トリチウムなど含む処理水 海への放出 福島県の漁業関係者は

東京電力福島第一原子力発電所の事故で福島県の漁業は、大きな打撃を受けました。

福島県沖では、原発事故のよくとしから試験操業が続けられてきました。

事故から10年がたち、魚介類から国の基準を超える放射性物質がほとんど検出されなくなったことなどから先月末に試験操業を終え、今後は、段階的に水揚げ量を増やして数年かけて「本格操業」に移行する計画です。

こうした中で、トリチウムなど放射性物質を含む処理水が海に放出された場合、風評被害が再燃するのではないか、として地元の漁業者は、13日決定した政府の方針に対して反対の姿勢を崩していません。

漁業者の一人「議論もろくにせず決定 怒りがおさまらない」

このうち、福島県新地町の漁業者の小野春雄さん(69)は「漁業者が反対を表明していた海への放出の方針を議論もろくにせずに決定するなんて、私たちに寄り添おうという気持ちがないのかと怒りがおさまらない。自分は津波で亡くなった漁師の弟のためにもそして息子たちのためにも一生懸命漁業に取り組んでいる。周りのみんなも復興に向けて頑張っている。その姿を政治家たちは見にも来ないで方針を語ることにも腹が立っている」と話していました。

そのうえで「政府は風評対策をしますと口では言っているが、現状、具体的なものも示されず、東電の信用度も落ちている中、全く信頼できない。自分たちが願っているのは、普通に毎日好きなときに漁をして生活すること。そのためには本当に福島の漁業に影響が出ないという保障が得られるまでは今後も反対の姿勢を続けていくしかないのではないかと思う」と話していました。

若手漁業者 全国的議論が行われないままの決定に批判の声

福島県内の若手漁業者からも、トリチウムなどを含む処理水の処分方法について全国的な議論が行われないままに海への放出が決められたとして政府の姿勢に批判の声があがっています。

福島県相馬市の漁師で福島県漁協青壮年部連絡協議会の会長を務める高橋一泰さん(42)は「全国的に処理水の安全性も全く理解されていない中で海への放出に納得できるわけがない。そもそも政府はこの10年間もこの問題を放っておき、全国に議論も呼びかけず何をしてきたんだって怒りもわいている。そんな状況で風評対策しますと言われても誰が納得するんですかと問いたい」と話していました。

そのうえで、「福島県の漁業は、原発事故で壊滅的な被害を受けながらも10年たって若手漁師も増え、試験操業も終わり、ようやく少しの光が見えてきたところだ。その状況を決して邪魔して欲しくない。政府には自分たちの意見も聞かずに簡単に『方針を決めました』で終わりにして欲しくない。福島の漁業者と本気で向き合ってほしい」と話していました。

水産会社 風評被害に強い懸念

福島県産の魚を扱う水産会社からは風評被害への強い懸念の声が上がっています。

福島県浪江町の水産会社「柴栄水産」は去年、町や地元の漁業者からの要請を受けて事業を再開しました。

地元の魚を首都圏など全国に卸していますが、柴孝一社長は処理水の放出で取り引き先に影響が出ることを懸念しています。

柴さんは「海への放出でいちばん懸念しているのは新たな風評被害です。ようやく試験操業も終わりを迎えて比較的風評もおさまってきて市場からの評価もよくなっているので、できれば海への放出をやめてほしいです。もしそれしか選択肢がないのなら漁業へ影響が出ない遠い沖のほうで流してほしい」と話していました。

また、この会社では14人を従業員として雇っていて、「取り引き先への影響が出てくると、従業員を雇えなくなってしまう心配もあります。廃炉を進めるのも大切ですが、政府には地元の復興を遅らせないようしっかりとした対策を練ったうえで進めてほしいです」と話していました。

浪江町では原発事故前25社ほどの水産加工会社がありましたが、町内で再開しているのは、柴栄水産1社にとどまっています。