米政権 巨大企業100社程度 “売り上げに課税” 主要各国に提案

企業への課税強化を打ち出すアメリカのバイデン政権が、国境を越えて事業を行う巨大企業100社程度を対象に、国ごとの売り上げに課税する新たな税制ルールを主要各国に提案し、国際的な法人税改革で議論を主導するねらいとみられます。

国境を越えて事業を行う企業への課税をめぐっては、巨大IT企業などを念頭に、「デジタル課税」と呼ばれるルール作りがOECD=経済協力開発機構で進められています。

これについてバイデン政権は、業種を問わず、世界で事業を行う企業、100社程度を対象に国ごとの売り上げに応じて課税する新たな税制ルールを日本やヨーロッパなどの主要国に提案しました。

欧米のメディアは、「GAFA」などとも呼ばれる巨大IT企業だけでなく、自動車メーカーなども対象になる見込みだと伝えています。

トランプ前政権は、アメリカのIT企業をいわば狙い撃ちにする形で「デジタル課税」のルール作りが進むことを警戒し、国際的な議論への参加に消極的な姿勢でした。

一方、バイデン政権は、各国の間での法人税の引き下げ競争を終わらせるため、共通の最低税率を設けることも呼びかけていて、「デジタル課税」でも新たな提案をすることで、国際的な法人税改革で各国との協調姿勢を打ち出すとともに、議論を主導するねらいとみられます。

米 バイデン政権のねらい

長年続いてきた法人税率の引き下げ競争が大きな転機を迎える可能性が出てきた背景には、アメリカ・バイデン政権の政策転換があります。

新型コロナウイルスで傷ついた経済の立て直しを急ぐため、バイデン大統領は、3月、個人への現金給付などを柱とする日本円で200兆円規模の経済対策を成立させたのに続き、国内のインフラ整備に8年間で220兆円を投入する新たな計画も発表。

こうした巨額の財政出動の財源を賄うため、4月7日、トランプ前政権が21%まで下げた法人税率を28%に引き上げる方針などを盛り込んだ税制改革案を打ち出しました。

バイデン大統領は「さまざまな制度の抜け穴を使って少なくとも55の大企業が税金の支払いを免れているという調査もある。これは納税している多くの国民にとって不公平だ。普通の市民だけが負担を強いられるのはうんざりだ」と述べ、大きな課題になっている経済格差の解消に向けて、大企業などの負担を増やす政策へと転換する姿勢を印象づけました。

アメリカ財務省は改革によって、15年間で275兆円の税収が見込めるとしています。

そしてこの国内の税制改革にあわせる形で、イエレン財務長官は、5日、「世界では30年間にわたって法人税率を引き下げる競争が行われてきた」と強調。

引き下げ競争を止めるために主要国の間で共通の最低税率を設定するよう呼びかけました。

バイデン政権としては、国際的な法人税改革でも協調を重視する立場を示した形ですが、自国だけが税率を引き上げることで競争上、不利になることを避ける思惑もあるとみられます。

多国籍企業などへの批判

世界的に事業を展開する多国籍企業に対しては、税率の低い国の子会社に利益を移すといった手法で税負担を抑えているといった批判が高まり、国際的な法人税改革の必要性が叫ばれてきました。

「課税逃れ」とも呼ばれるこうした企業の行動をめぐっては、過去に、イギリスに進出した「スターバックス」やアイルランドに子会社を置いた「アップル」などが国ごとの税の仕組みの違いをたくみに利用していると批判を受けました。

またアメリカでは、トランプ政権時代に導入された、設備投資をした企業を優遇するなどの減税制度を活用して、「ナイキ」や「フェデックス」など大手55社が2020年に合わせて4兆円以上の利益を上げているのに、実質的に法人税が支払われなかったとする報告が出されています。

英 50年ぶり税率引き上げへ

イギリスの法人税率は1980年代初めまで50%を超えていましたが、経済立て直しを目指す当時のサッチャー政権が1983年、企業の競争力強化に向けて税率の引き下げに踏み切り、その後も段階的に引き下げを続けました。

これが法人税率をめぐる競争のきっかけとなり、各国に引き下げの動きが広がっていきました。

イギリスの税率は現在、19%にまで下がっていますが、政府は先月、2023年に税率を50年ぶりに引き上げて25%にすると発表しました。

新型コロナウイルスの経済対策によって財政状況が悪化したためで、イギリス政府はこれまで恩恵を受けてきた企業が財政立て直しに協力することが必要だと説明しています。

法人税率引き下げ競争の経緯

先進各国は、企業の誘致や自国の企業の競争力強化のため、法人税率を競って引き下げてきました。

例えば、イギリスは、2010年の時点で28%だった法人税を段階的に引き下げ、現在は19%と先進国で最も低い水準になっています。

アメリカは、トランプ政権の2018年、35%から一気に21%まで引き下げています。

こうした動きに対抗して、日本も実効税率で2014年度の34.62%から2015年度に32.11%、2016年度に29.97%、そして、2018年度からは29.74%と段階的に引き下げてきました。

このように各国は競って法人税率を下げてきましたが、企業誘致の面で期待していたほどの効果が得られなかったり、新型コロナウイルスの対応で財政支出が膨らんだりしたことから、減税路線を転換する国も現れています。

大幅な引き下げを進めてきたイギリスが再来年(2023年)に現在の19%から25%に引き上げる方針を表明したのに続いて、アメリカもバイデン大統領が税率を21%から28%へ引き上げ、インフラ投資などの財源に充てる考えを示しています。

さらに、国際的な最低税率を設定しようという動きも加わり、法人税率の引き下げ競争に歯止めがかかる流れが出てきています。

「最低税率」交渉の今後

法人税に世界共通の最低税率を導入する議論は、OECD=経済協力開発機構の加盟国を中心におよそ140の国と地域で作るグループが進めていて、ことし半ばまでの合意を目指しています。

これまで各国は、企業の誘致を目指して法人税率を競うように引き下げてきましたが、グローバル企業が納税額を過度に抑える動きにつながっているという批判もありました。

最低税率に関するルールで合意が実現すれば、こうした状況に歯止めがかかることになり、大きな転換点となります。

この交渉で、各国は法人税率を低く設定している国や地域にある企業の利益に対し、国際的に決めた最低税率まで「上乗せ」して課税する仕組みの導入を目指しています。

今回、アメリカがルール作りへの協調姿勢をより鮮明にしたことについて、財務省の関係者は「リーダーシップが発揮され、合意への大きな弾みになるだろう」と分析しています。

ただ、具体的に最低税率の水準をどう設定するかについては、各国の意見が分かれていて、交渉が続いているものとみられます。

法人税の最低税率の交渉は、もう1つの交渉とセットになっています。

国境を越えて事業を展開する巨大IT企業などに、一部の国が独自に課税している「デジタル課税」の見直しです。

現在は各国がいわば無秩序に課税している状況を改め、企業の利益を各国がどう配分するか、統一的なルールを設けることでも合意する必要がありますが、各国の利害がぶつかるだけに調整は難航するおそれもあります。

各国は、ことし6月の交渉会合で詰めの議論をしたうえで、その結果を7月に予定されているG20・主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議で報告することになっています。