日米首脳会談陰の主役は… 特派員が解説 なぜ日本が最初なの?

日米首脳会談陰の主役は… 特派員が解説 なぜ日本が最初なの?
今週開かれる日米首脳会談。アメリカのバイデン大統領が初めての対面での首脳会談の相手に選んだのが日本の菅総理大臣でした。世界各国の中で、なぜ日本なのでしょうか。ワシントン支局の辻浩平記者が、専門家の分析を交えながら解説します。(ワシントン支局記者 辻浩平)

民主主義と専制主義との闘い

なぜバイデン大統領は日本を最初の対面での会談国に選んだのか?
ひと言で言えば、中国に対する危機感です。

バイデン大統領は中国を「最大の競合国」と位置づけています。その中国に対抗するうえで、同盟国や友好国と連携することが重要と考えているのです。

このため、中国の隣に位置し、アメリカの同盟国である日本を最も重要なパートナーの一つとしていることが背景にあります。
中国の脅威は以前から言われていたが、これまでとの違いは?
バイデン大統領は中国の脅威を単に2つの大国による対立とは捉えていません。これを象徴するバイデン大統領のことばがあります。それは「これは民主主義と専制主義との闘いだ」というものです。このことばに象徴されるように、国家の根本的な在り方の違いの、歴史的な争いだと位置づけているのです。

少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし、選挙によって確立されたわけではない中国共産党の一党支配、その一党支配が香港や新疆ウイグル自治区で人権を抑圧している現状、そうした中国の在り方は「専制主義」だというわけです。

そして、その中国が東シナ海や南シナ海で国際的な決まり事を無視するかのようにふるまう。一方的に現状を変更しようとする。各国が尊重する民主的なルールがないがしろにされそうになっている。そうした切迫感が、日米両国にあります。

とりわけ、かつては唯一の超大国だったアメリカには、中国の台頭によって民主主義を掲げるすべての国や地域が挑戦を受け、脅威にさらされているという焦りもあります。

日本は同盟国であることに加えて、民主主義国家であり、自由主義経済、国際法の尊重といったさまざまな価値観をアメリカと共有しているため、その重要性が増しているのです。

「自由で開かれたインド太平洋」

アメリカ単独では中国と対じするのは難しい?
アメリカで取材をしていると、しばしば、日本への高い期待を感じます。

その筆頭は、バイデン政権がアジア政策の基軸とする「自由で開かれたインド太平洋」の実現です。トランプ前政権でも同じ名前の政策でしたが、これは、日本政府が考案した構想です。太平洋とインド洋を、力や威圧とは無縁で自由と法が支配する、安定と繁栄の一帯にしようというものです。

ある国の外交政策が、名前ごと、他の国でも採用されるのは異例です。

これについて、共和党のブッシュ政権でアジア政策を統括していたホワイトハウスの元高官、マイケル・グリーン氏は「日本は頭脳を持ち込み、アメリカは筋肉の役割を果たす」と表現し、次のように説明しています。
マイケル・グリーン氏
「アメリカの知識層や政治家は日本のことを新たな理念を主導する国(Thought leader)とみなしている。『自由で開かれたインド太平洋』はメイド・イン・ジャパンだ。トランプ前政権下でも日本は頭脳、アメリカは筋肉の役割だった。中国を押し返す必要があったからだ」

気候変動対策 中国にどう働きかけるか

首脳会談では、具体的に何がテーマに?
気候変動、安全保障、人権、経済、北朝鮮問題など、多岐にわたると思います。

このうち、気候変動対策は、バイデン政権の最重要政策の1つで、アメリカは温室効果ガスの削減目標を大幅に引き上げるとも報じられています。

また、日米首脳会談の翌週には、アメリカが中国を含めて40の国などのリーダーを招待した気候変動のサミットが予定されています。

この直前のタイミングでの日米首脳会談では、温室効果ガス削減に向けた両国の具体的な取り組みに加えて、世界最大の温室効果ガスの排出国である中国にどう働きかけるかについても議論が交わされる見通しです。

安全保障 「受け身になってはいけない」

安全保障では、日本側はより負担を求められるのか?
アメリカとしては、中国に対抗するうえで、日本側により大きな役割を期待したいという思いがあります。これは長期的には避けて通れない議論です。

