“予約が取れない” 新型コロナ ワクチン接種

“予約が取れない” 新型コロナ ワクチン接種
「母の代理でずっと電話かけてます。189回かけました。一度もかかりません」
「母にワクチン受けさせるのに予約電話(70枠限定)鬼リダイヤルしたけど撃沈」

SNS上に相次いで投稿されているのは、年老いた親のいる家族が嘆く声です。

今月から始まった新型コロナウイルスワクチンの高齢者への優先接種。

「ネットができない」、「手続きの書類が届いたけど、よくわからない」と助けを求められ、家族がワクチン接種の予約の代行に追われる事態になっているというのです。

(ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子 目見田健 藤島新也)
「両親のワクチン接種は私の予約にかかっている。ネットか電話か早めにつながればいいけど…」
こんな切実な思いをSNSに投稿したのは、長野県の52歳の女性です。

父から求められた“助け”

滋賀県栗東市に住む81歳の父親から助けを求める電話があったのは、今月12日のことでした。
父親
「新型コロナウイルスのワクチンの接種券など書類がたくさん自治体から届いたが、インターネットでの予約などと書かれていてよくわからない。中には『もにょもにょした四角い変なマーク』も書かれている」
父親によく話を聞いてみると「もにょもにょした四角い変なマーク」の正体は、どうやらQRコードと推察されます。

父親に書類の一部を読み上げてもらったところ、インターネットと電話で予約する手続きが必要そうだということもわかりました。

申し訳なさそうだった電話

これまで家族に助けを求めたのは、母親が入院する時の一度しかなかった父親。その父親が申し訳なさそうに電話をかけてきたのでした。

女性は「自治体から届いた書類を一式送ってもらえば、何かできるかもしれないから」と言って、電話を切りました。

そして、実家のある栗東市役所の担当部署に電話をして、手続きの詳細を教えてもらったといいます。

ネット難しい 看護に追われる父 決めた予約代行

両親は夫婦2人暮らしで、ガンを患った75歳の母親の看護や介護をして生活する父親。
さらに、スマートフォンを持っておらず、電話機能のみの携帯電話しか持っていません。
女性は、父親の負担が大きいと判断して、予約を代行することにしました。

その時の心境をつづった女性の投稿です。
「高齢者のワクチン接種。ネットができない、老老介護と看護中の父には無理。ということで、ワクチンの接種券もろもろを転送してもらった。私がネットと電話でチャレンジ!」

「ネットと電話なら、やっぱりネットなんだろうか。悩ましい」

うちの親には難しい…

電話の翌日の今月13日、早速、書類が届きました。
封筒に入っていたのは、接種券、電話・ネットでの予約の方法、ネット予約用の専用のIDやパスワード、予診票、ワクチン接種の流れや接種会場の説明書類など合わせて6枚の書類。
女性はこの書類を見て、父親が助けを求めた理由がよくわかったといいます。
女性
「すべて、ちゃんと読まないといけない書類でした。うちの親には、すべてを読んで理解し、自分で予約を取るのは難しいだろうと思いました」

“ワクチン争奪戦” 始まる

予約開始を迎えた、14日午前9時。

すでに予約の受け付けを始めている、ほかの自治体についてのニュースを見ていた女性は、インターネット予約に絞る戦略を立てました。

予約の電話が殺到することを予想し、駆使することにしたのは、2台持っている自分のスマートフォン。

1台は父親用、もう1台は母親用に割りふりました。
2台のスマートフォンを父親用と母親用に割りふったのは、1台で父親、母親と順番に予約を取ろうとすると時間がかかってしまい、1人分しか取れないリスクがあると考えたからです。

父親の看護や介護が必要な母親のことを考えると、両親そろって同じ日時にするのが理想でした。

予約用の専用のサイトは初めは全くつながらなかったということですが、戦略が功を奏してか、予約開始から2分で両親2人分の予約を勝ち取ることができました。
女性
「予約が取れてほっとしました。高齢の両親は、日頃から感染した時のリスクや重症化への不安を漏らしていたので、自分のこと以上に緊張しました。若い世代なら対応できると思いますが、お年寄りの中には、ネットができないうえ、頼る家族もおらず困っている人もいるのではないかと思います」

受け付け終了 わずか5分「想定以上」

女性の両親が住む滋賀県栗東市のワクチン接種推進室に女性の経験した状況を伝えると、担当者は「誰もが納得できる予約方法があれば教えてほしいです」と困惑した様子で話を聞かせてくれました。

ワクチン接種推進室によると、予約を受け付けた今月14日のワクチンの割り当ては、合わせて900人分。
開始からわずか5分で予約が埋まったそうです。

電話予約用の回線は6つ用意していましたが、つながりにくい状況が続いて一部の市民からは苦情も出たといいます。

高齢者に向けてもっとわかりやすく説明した書類を送ることはできなかったか尋ねたところ、担当者は、時間的にも人員的にも準備は難しかったと答えました。
栗東市ワクチン接種推進室
「電話がつながらず混乱する事態になることは、他の自治体を見ても想定できましたが、実際はそれ以上でした。申し訳なかったと思います。今後は、ワクチンの供給が徐々に落ち着いてくると思いますので、予約が取れない状況は徐々に改善されていくと思います」

「抽せん」 チャンスは平等?

