ワクチンの接種予約へのLINE利用 自治体により対応分かれる

高齢者向けの新型コロナウイルスワクチンの接種が今週から始まりましたが、接種の予約にLINEを利用することになっていた自治体の中には、LINEが、十分な説明がないまま、利用者の個人情報などを中国からアクセスできる状態にしていた問題などを受けサービスの運用開始を見合わせる動きもあり、対応が分かれる形となっています。

高齢者向けの新型コロナウイルスワクチンの接種の予約をめぐっては、電話やホームページでの受け付けのほかにLINEでの受け付けも行われていて、LINEによりますと、全国のおよそ200の自治体が当初、LINEを利用する予定で準備を進めていました。

しかし、先月、LINEが十分な説明のないまま利用者の個人情報などを中国からアクセスできる状態にしていた問題などが明らかになり、サービスの運用開始を見合わせる動きもあり、NHKが調べたところ、甲府市や埼玉県秩父市、それに神奈川県寒川町などで見合わせています。

いっぽう、佐賀県基山町や、大阪府能勢町などでは、LINEがワクチン予約のサービスは、データを国内でのみ扱うと説明していることなどから、問題ないと判断して運用を始めていて対応が分かれる形となっています。

接種予約へのLINE利用 中止した自治体は

甲府市では、4月5日からワクチン接種の予約を電話やホームページに加えてLINEでも受け付ける予定でしたが、3月29日に急きょ取りやめました。

甲府市は、システム開発を担う会社に個人情報の保護に問題はないと確認したということですが、国やLINE側から直接、安全性を確認できておらず市民の不安を助長するおそれがあるため、利用を見合わせたとしています。

医務感染症課の堀内剛課長は「やはり市民感情、市民の不安が問題だ。“LINEを使って本当に大丈夫なのか?”という不安が解消されないかぎり、個人情報が関わるため、慎重にならざるをえない」と話しています。

市のホームページの申し込み画面には、LINEによる予約に切り替えるためのボタンも表示されていますが、クリックしても利用できなくなっています。

今月5日から一部の地区の高齢者を対象に始めた接種の予約の受け付けでは専用のコールセンターに電話が殺到し、わずか5時間で500人分の予約がすべて埋まりました。

「コールセンターに電話がつながらない」という市民からの苦情も相次いだということで、堀内課長は「LINEが使えていたら電話でお待たせすることもなく もっとスムーズに受け付けができたのではないか」と話していました。

LINEでは、接種する日が近づくと、通知してくれる仕組みなど、電話やホームページでの受け付けにはない利便性があるということです。

堀内課長は「一般向けの接種では、相当数の人が申請することになり、LINEが絶対に必要ではないかと考えている。問題があるわけではないことを国をあげて安全宣言みたいな形で発表してくれれば、LINEの利用が開始できるのではないか。まずは国やLINE側に情報管理の方法について具体的に説明してもらい、市民の安心を得ることが一番だ」と話しています。

LINEを通じた予約受け付け行う自治体も

佐賀県の基山町では、今月8日から高齢者向けのワクチン接種でLINEを通じた予約の受け付けを開始しました。

予約は、基山町が運営するLINEの専用アカウントに登録して行います。

LINEのトーク画面で性別や年代、職業などを答えたあと、専用のWebサイトにアクセスして、町から事前に届けられた接種券に記載された番号や生年月日などを入力すると、接種会場や日付を選んで予約することができます。

LINEを通じた予約は24時間受け付けていて、接種する日の前日に利用者のもとに通知が送られる仕組みになっています。

予約の受付は平日の午前9時から午後5時までの間コールセンターでも行っていますが、初日の8日は、およそ7割がLINEや専用のWebサイトを通じた予約だったということです。

基山町新型コロナワクチン接種推進室の中牟田文明室長は「いまは高齢の方もスマホを持っていますし、お孫さんやお子さんに入力してもらうこともできるので、使いやすいと思います。コールセンターだけでは回線がパンクして対応しきれなかったと思います」と話していました。

基山町ではもともとLINEを町民への情報発信などに利用していましたが、LINEのデータ管理をめぐる今回の問題を受けて、予約のシステムを開発している会社に直接問い合わせた結果、データが国内に保存されていることが確認できたことから、LINEを使い続ける判断をしたということです。

