舞台芸術支援へ 演劇や舞踊など デジタルアーカイブ構築

新型コロナウイルスの影響を受けている舞台芸術団体を支援しようと、演劇や舞踊などの公演の映像を収集・配信する事業が進められた結果、1200を超える作品のデジタルアーカイブが構築され、一部の作品の有料配信が始まりました。

この事業は、コロナ禍で収入の減少などの影響を受けている舞台芸術団体の支援を目的に、「緊急事態舞台芸術ネットワーク」などが文化庁の委託を受けて進めてきました。

演劇、舞踊、伝統芸能の3分野を対象に公演の映像を集めたところ、1960年代の文学座の杉村春子さん主演舞台から、近年人気が高まる「2.5次元ミュージカル」まで、幅広い作品がそろい、1283作品分のデジタルアーカイブが新たに構築されました。

このうち必要な権利処理が完了した280作品については、新たに公開されたポータルサイト「EPAD」を通じて有料配信の視聴が可能になり、収益は作品の主催団体に還元されることになります。

配信は一部の作品ですでに始まり、事務局によりますと、今後、6月までに280作すべてが配信される見込みだということです。

また、このアーカイブは、早稲田大学演劇博物館の特設サイト上で詳しく検索することができ、上演時の舞台写真や宣伝用のチラシなどの画像を通じて、過去の名作の魅力に触れることができます。

実行委員の1人、福井健策弁護士は「日本では世界に誇る舞台芸術が花開いていますが、過去作は、映像に残されていてもほとんどがほこりをかぶったままで公開されていませんでした。アーカイブと配信によって時間と空間を超えられることの価値は大きいですし、次こそは生の舞台を見に行こうと、人々を引き付ける役割も果たせるのではないかと思います」と話しています。

アーカイブ構築の意義は

今回のデジタルアーカイブ構築の取り組みでは、文化庁の予算を活用した7億5000万円の事業費が使われ、コロナ禍で経済的な苦境に立たされている団体に対する金銭的支援につながっています。

公演の映像データを提供した1283作品の主催団体には、対価としてすでに総額で5億円余りが支払われました。

さらに、有料配信される280作品については主催団体が自由に配信を行うことができ、収益力の継続的な強化にもつながります。

舞台作品には、劇作家や出演者のほかにも、音楽や映像、美術の著作権など複雑な権利が絡むことから、主催団体が有料配信を行うには権利処理の煩雑さが大きな障壁となっていますが、今回の事業では、法律の専門家を含む専従チームが商業配信に必要な権利処理をまとめて行ったということです。

また、公演映像をデジタル化する今回の取り組みは、過去の優れた作品を未来に継承するうえでも意義深いものになっています。

早稲田大学演劇博物館によりますと、舞台の公演映像は全国の劇団や劇場などが自前で撮影したものが数多く存在しますが、その多くは活用されずに保管されたままで、VHSテープなどの古い資料は経年劣化のおそれもあることから、デジタル化は急務となっていました。

今回収集された1283作品の映像データは、早稲田大学演劇博物館にも保存されていて、博物館ではそのほとんどを、事前予約制で館内で視聴できるよう準備を進めています。

戯曲や舞台美術の資料などもデジタルアーカイブ化

今回の事業では、公演映像のほか、戯曲や舞台美術の資料などについてもデジタルアーカイブ化が進められました。

このうち戯曲は、寺山修司さんや井上ひさしさん、松尾スズキさんなどの著名な劇作家の作品を含む550本のデータが集まり、このうち500本余りが日本劇作家協会が新たに開設した「戯曲デジタルアーカイブ」の特設サイトにまとめられています。

このサイトでは、すべての戯曲を無料で閲覧することができて、PDFファイルでのダウンロードも可能なほか、上演する作品を探す舞台関係者に向けて、「上演時間」や「上演人数」での検索や、上演の許諾を得るための問い合わせフォームも設けられています。