話すことを“封印”した私が話せるようになった

話すことを“封印”した私が話せるようになった
先月1日、岡山県の高校に通う女子生徒が、卒業式を迎えました。友達と笑顔で話しながら、写真を撮っていたのは見尾緩奈さん(18)。しかし、このように友達と楽しい時間を過ごせるとは思っていませんでした。実は、見尾さん、きつ音に悩まされ、高校に入学するまで話すことを“封印”していたのです。(岡山放送局記者 國武桃子)

会話が恐怖に…

きつ音は、最初のことばを繰り返したり(例「さ、さ、さくら」)、詰まったりして(例「………さくら」)、ことばが滑らかに出ない症状です。

100人に1人の割合で発症するとされ、アメリカのバイデン大統領も、子どものころ、きつ音に悩んでいました。
見尾さんにきつ音が出始めたのは幼稚園のころ。運動会のかけっこで自分の名前を呼ばれたとき、うまく返事ができませんでした。そのときは、「自分は変わっているのかな?」と思いながらも、気にせず普通に生活していたといいます。

しかし、小学生になると周囲に変化が現れはじめました。先生や友達から呼ばれても、詰まって「はい」と言えず、みんなにからかわれました。発表会では、せりふを言うのに15分以上もかかりました。

すごく恥ずかしくて、自分は嫌われているのではないかと思ったという見尾さん。何よりつらかったのは、きつ音について誰にも理解してもらえなかったことです。

「なんでしゃべらんの。しゃべれや!」

このことばを聞くのが嫌でした。
見尾さん
「普通の人は自分が思ってることを、すらすらといえると思うんですけど、きつ音があると自分の意思と関係なくことばが出なくなってしまうから。そこがいちばんつらいかなと。小学6年生ぐらいからクラスの人に迷惑をかけてしまっている気持ちが大きくなっていって、自分が話さないほうがみんなも迷惑しないから封印したほうがいいのかなと思って封印してしまいました」
こうして話すことをやめた見尾さん。クラスメートともほとんど関わらなくなり、休み時間には1人で本を読んだり、絵を描いたりすることが多くなりました。

「ゆっくり、じっくり、何度でも」

変わるきっかけになったのは、岡山県高梁市にある宇治高校への入学です。

「一人一人を大切にする」ことがモットーの定時制の小規模校で、1学年は7人。発言が遅いと怒ったり、からかったりする人はいませんでした。

きつ音のある生徒のために、クラスみんなで取り組んできたのが“話したくなる環境づくり”です。
ことばに詰まっても、うなずきながら待ち、発表が終わると「いいね!」と合図。

「ゆっくり、じっくり、何度でも」

自信をもって話せる雰囲気は、大きな助けになりました。さらに、ひと言目がなかなか出てこない見尾さんのために、「せーの」と声を出し、話し始めの「きっかけ」も作ってくれたのです。
見尾さん
「そういうフォローを自分から言わなくてもしてくれてすごくうれしかったです。クラスメートをすごく大事にしたいと思ったし、自分も恩返ししたいなと思いました」
ただ、どうしても苦手な発音や話しにくいことばがありました。
そこで、担任の久米先生が出してくれたアイデアが「言いかえ」でした。
久米教諭
「『あ』とか『お』とかの母音が言いにくいとか、濁点が言いにくいとか、苦手なことばが分かるようになりました。そこで、ことばを言いかえる方法、たとえば、『お世話になった』ということばが言いにくかったら、『サポートしてくれた』に変えたらどうかと提案しました」

周りの人がやるべきこと 本人ができること

周囲はどう向き合えばよいのか。専門家に聞きました。

自身もきつ音がある九州大学病院の菊池良和医師は、こう指摘します。
菊池医師
「きつ音のある人の話を聞くときは、時間がかかってもせかさず、待つことが大切です。そして、話し終わったあとに『あなたのことばが伝わった』などと反応してほしいです。きつ音のある人がうまく話せないとき、途中で割り込んで話そうとしていることを遮ったり、先取りしたりする聞き手がいますが、そのことばが必ずしも正しくないことがあったり、せかされている気持ちになったりするので、あまりよくないと思います」
また、会話や発表をするときなど、具体的にどのような場面で困るのか、そのときにどのような支援が必要なのか、本人の意向も踏まえてその人にあった形で支援することが大切だと話していました。

一方、きつ音に悩んでいる人に対しては、自分と向き合い、客観視することが大切だといいます。
菊池医師
「周りの反応が怖くなったら、信頼できる人に『怖い』という気持ちを伝えてみることをおすすめします。その人が気付いて、配慮をしてくれると思うだけで、怖いという気持ちは減ります。また、きつ音のある人は人前では早く話さなければいけない、詰まってはいけないなどと、完璧主義に陥りがちです。そのような考え方を変えるためには、きつ音は自分だけではないと知ることが大切になります。きつ音のある人の集まりなどに参加することで、自分を客観視し、ちょっとくらい詰まってもいいんだなと思うことができます」

“話したい”気持ちは変わらない

周囲のサポートも受けて、3年生になるころには、うまく話せるようになった見尾さん。気持ちも前向きに変わっていきました。

迎えた卒業の日。3年間学んだ思い出の教室で感謝の気持ちを伝えました。
卒業後、地元のメーカーに就職した見尾さん。1人でも多くの人にきつ音への理解を深めてもらいたいと考えています。
見尾さん
「きつ音への支援でいちばん必要だと思うのは、周りの人にきつ音を知ってもらい、安心することだと思います。きつ音のある人も普通の人と一緒で話したい気持ちは変わらないということを伝えたいです」
私は、見尾さんの言葉にはっとしました。

周りの環境や反応で、きつ音のある人の“話したい”という気持ちを封じ込めてしまっていないか。相手のことを理解し、話したいという気持ちをくみ取れているか。

人との接し方について、改めて考える取材となりました。
岡山放送局記者
國武桃子
学校教育や子どもの問題などを取材