コロナ禍でも「触れることを諦めない」ある高齢者施設の試み

コロナ禍であっても家族とのふれあい、「触れることを諦めない」という思いで取り組む高齢者施設があります。家族に特殊な防護服を着てもらって感染リスクを抑え、施設に入所する親と触れ合ってもらおうという試みが進められています。

“特殊な防護服”

高齢者70人が暮らす大阪 池田市の高齢者施設では、感染が拡大する中、家族が施設に入所する親などと面会することが難しくなり、携帯端末を使ったビデオ面会をできるようにしたり、職員が入所する親などの状況を手紙に記して、家族に届けたりする取り組みを重ねてきました。

しかし、施設で生活する70人の平均年齢は87歳を超えていて、この1年で15人がコロナ以外の病気や老衰で亡くなる中、一刻も早い面会の再開を目指してきました。

そして、医師と協議を重ねた結果、先月から、施設を訪れる家族に特殊な防護服を着てもらうことで、これまで見合わせてきた面会を再開させました。

この防護服は、取り込んだ空気を外に出す際に高性能のフィルターを通す仕組みになっていて、仮に面会に訪れる家族が無症状のまま感染していても、服の外にウイルスを出すことを極力防ぐことができるということです。

実際に会える時間は15分に限られていますが、防護服を着ることで実際に会って、会話し、手を握り合うことができるようになりました。

先月末には、75歳の娘が防護服を身につけ、施設で暮らす98歳の母親と8か月ぶりに面会できました。

施設長の平野泰典さんは「認知症の高齢者も多く、残された時間に早く対応するために防護服での面会という決断をしました。高齢になり、話したり聞いたりするのは難しくなっても、“触れること”は感じられると思っています。できるだけの感染対策をしたうえで、『触れることを諦めない』という思いで取り組みたい」と話していました。

母娘が8か月ぶりに手を握りあう触れ合い

この施設で暮らす内藤裕紀子さん(98)は、娘の眞理子さん(75)と8か月、会えていませんでした。

施設での面会は関西での感染者がやや減った去年6月に再開され、眞理子さんは、母親の98歳の誕生日を祝うことができましたが、感染の再拡大で去年7月以降、面会ができなくなりました。

眞理子さんは「面会が制限される前は毎週必ず会いに行って、何をするでもなくお茶を飲んで2人で並んでテレビを見たりしていました。7月の誕生日の時も『もう帰るね』と言ったら母は泣き顔になり、『コロナがおさまったらまた会えるからね』と伝えました。こんなに長い間、会えなかったことはないので心配です」と話していました。

施設からは母親の様子を記した手紙や写真が毎月届いているほか、ビデオ面会も活用していますが、耳が遠くなってやり取りが難しくなり、認知症が進行していないかも心配だといいます。

そして、先月26日、眞理子さんは検温や手指の消毒を行って防護服に着替え、8か月ぶりの母親との面会に向かいました。

面会時間は15分ほどで、母親の居室や共同で使うフロアではなく、エレベーターホールで会いました。

母親の裕紀子さんは、防護服姿の眞理子さんを見ると、「眞理子」と名前を呼び、手を握りしめました。

母親は耳が遠くなっていて、筆談を交えながら会話をしたほか、途中で娘のことが分からなくなり、認知症の進行がうかがえるような場面もありました。

ただ、それでも直接ふれあえたことで、母親は「本当にありがとう」と、うれしそうに眞理子さんの手を握りしめながら再会を喜んでいました。

面会を終えた娘の眞理子さんは「オンラインと比べて、直接会えるというのはとても気持ちが入りました。母の手を握って、体温の温かさを感じることができてよかったです」と話していました。

施設では防護服を4着準備していて、希望する家族が月に1度、会えるようにしたいと考えています。