アストラゼネカワクチン “利益”と“リスク”は?

イギリスの製薬大手、アストラゼネカとオックスフォード大学が開発したワクチン。日本国内でも使用に向けた承認申請が行われています。血栓との関係が指摘されていますが、実際のところどうなのでしょうか。

世界70超の国と地域で使用 日本でも承認申請中

アストラゼネカのワクチンは「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれるタイプで、新型コロナウイルスのたんぱく質を作る遺伝子を無害な別のウイルスに組み込み、そのウイルスごと投与します。

世界の70を超える国と地域で使われ、アストラゼネカは日本政府との間で6000万人分を供給する契約を結び、厚生労働省に対して承認を求める申請を行っています。

接種後に「血栓」報告 接種見合わせの動きも

このワクチンをめぐって2021年3月、EU=ヨーロッパ連合の医薬品規制当局などから接種後に血の塊、「血栓」などが確認されたケースが報告され、ドイツやフランスなどヨーロッパ各国で予防的な措置として一時、接種を見合わせるなどの動きが出ました。

接種のメリットが感染リスクを上回る

これについてEMA=ヨーロッパ医薬品庁の調査結果が2021年4月7日公表されました。

EMAによりますと接種後に血栓が起きたケースの多くは1回目の接種から2週間以内の60歳未満の女性で報告されているということです。

ワクチンの免疫反応が関係している可能性はあるものの非常にまれなため、新型コロナウイルスに感染するリスクを考えると接種するメリットのほうが上回るとしています。
また、イギリスの規制当局の調査では3月末までにイギリスで行われた2020万回分の接種のうち、接種後に血栓が確認されたのは79人で、このうち19人が死亡していました。

死亡した19人のうち50歳未満が11人、この中の3人は30歳未満でした。

各国は接種年齢を制限

こうした調査結果を受けて、各国はどのように対応しようとしているのでしょうか?

イギリス政府は30歳未満に対しては別のワクチンの接種を勧めると発表しました。

さらにイタリアではアストラゼネカのワクチンについて接種を60歳以上に限ると発表しました。ただ、1回目の接種を受けた人については60歳未満であっても2回目の接種を進めるとしています。

また、スペインでも60歳から65歳の人たちに限ると発表しました。

このほかフランスが55歳以上に、ドイツが60歳以上に接種を進める方針を明らかにしています。

WHO「死亡リスクと比較して評価を」

イギリスの規制当局の調査結果から血栓が起きるリスクは100万人に4人程度、また、死亡するリスクは100万人に1人程度となります。

これについてWHO=世界保健機関は声明を発表し、より詳細な研究が必要だと指摘したうえで、「まれな有害事象は、新型コロナウイルスに感染して亡くなるリスクと比較して評価されなければならない」としています。

専門家「リスクできるだけ避けるべき 日本も慎重に検討を」

ワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「因果関係があるのかは慎重に見なければいけないが、リスクはできるだけ避けるべきで、原因がはっきりするまでは接種の対象となる年齢を制限するといった各国の対応は妥当だと思う。今後、日本でも慎重に検討する必要があるだろう」と話していました。

国際医療研究センター忽那医師「準備を整えて」

アストラゼネカなどが開発した新型コロナウイルスのワクチンと血栓の問題について、国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は、「このワクチンを接種した際の効果と副反応のデメリットを天秤にかけた場合、ワクチンの効果の方が上回るのは間違いなく、接種をしない方がいいということではない。このワクチンの接種が国内でいつから始まるのかまだ見通しが立ってないので現時点では議論は難しいが、年齢層や持病などの条件を考慮しながらどういう人に接種していくのかを事前に考えていく必要があるのではないか」と指摘しました。

その上で、「ワクチン接種においては重要な副反応が出てきたときに一度立ち止まって考えるというプロセスも非常に重要だ。ほかのワクチンも含めてきちんと情報を得て検証し、接種に向けて準備を整えていく必要がある」と話していました。