中牟田室長は、「行政から情報をプッシュ型で届けるためにもLINEが必要ですが、データが外部に漏れるリスクがあることは考えていませんでした。今後は民間のサーバーを使う場合、データがどのように保管されているのかをきちんと確認したうえで、契約することになると思います」と話していました。

LINEの問題とは

LINEをめぐっては、日本のサーバーにある利用者の個人情報に中国からアクセスできる状態になっていたり、ユーザーがやり取りしていた動画や画像が韓国で管理されたりしていたことが明らかになり、利用者への説明が十分でなく、個人情報などの流出や悪用がなかったかどうかが問題となっています。

LINEは利用者に事前に同意を求める個人情報の保護についての指針、「プライバシーポリシー」を改定し、データを移転する可能性のある国や地域の名前を明記する形に改めています。

LINE側の説明は

LINEでは自治体向けのワクチン予約システムに関連するデータについて、開発当初から国内のデータセンターのみに保管し、アクセスについても国内からのみに限定するとしていて、方針に変更はないものの先月24日に自治体の担当者向けにオンラインで説明会を開き改めて説明を行ったとしています。

一方、ワクチン予約システム以外の政府・自治体向けの公式アカウントについてはテキスト以外の画像や動画などのデータが韓国のデータセンターに保管されていたとして、テキストを含むデータへのアクセスを日本国内のみに制限したうえで、ことし8月までに国内にデータを移管することにしています。

今回の問題を受けてLINEでは今月19日に総務省に対して問題の経緯やセキュリティー対策について報告することにしているほか、親会社のZホールディングスも有識者による委員会で詳しい調査を行っています。

今回の問題についてLINEではユーザーへの説明や配慮が不十分だったと説明していますが、ワクチン予約システムの自治体の活用の現状など詳細については「個人情報保護委員会の調査対象項目を中心に、第三者の検証を受けている立場であり、回答は控える」としています。

専門家「国が一定の指針を示すべき」

個人情報保護の問題に詳しい板倉陽一郎弁護士は「LINEは、すでに国民の多くが利用し、省庁や自治体も活用している重要インフラであり、民間サービスではあるが、国家のサイバーセキュリティー戦略の中で、外国からの攻撃や諜報などから守る対象として捉えるべきだ。現状では、LINEを活用した自治体のサービスでの個人情報の取り扱いは、各自治体がそれぞれの個人情報保護条例に従って個別に判断していると見られるが、LINEを利用する自治体のサービスについては、国が分野ごとの個人情報の取り扱いに関して、一定の指針を示すべきだと考える」と話しています。

“LINEは10代相談に不可欠”訴える団体も

一部の自治体などで、LINEの利用を見合わせる動きもある中、LINEの利用は止められないと訴える団体もあります。

大阪市を拠点に、10代の若者の孤立を防ぐための活動を行っているNPO法人D×Pは、3年前からLINEを使ったアプリで、進学や就職、生活の相談に乗る「ユキサキチャット」というサービスを展開しています。

NPOでは、LINEの問題が発覚したあとも、アプリのデータ保管場所を確認したうえで、利用に問題はないとして、サービスを継続しています。

コロナ禍に入った去年3月からの1年間で、サービスの登録者数は6倍近くに急増しておよそ4100人となり、飲食店でのアルバイトなどが減って困窮する人が増えたり対面での相談の機会が減っていることなどが原因として考えられると言うことです。

NPOでは、LINEで相談してきた人からウェブ会議でより詳しい状況を聞き取って、寄付で集めた食糧を送ったり生活費を支援したりしていて、特に食糧の送付はことしに入ってから急激に増えているということです。

この日、オンラインで相談していた家庭の事情で困窮しているという女子高校生は、ガス代や学費の支払いが難しくなっていると訴え、これに対して、相談員は、生活保護費から、どう工面していけばいいかをアドバイスしていました。

女子高校生は「もともと人と話すのが苦手で、LINEだと文字で相談しやすいので助かった」と話していました。

NPOの代表を務める今井紀明さんは「特に10代はLINEしか使わない状況で、コロナ禍で課題を抱えていたり、孤立しがちななか、オンライン上のセーフティーネットの役割はますます重要になっている。当然、LINE側が利用者が安全と思えるようなデータ管理を行う必要があるが自治体やNPOが横並びで安易に利用を止めるのはやめるべきだ。国や自治体もLINEを使うか、使わないのか、その目的に応じて、しっかりと意思決定すべきだ」と話していました。