“感染拡大の兆し 早めに捉える指標に” 政府分科会で提言案

新型コロナウイルスの感染拡大の兆しを捉えて強い対策を早く行うための新たな指標についてまとめた提言を、政府の分科会の専門家が示しました。去年示した感染状況を見るための「ステージ」の指標が十分機能しなかったことから、ステージを判断するための指標を見直し、感染の起点となる若い世代の感染者数や夜間、歓楽街に出ている人の数などを捉えるなどして、早期の対策につなげるとしています。

提言では、感染の急増を示す「ステージ3」や爆発的な拡大を示す「ステージ4」といった対策を行うためのこれまでの指標について、国と自治体、専門家との間で共通の認識が迅速に共有されず、機能しないこともあったとして、感染が拡大する兆しをより早く捉えて対策につなげるために見直したとしています。

この中では、感染が若い世代を起点にして高齢者に広がることから、感染拡大初期の、「安定した状況からの立ち上がり」をつかむための指標として年齢別の新たな感染者数の動向や夜間、歓楽街に出ている人の数などに注意する必要があるとしています。

また、さらに感染が広がり「ステージ4に至る可能性が高くその前に強い対策を行うべきタイミング」をつかむための指標として、都道府県が最大限確保する病床数に2週間から4週間で満床に達することが想定される新規感染者数などを設定し、動向を見ていく必要があるとしています。

そして、これまでステージを判断する指標としていた項目を一部見直し、医療のひっ迫状況を把握する指標として、新型コロナに感染して療養や入院が必要な人のうち、入院できている人の割合を「入院率」として新たに加えました。

提言では基本的に「ステージ3」と判断されれば、感染が拡大しそうなときに急ブレーキをかけるための「サーキットブレーカー」として速やかにまん延防止等重点措置を含めた強い対策を早期に講じることが重要だとしています。

感染の第3波への対応では誰がステージ判断をするのか国と都道府県で意見が分かれ、緊急事態宣言などの判断が遅れたという指摘があり、提言ではステージ判断は都道府県が行うものの、広域で拡大するおそれがある場合には国がリーダーシップを発揮するよう求めました。

分科会の尾身茂会長は「前回の感染拡大ではさまざまな要因で必要なタイミングで対策が打てなかったという強い思いが専門家にはある。今回示した指標に基づき、国や都道府県には、客観的にステージ3相当の状態になれば、絶対に強い対策を打ってほしいと思いがある。分科会としても対策が必要だと判断すれば専門家の責務としてしっかり発信していくつもりだ」と話しています。

西村経済再生相「都道府県と連携して対応」

西村経済再生担当大臣は、政府の分科会の会合で「精緻化し、補強された指標によって、より迅速に、緊急性を認識しながら、対応できると理解している。国民にも、理解をいただき、都道府県と連携して対応できるようにしていきたい」と述べました。

日本医師会 釜萢敏常任理事「打つべき対策が速やかに」

日本医師会の釜萢敏常任理事は記者団に「国と自治体で相談している間に決めるときに決められず、緊急事態宣言などの発出が遅かったという苦い経験がある。分科会としての認識を述べることで、打つべき対策が速やかに打たれるようになると思う」と述べました。

鳥取県 平井知事「重要な変更だ」

鳥取県の平井知事は、記者団に「分科会がステージの判断に助言をするという方針が示されたことは賛同したい。都道府県知事の中には、ステージ判断が分かるような場合でも、住民や各種団体からの要望など政治的なポジションによって、やりにくい状況がある。分科会から、はっきり言われないと動けない場合があるので重要な変更だ」と述べました。

背景には「第3波」での判断の遅れ

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会が、感染拡大の兆しを捉えて強い対策を早く行うための新たな指標についてまとめた提言を示した背景には、急拡大した感染の「第3波」で、去年11月以降に拡大の兆しが見られても強い対策を打つための判断が遅れ、結果、大きな拡大に至ったことがあります。

政府の分科会は去年8月、感染が急増していて緊急事態宣言が出る事態を避けるための対策が求められる「ステージ3」や感染が爆発的に拡大し緊急事態宣言などの強い対策が必要になる「ステージ4」など、感染状況の段階別に速やかに対策を取るための指標を示し、各都道府県が具体的にどのステージにあるか、新規感染者数や病床のひっ迫具合などの数値を元に判断するとしました。

分科会の尾身茂会長は当時の記者会見で「悪くてもステージ3で止められるよう、国や都道府県は早めに総合的に判断して対策をとってもらいたい」と述べ、その後、分科会は去年の11月から12月にかけて全国的に感染が徐々に拡大した段階で、ステージの考え方を参考に国や都道府県に対策を取るよう求めました。

しかし、この当時は各都道府県がどのステージにあるのかや誰がステージの判断を行うかといった点について、国と都道府県の間で見解が分かれるなどしました。

このため、対策を進めるためのステージの判断が遅れ、緊急事態宣言など強い対策が出されない中、忘年会など、会食の機会が多くなる年末になり、年末年始の急激な感染拡大につながったと専門家は分析しています。

その後、分科会の尾身会長は第3波で拡大が始まった時期の対応を踏まえ、感染が拡大しそうな段階で、急ブレーキをかけられるようにする「サーキットブレーカー」の重要性を繰り返し強調していました。

先月、緊急事態宣言が解除される前の時期に行われた記者会見では「『ステージ3』の状況になれば必要な対策を打つという考え方を示してきたが、第3波の始まりでは期待どおりに機能しなかった。ある数値を超えれば客観的、自動的に対策を行うのがサーキットブレーカーで、恣意的な判断に左右されず感染拡大の予兆が見られた場合には発動し、まん延防止等重点措置といった対策を迅速に使えるようにしてもらいたい」と話していました。