「死活問題だ…」 処理水めぐり懸念や風評被害対策求める声も

東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む処理水の処分方法について、政府は国の基準を下回る濃度に薄めたうえで海へ放出する方針を決めました。東京電力に対し2年後をめどに海への放出を開始できるよう準備を進めることや、賠償も含め風評被害への対策を徹底するよう求めています。

福島県の漁業関係者の間では政府の決定について風評被害への懸念の声が上がっていますが、こうした声は周辺の県の漁業者からも聞かれます。海外も含めた今回の決定をめぐる反応です。

漁業者 “風評被害に強い懸念”<岩手 陸前高田>

岩手県陸前高田市の漁業者は風評被害に対する強い懸念を示しています。
陸前高田市小友町を拠点にカキやワカメの養殖を手がける水産会社代表の千田勝治さんは「三陸の海は福島ともつながっていて、とても他県のこととは思えないし人体に影響の無いようトリチウムの濃度を薄めても風評被害による消費者の買い控えが起きるのではないか。漁業者はコロナ禍で需要が減る中でダブルパンチとなり、さらにひどい状況になると心配している」と強い懸念を示しました。

また、政府の決定に至る手続きについては「漁業者とのコミュニケーションもないまま一方的に放出を決めたのは問題だ」と指摘したうえで「2年後に海への放出が始まるまでに、国はモニタリングや風評対策などを漁業者にしっかり説明してほしい」と話していました。

「決定は遺憾 憤り感じる」<宮城県漁協>

宮城県漁業協同組合も懸念を募らせています。
県漁協によりますと、今シーズンは新型コロナウイルスの影響などで水産物の価格が下がり、宮城県特産のカキのうち主に生食用のむき身では先月の10キロ当たりの平均単価が7428円と去年の同じ月の60%程度にとどまっています。このため、今回の方針決定に伴う風評被害で漁業者の生産意欲がさらに下がると懸念を募らせています。
寺沢春彦組合長は「政府に海への放出には断固反対だと伝えてまもない中での決定は遺憾で憤りを感じている」と話しています。そのうえで「消費者にとって安全と安心は違うものであり国や東京電力には処理水の海洋放出はリスクではないと徹底的に説明してもらいたい。また、東日本大震災から10年がたったが、水産加工業などは震災以前の水準に達していない状況もある。県とともに風評被害への対策などを国に求めたい」と話していました。

特産のシラス 価格徐々に回復も「努力が水の泡」<茨城 北茨城>

風評被害を懸念する声は関東の各地でも相次いでいます。
福島県との県境に位置する茨城県北茨城市は13日も特産のシラスの競りが行われるなど県内有数の港町として知られています。
漁協などによりますと、福島第一原発の事故のあとは2年近くシラスに値がつかない時期もあったものの、事故から10年余りがたち、価格は原発事故の前の6割から7割ほどまで回復しているということです。

今回の政府の決定について、北茨城市でシラス漁を営む59歳の男性は「魚のPR活動なども行い価格が戻りつつあったやさきの海洋放出となり、これまでの努力が水の泡になると思います。国や東京電力には誠意を持ってわれわれのところに来て説明してほしいです」と話していました。

また、69歳の漁業者の男性は「海に水を流されると、あと何年苦労しなければいけないのかと思います。10年間苦労してきた状況を見てもらい漁業者たちの声を聞いて風評被害対策をしてほしいです」と話していました。

さらに72歳の漁業者の男性は「原発事故のあとは若い人が船に乗る状況になく後継者の問題が深刻ですが、海洋放出はそれに追い打ちをかけることになります」と話していて風評被害を懸念する声が相次いでいます。

「死活問題だ」<茨城沿海地区漁協>

茨城県の漁業者の団体の会長は政府の決定は容認できないという考えを示しました。
県内にある10の漁協でつくる茨城沿海地区漁業協同組合連合会の飛田正美会長は「決定内容は到底容認できるものではなく海洋放出は行わないでほしい」としたうえで「県内への影響は計り知れず風評被害により漁業が衰退してしまう」と述べました。

また「茨城県も東日本大震災の被災地で10年たっても魚介類は事故前の6割から7割の値段で取り引きされる状況だ。それでも事故当時に比べ少しでもよくなってきた状況の中で海洋に放出されるのは漁業者にとっては死活問題だ」と訴えていました。

連合会は去年2月に政府に対して処理水を海に放出させないよう求める要望書を茨城県の大井川知事に手渡すなど、反対の立場を示してきました。

茨城 大井川知事「問題は風評被害対策をどう取るか」

茨城県の大井川知事は内閣府の担当幹部とオンラインで会談し「決定は地元自治体としてしっかり受け止めさせていただくが、地元の納得を得る努力を続けてほしい」と述べ、風評被害への対策を要望しました。
大井川知事は13日午前、内閣府の松永明 福島原子力事故処理調整総括官とオンラインで会談しました。

はじめに松永総括官は「安全性を厳格に担保することと風評対策を政府一丸となって行うことを前提として海への放出を決定した。決定した経緯を丁寧に説明していくとともに風評被害対策に取り組んでいきたい」と説明しました。

これに対し大井川知事は「決定は地元自治体としてしっかり受け止めさせていただく。できるかぎりの協力はするつもりだが地元の納得を得る努力を続けてほしい」と述べ、風評被害への対策を講じるよう要望しました。
会談のあと大井川知事は「海への放出はさまざまな選択肢を検討したうえでのやむを得ない選択だったと聞いたのでわれわれとしても納得している。問題は風評被害対策をどう取っていくかだ」と述べ、政府の対策を注視する考えを示しました。

水揚げ量日本一の港も「風評被害が怖い」<千葉 銚子>

水揚げ量が日本一の千葉県の銚子漁港でも漁業者から懸念の声が聞かれました。
去年1年間の水揚げ量が27万トン余りと10年連続で全国1位の千葉県銚子市の銚子漁港では13日朝も水揚げが行われていました。
銚子漁協に所属しキンメダイの漁をしている田邉克巳さん(62)は「風評被害がいちばん怖いです。処理水を海に流すと魚が売れなくなる可能性があり心配です。震災のあと風評被害で価格が下落して大変でしたが今度はそれ以上になると思います。沿岸の漁業者への対応をしっかり議論してほしいです」と話していました。

田邉さんは10年前の原発事故のあと、銚子で水揚げされた魚の買い控えが起きたとして首都圏の消費者に安全性をPRする取り組みを続けてきました。また銚子市も放射性物質の検査を今も週に3回行っていて、これまでに基準値を超えたことは一度もないということです。

一方、千葉県で水揚げされた水産物について韓国と中国、それに台湾が今も輸入を禁止する措置をとっています。

千葉 熊谷知事「安全性など政府が丁寧に説明を」

千葉県の熊谷知事は「政府は科学的根拠や国際的基準に基づいて判断したと思っている」と述べました。そのうえで「風評被害を防ぐ実効性のある取り組みを政府に求めていきたい。安全性などについても政府が丁寧に説明していくことが重要だ。漁業関係者の声を聞きながら丁寧なプロセスで進めていく必要がある」と述べました。

千葉県は去年9月、国が周辺の県に意見を求めた聴取会で、副知事が放出による風評被害が県内の水産業ばかりでなく観光業にも影響を与えかねないと指摘したうえで「対話を丁寧に重ね関係者の十分な理解と納得を得てほしい」と求めていました。