「日本は受け身になってはいけない」と指摘するのが防衛研究所防衛政策研究室の高橋杉雄室長です。
高橋室長
「米中対立が激化すれば日本はそれだけ難しい立場に立たされるといった論調がメディアに多く見られるが、これは日本は当事者ではないとの認識に基づいて日本の負担が増えてしまうという考えだ」
「受け身になってはいけない」とはどういう意味?
高橋室長は「アメリカからどのような要求がもたらされるか」ではなく、日本の安全保障のために日本自身が何をすべきかを考えるべきだと説明します。

安全保障では日本は、東シナ海に位置する沖縄県の尖閣諸島沖合で、中国海警局の船が日本の領海への侵入を繰り返すなどの問題に直面していますが、南シナ海など日本から離れた場所で起きている出来事も日本に直結する問題だと言うのです。南シナ海で中国側の一方的な行動を受け入れてしまえば、それはドミノ倒しのように東シナ海にも影響を与えるからです。

こうしたことを背景に防衛費の増強についても検討が必要だと高橋室長は指摘します。

日本、中国、韓国、台湾の防衛費をすべて足し上げたうえで、国や地域ごとの割合を示したのが下の図です。
日本が占める割合は2000年からのおよそ20年間で38%から17%に減っています。これは、中国が大幅に国防費を増やしているのが大きな理由ですが、韓国も3倍以上になり比率も増加しています。

東アジアの安全保障で日本がどのような役割を果たしていくか、その費用はどうあるべきかといった議論も今後重要になってくるかもしれません。

中国の人権問題 日本にさらなる行動も

対中国では、人権問題でもバイデン政権は批判を強めているが…
バイデン政権は人権問題を非常に重視する政権です。アメリカは中国の新疆ウイグル自治区での深刻な人権侵害を理由に、先月、制裁発動に踏み切りました。

この制裁はアメリカ、イギリス、カナダがEU=ヨーロッパ連合と歩調を合わせる形で行い、結果的にG7=主要7か国では日本以外の国が足並みをそろえた形です。

一方、日本は制裁には慎重な姿勢です。こうした人権の分野でも日本がさらなる行動を求められる可能性があるとオバマ政権で東アジア政策を担ったダニエル・ラッセル元国務次官補は指摘しています。
ダニエル・ラッセル氏
「人権問題ではどんな国であっても傍観者でいるべきではない。中国の戦略は私たちを分断し、征服することだ。私たちは足並みをそろえることで強くなるので、共有する価値観のもとで共同戦線を張ることが大切だ」

経済安全保障 中国に頼らない供給網の見直しも

経済をめぐる話し合いでも、やはり中国はテーマに?
経済面では「経済安全保障」(Economic Security)での連携が大きなテーマになると見られています。

ホワイトハウスのサキ報道官は、世界的な不足が課題となっている半導体のサプライチェーン=供給網の強化などについて日米の協力を深めたいと発言しています。

バイデン政権は自動車やスマートフォンなどに使われる半導体やレアアースなどの調達について、「価値観を共有しない国に依存すべきではない」として、中国に頼らない供給網の見直しを同盟国などと検討しているためです。

カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上級研究員は、次のように指摘しています。
ジェームズ・ショフ氏
「今回の会談は同盟国の中でも日本が果たす役割の重要性を強調している。中国に対する経済安全保障を最大化させるためにも、輸出規制とサプライチェーンを合わせて調整していくことが求められることになる」

日米にはあって、中国にはないもの

日米間の首脳会談だが、陰の主役は中国のようにも…
1つ重要なポイントは、日米にはあって、中国にはないものです。それは、同盟国との強固な関係です。

冒頭でも触れたように、今回の会談の大きな目的は、中国に対して同盟国との強い関係と連携があることを示すことにあります。外交関係者の間では、当初、バイデン大統領が中国に融和的な態度をとるのではないかという懸念が聞かれましたが、同盟国を重視して向き合う姿勢を鮮明にしていることで、そうした懸念は払拭(ふっしょく)されつつあります。

その同盟重視の姿勢に、日本が受け身にならず、どう動いていくのか。

今回の首脳会談は「新冷戦」と評される米中対立の中における日本として、1つのターニングポイントになるように思えます。
ワシントン支局記者
辻浩平
鳥取局、エルサレム特派員、盛岡局、政治部を経て2020年からワシントン支局