ワクチンをどういう順番で打てば、不平等感なく公平性を保てるのか、自治体は頭を悩ませています。

ワクチン接種の順番を申し込みの「先着順」で決める自治体が多いなかで、あえて「抽せん」にしたのが愛知県春日井市。

当初、4月に届くワクチンは2万人分と見込んでいましたが、実際に割り当てられたのは960人分。
それに対して、市内に住む65歳以上の高齢者はおよそ8万3500人。

仮に、接種の対象を「85歳以上」や「高齢者施設の入所者」に絞り込んだとしても、到底足りないため、悩んだといいます。
そして、市は、対象のすべての高齢者の中から希望する人を募って、その中から抽せんで接種する人を選ぶことにしました。

春日井市ワクチン接種推進室の近田政典室長は次のように理由を話しました。
春日井市ワクチン接種推進室 近田室長
「先着順だと早い者勝ちになってしまうので市民の方々の理解を得られるか疑問に感じました。課題もありましたが、圧倒的にワクチンの数が少ない以上、せめてエントリーの機会は平等にしたいと考えました」
今月1日から6日までの6日間、インターネットと電話で予約を受け付けたところ、コールセンターには電話が殺到するなどしました。

市内の高齢者の半数近いおよそ4万人から申し込みがあり、倍率は実におよそ41倍に達しました。
近田室長
「抽せんは考えた末に出した方法で市民の反応も比較的好意的だったと感じています。ただ、コスト面の課題もあり、どう評価するかは難しいと感じます。次に接種できる機会がいつになるかわからないといった不安から『今打っておきたい』と思う人が多く、申し込みが殺到したのではないでしょうか」

ネット予約のサポートも

ネットでの予約がうまくできない、パソコンやスマートフォンを持っていないというお年寄りのために自治体の職員が予約をサポートしようというのは茨城県取手市です。

今月19日に予約の受け付けを始めるのに合わせて市は、市内20か所の施設に合わせて40人の職員を派遣。

会場にはパソコンが用意され、接種券など必要な書類を持参すれば市の職員がお年寄りに代わってパソコンを操作して予約申し込みをしてくれます。

また、自分のスマートフォンを持参すれば、入力のサポートを受けることもできるということです。
取手市の担当者
「各地の混乱ぶりを見ていて、決してひと事ではないと感じています。大変そうだなと感じていますが、しっかり備えたいです。不安なく予約の申し込みができるよう、万全の体制で臨みたい」。

順番は来る 焦らないで

誰もが納得して接種できる方法はないのでしょうか。
政府の分科会のメンバーでワクチン接種の仕組みに詳しい川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長に聞きました。
岡部信彦所長
「予約の方法は、地域の事情を知っている自治体が、いちばん進めやすい方法で進めることが、安全なワクチン接種のために大切です。ただ、今のままでよい訳ではないので、自治体や国は、できるだけスムーズにワクチン接種に進めるようやっぱり努力しなくちゃいけないですね。ある程度の順位付けはしかたがないと思いますが、予約の方法で著しい有利不利にならないようにすることは必要だと思います」
「例えば、インターネットで予約できない人が『あーダメだ』と諦めてしまわないように、別の方法も設けて、しっかり伝えることは必要だと思います。とはいえ『いつ打てるの?』と不安な気持ちになる方もいると思います」
ワクチンをどのような心持ちで待てばよいのでしょうか。
岡部所長
「電話やインターネットがつながらない時に『自治体は何やってるんだ!』と思う気持ちはわかりますし、僕だってそうなると思いますよ。でも、限られたワクチンを上手に使っていくためには、現実的には優先順位が生じるのは仕方がないと思います。非常事態の時には不公平なことが起きがちですが、必ず順番は回ってきます。焦らず、慌てず、待っている期間は万全の体調で接種できるよう体調を整える準備期間だと考えて、感染対策を続けていくことが大切だと思います」
高齢者への優先接種は最初はワクチンの供給量が限られるため限定的に接種が進められますが、国は、全国のおよそ3600万人の高齢者が2回接種するのに必要な量のワクチンを6月中にすべて配送できる見通しだとしています。

「申し訳ない」と思わなくて済むように

今回の取材では、ワクチンを接種しようとする人とその家族、そして自治体、誰もが戸惑い、時に混乱しているように見えました。

滋賀県に住む両親の予約を代行した女性は、両親のことを思い、最善だと考えた行動でしたが、少し後ろめたさを感じたといいます。
両親の予約を代行した女性
「自治体の方が懸命にやってくださっているのはよくわかりましたし、短期間でこれだけのことをよくやっていただいていると感謝しています。ワクチンの数が限られている現状では、仮にどんな方法を取っても全員が納得するのは難しいのではないでしょうか。私の両親は運よく予約が取れましたが、その一方で予約が取れなかった人もたくさんいらっしゃる訳で、申し訳ないと思ってしまいます。接種をした人がこんな風に思わなくていい日が早く来るよう願っています」