農業で働きたい人が急増 コロナで収入減や働き方の変化背景に

農業で働きたいと希望している人がことし1月までの1年間でおよそ10倍に急増していることが、大手人材情報会社のデータで分かりました。

副業としての農業を希望する人も多いということで、新型コロナウイルスの影響による収入の減少や働き方の変化が背景にあるとみられています。

大手人材情報会社「マイナビ」はおととしから農業分野の求人アプリを開設していて、登録者に農家や農業法人などでの仕事を紹介しています。

会社によりますと、このアプリに農業で働きたいと希望し、登録した人はことし1月末の時点で1万2759人と前の年の同じ時期に比べておよそ10倍にのぼり、急増しているということです。

登録した人を年代別でみますと、
▽20代が25%、
▽30代が28%、
▽40代が23%、
▽50代が18%、
▽60代が2%となっていて、20代から30代が合わせて5割を占めていました。

また、この会社によりますと、登録者の中には副業としての農業を希望する人も多く、東京や大阪などの都市部に住む人なども目立つということです。

会社では、農業を希望する人が急増している理由について新型コロナウイルスの影響で、収入が減少したり、リモートワークなどが広がり、働く場所にこだわらず仕事ができるようになったりしたことなどが背景にあるのではないかと分析しています。

また、去年、農林水産省などが開いた農業の仕事を紹介するイベントでも、参加者が前の年より4割増加するなど農業で働きたいという人たちが増えているということです。

「マイナビ」の農業活性事業部の池本博則 事業部長は「急激に希望者が増えていて驚いている。農業に対して注目が集まっている好機だと思うので、希望者と受け入れ側をうまく結び付けていきたい」と話しています。

農家と就農希望者を結び付けるイベント人気

大手人材情報会社「マイナビ」によりますと、この会社が東京や大阪などで定期的に開催している農家と、新たに就農を希望する人を結び付けるイベントには去年から多くの人たちが訪れるようになったということです。

このうち、先月、大阪市で開かれたイベントでは新型コロナウイルスの感染を防止するため予約制としましたが、60人余りの定員は満員となりました。

会場では農業法人や地方自治体など16の団体のブースが設けられ、訪れた人たちは仕事の内容などについて説明を受けていました。

このうち、東京に住むシステムエンジニアの20代の男性は新型コロナの影響で毎日、リモートワークとなり働く場所にこだわる必要がなくなったとして、副業で農業の仕事を探しに来たということです。

男性は「今後は第1次産業も重要になると思ったことに加え、リモートワークの導入でどこでも働けるなら農業もできるのではと思いました。将来的には自分のやりたい仕事をしながらそのうえで農業もやっていきたい」と話していました。

「マイナビ」の農業活性事業部の池本博則 事業部長は「キーワードとして副業とかダブルワークというのが増えている。まず農業を試すという意味でもこうした働き方から農業に入っていくというのはよいのではないか」と話しています。

副業として農業で働き始めた人も

新型コロナウイルスの影響で収入が大幅に減ったため、副業として農業で働き始めた人もいます。

前橋市の小林ミチルさん(50)は現在、市内の中古車販売店で週5日、パート従業員として午後2時から7時まで働きながら、午前中は副業としてトマトを栽培している自宅近くの農園でも同じくパート従業員として働いています。

副業として農業を始めたのは去年6月でした。

きっかけは当時、働いていた地元のホテルでの収入が新型コロナウイルスの影響で大幅に減少したことでした。

宿泊客が大幅に減ったため去年11月の出勤日は4日にとどまり、給料はおよそ3万円で、休業手当を入れても4万円余りと、1か月の収入は感染拡大前と比較して6割以上減少しました。

小林さんはこのままでは生活ができないと考え、去年12月にホテルの仕事を辞め、いまは中古車販売会社で働いています。

中古車販売会社と農業の収入は合わせて15万円ほどです。

小林さんは娘と2人暮らしで農業の収入は生活に欠かせないといいます。

小林さんは「農業の経験はなく初めてでしたが、働くことが楽しいと感じています。今後も副業として、農業は続けていきたいと思っています」と話していました。

一方、小林さんが働いている農園も収穫期の人手不足の解消などにつながったということです。

農園では現在、およそ10人が働いていてそのうち小林さんを含めて3人が副業として勤務しています。

農園によりますと新型コロナウイルスの感染拡大のあと、農業の経験がない人から働きたいという問い合わせが増えているということです。

農園を経営する石井 真帆美さん(49)は「農園で働く従業員が増えて、仕事も非常に効率的になり助かっています。これからも柔軟に人材を受け入れていきたい」と話していました。

人材育成に力を入れる農業法人

農業の分野で長く働き続けてもらおうと人材育成に力を入れている農業法人があります。

山梨県中央市にある農業法人「サラダボウル」は、各地で農場を運営し生産したトマトなどを首都圏のスーパーなどに出荷しています。

農業法人では毎年、中途採用を含めおよそ20人を新たに受け入れていて、多くが農業未経験者です。

なかには総合商社や大手IT企業、それに保険会社の営業職で働いていた人などもいます。

会社が重要視しているのは長く勤めてもらうための人材育成です。

会社では一人一人の能力を最大限生かすため中途採用の場合、これまでの仕事の知識や経験などをできるだけ活用してもらうことにしています。

また、1人ひとりの社員のキャリアアップも後押しすることに力を入れています。

3か月に1度、社長や上司との面談の場が設けられ、仕事への不安や将来つきたい仕事のポスト、それに自分が描いている農業との関わり方などについて意見を交換することができるようになっています。

こうした取り組みの結果、離職する人は減ったということです。

農業法人「サラダボウル」経営企画室の森 成徳さんは「これまでになかった農業のスタイルをつくっていこうとしています。多くの人が農業で働き続けることができるよう後押ししていきたい」と話しています。

専門家は

副業などで農業を希望する人たちが増えていることについて、農業経営に詳しい東京農業大学の堀田和彦 教授は「日本の農業は高齢化や担い手不足といったさまざまな問題が深刻化している。副業という形でも農業に携わる人が増えているのはよいことだと思う。副業といった多様な働き方を認めつつ、本格的に農業に受け入れていく必要がある」と話しています。