立ち代わり違う看護師がやって来るとしたら、感染対策の面でもリスクだと思います」

必要なのは処遇の改善

女性は人手不足の解消には賃金など処遇の改善が欠かせないと感じています。

介護施設などで働く看護師の月収は45歳から49歳で平均およそ32万円。
これは病院で働く看護師よりも7万円余り低くなっていてすべての年代を通じて同じ傾向です。

日本看護協会は介護施設などで働く看護師の賃金を病院と同じになるよう、処遇を改善することが看護師の確保につながると指摘しています。
看護師の女性
「私が働く施設では看護師が常時2人以上勤務していますが、1人でも休んだり辞めたりすればとたんに苦しくなります。人手が集まらないのは新型コロナへの対応で大変なのに賃金が上がらないからです。日雇い派遣に頼るよりも、看護師の給料や待遇をあげるのが先だと思います」

派遣のルール 4月からどう変わったの?

実は看護師の派遣はこれまで全くなかったわけではありません。

病院や診療所など医療機関は原則禁止ですが、介護施設などでは看護師や准看護師の派遣が認められていました。

ただしこれも31日以上、1週間におおむね20時間以上働く場合で、それより短い派遣は原則、認められていませんでした。
それが4月からは介護施設や障害者施設それに訪問入浴介護などでの30日以内の日雇い派遣が認められ、1日から派遣を受け入れることができるようになったのです。

なぜ、いま日雇い派遣?

そもそも日雇い派遣は10年ほど前、一部の業務を除いて原則禁止された経緯があります。

あまりにも短期で雇用の管理が十分行き届かないといった懸念があったからです。

それがなぜいま看護師の日雇い派遣なのでしょうか。

国が検討を始めたのは新型コロナの感染が広がる前の2019年。人手不足に悩む地方自治体からの要請がきっかけでした。

当時、国が行った実態調査があります。
介護サービスを行う事業所およそ3400のうち看護師が「不足している」と答えた事業所は半数近い45%。

このうち43%は急な欠勤や繁忙期の対応などによって起こる臨時的、突発的な人手不足を挙げています。
一方で、看護師や准看護師の資格を持つ人およそ800人に短期で働きたいか聞いたところ、「働きたい」もしくは「こだわらない」と答えた人が64%にのぼりました。

急に人手が足りなくなった時に一時的に補充したい介護施設と、働く時間や場所を選びたい看護師。

コロナ禍で人手不足が深刻化する中、双方のニーズに応えるため国は日雇い派遣の議論を加速させたのです。

コロナ禍で厳しさ増す看護師の確保

日雇い派遣が活用できるようになった介護の現場にも話を聞きました。
京都で訪問入浴介護を行っている介護サービス事業所「ラ・ケア」。

浴槽やボイラーを備えた専用の車で利用者のもとへ向かうときは自治体が定めた基準に従い、最低でも看護師1人と介護士2人が乗り込みます。

稼働している車は1日最大9台。

このため毎日9人の看護師が必要になりますが、4年ほど前から確保が難しくなったといいます。
「高齢化で介護サービスの需要が増えたこともあっていくら看護師を募集しても集まらなくなりました。特に年末年始や夏休みはみんなが休みたい時期で、直接雇用している看護師だけでは回せない状況が続いています」
新型コロナの感染が拡大した去年以降はその状況はさらに悪化。

家族の感染が確認され、濃厚接触者となった看護師が急に1週間ほど勤務できなくなったことが2回もあったそうです。
内田幹也さん
「介護サービスを行うのに必要な人員の数は法律で決められているので、足りないと業務は行えなくなってしまいます。ほかの看護師に急きょ勤務をお願いしたりして本当に大変でした」

派遣を活用、でも本音は…

この事業所では看護師不足に対応するため、4年前から派遣を導入。

現在、看護師のおよそ2割が派遣です。
4月から解禁になった日雇い派遣も急に人手が必要になったときには有効な手段だと考えています。

しかし本音は直接雇用にしたいといいます。
内田幹也さん
「働く事に対する意識の変化があるのか、フルタイムで働く事を希望している看護師が見つからない一方で、派遣会社に登録している看護師は多いと感じています。こうした状況だと、派遣で人を確保することはやむをえない」

「ただ派遣の看護師も集まりが年々悪くなり賃金も高騰している。過去には派遣会社が現場で必要なスキルを理解しておらず、適切に処置ができない人が派遣されてきたこともありました。リスクを減らす意味でもできれば直接雇用がいいと思っています」
介護サービスで得られる金額は国が定めた介護報酬によって決まるため、増やすのは簡単ではありませんがこの事業所では収支をやりくりして4月から看護師の給与を引き上げました。

正社員の看護師の募集も続けています。

サービスへの懸念、ふっしょくを

日雇い派遣は看護師や介護の関係団体の間でも導入に前向きなところと否定的なところに意見が分かれています。

看護師の働き方を適切に管理できるのかといった懸念の声に対し国は日雇い派遣の看護師を導入する際のルールを細かく示しています。
任せる業務は服薬の管理や口腔ケアなど日常的な健康管理として、事前にできるだけ具体的に決めておくこと。

派遣会社は任せる業務について事前に具体的に把握し、派遣する看護師に説明して理解してもらうこと。

業務を行うのに必要な能力を身につけてもらうため派遣する前に教育訓練を行うこと。
そのルールは10項目以上に上ります。

仮に数日単位で複数の看護師を受け入れる場合、そのたびにさまざま対応が必要になるのです。

日雇い派遣は浸透するのか

国の統計では2019年末の時点で働く看護師の数は121万人余り。

このうち派遣の看護師は3700人余り。看護師のわずか0.3%にすぎません。
折しも4月13日、厚生労働省は新型コロナのワクチン接種にあたる看護師を確保するため、医療機関では過疎地域を除いて禁止されている派遣の受け入れを接種会場に限って認める方針を決めました。

コロナ禍での看護師不足の対策として打ち出される派遣の規制緩和。

人手不足は根本的に解消されるのか。

また安全で質の高いケアを保証するための対策は十分なのか。

引き続き取材を続けていく必要があると感じています。