イスラエル 15歳以下へワクチン接種進める方針示す

新型コロナウイルスのワクチンの接種が世界的に速いペースで進むイスラエルでは、人口の半数がすでに2回の接種を終え、感染者や死者の数が減少傾向となっていて、経済活動の再開が進んでいます。イスラエル政府は15歳以下への接種も進める方針を示していて、今後、多くの人が免疫を持つことで大きな流行を防ぐ、いわゆる「集団免疫」を獲得できるかが焦点です。

集団免疫獲得できるか焦点

イスラエルでは去年12月に新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まり、イスラエル政府によりますとこれまでに人口の52%にあたる492万人が2回の接種を受け、60歳以上で8割以上、20代で6割以上が接種を終えています。

接種が進む中、感染者数は減少し、ことし1月中旬に1万人を越えていた1日の新規感染者数は、現在およそ200人前後で、重症患者や死者の数も減少傾向となっています。

ただ、イスラエル保健省は11日、ワクチン接種によって多くの人が免疫を持つことで大きな流行を防ぐ、いわゆる「集団免疫」には現時点では至っていないとの考えを示しました。

そして、人口のおよそ3割が15歳以下で、接種対象ではないとしたうえで「集団免疫を獲得するには、一定数の子どもへの接種が必要だ」と述べ、規制当局による許可が下り次第、12歳から15歳への接種を行う方針を明らかにしました。

15歳以下への接種をめぐっては、アメリカの製薬大手ファイザーとドイツの企業ビオンテックが12歳から15歳への接種について安全性と有効性が確認できたとして、アメリカの規制当局に使用許可の拡大を申請したと発表しています。

ただ、イスラエルでは、接種を終えた保護者でも、子どもへの接種については慎重な考えを示す人がいることから、専門家は、接種を進めるには政府による透明性の高い説明が不可欠になると指摘しています。

イスラエルではことし2月、接種を終えたことを示す証明書「グリーン・パス」を導入し、証明書を示すことを条件に店内での飲食やイベントへの参加を認めるなど、経済活動の再開が進んでいて、今後15歳以下への接種によって集団免疫を獲得できるかが焦点となっています。

保護者の反応はさまざま

イスラエル保健省は、12歳から15歳を対象に新型コロナウイルスのワクチンを接種する方針を示していますが、保護者の反応はさまざまです。

エルサレムに住むペリー・メンデルボイムさんは、妻や17歳の娘とともに、2回のワクチン接種を終え、家族はイベントに参加したり、ロックコンサートを楽しんだりしているということです。

メンデルボイムさんは15歳以下への接種が始まれば、13歳の息子にも接種をさせたいと考えていて「専門家や医師が安全だと認めれば、接種を受けさせたい。みんなが通常の生活に戻るために必要であれば、仕方がないと思います」と話していました。

一方、同じエルサレムに住むイファット・コーヘンさんも、夫とともに2回の接種を終えていますが、12歳と14歳の子どもたちへの接種には、慎重な考えです。

コーヘンさんは「ほかの国も子どもへの接種を行うのであれば、接種を受けさせるかもしれませんが、ファイザーだけが安全という段階では、当面は待ちたいです」と話していました。

保健省「集団免疫まだ至らず」

イスラエル保健省で公衆衛生部門のトップを務めるシャロン・アルロイプライス氏は、11日NHKとのインタビューに応じました。

この中でアルロイプライス氏はワクチン接種によって多くの人が免疫を持つことで大きな流行を防ぐ、いわゆる「集団免疫」について「マスクや接種証明書などの制限がなく人々が出歩くことができ、学校も完全に再開し、すべてが以前のような状況になれば、集団免疫を獲得したことになるのであろうが、そのような状態ではない」と述べ、現時点では至っていないとの考えを示しました。

アルロイプライス氏は集団免疫を獲得するには、15歳以下の人口の一部もワクチン接種を受ける必要があるという考えを示し、省内に外部の小児科医や感染症の専門家などで構成する特別チームをすでに立ち上げ、接種の方針などについて協議を進めているとしたうえで、規制当局による許可が下り次第、12歳から15歳への接種を行う方針を明らかにしました。

また、15歳以下への接種に慎重な考えを持つ保護者がいることについても理解を示し「接種を義務化することはなく、最後は保護者の選択だ。保健省としては、これまで同様、ワクチンが安全で効果があるというデータを科学的に示していきたい」と説明責任を果たすことを強調しました。

医療保険機構「透明性の高い説明が不可欠」

イスラエルでワクチン接種を担う医療保険機構の幹部、ラン・バリサー氏は11日、NHKのインタビューに応じ、15歳以下への接種を進めるには政府による透明性の高い説明が不可欠になると指摘しました。

バリサー氏は、イスラエルで感染者などが減少傾向となっていることについて、優先的に接種が行われた60歳以上で感染者の割合が先に減少し、若い世代の感染もその数週間後に接種が始まり減少傾向に転じたとして、ワクチン接種が大きく影響しているとの見方を示しました。

ただ、イスラエルでは多くの人が免疫を持つことで大きな流行を防ぐ、いわゆる「集団免疫」の獲得には至っていないとし、現在の減少傾向はワクチン接種に加え、マスクの着用などの感染予防対策によるもので、状況によっては再び感染が拡大する可能性もあると分析しています。

バリサー氏は集団免疫を獲得するには、15歳以下への接種も必要だとの考えを示し「政府には極めて高い透明性が求められる。わかっていることと、わかっていないことを明確にして論理的な説明を行い、あらゆる科学的なデータや、専門家のアドバイスに基づいて、保護者が接種の是非について判断できるようにするべきだ」と指摘しました。