クラスター発生の病院 半数で“換気不十分” 感染拡大の一因か

去年3月から、ことし2月までに新型コロナウイルスのクラスターが起きた全国8つの病院を調べたところ、4つの病院で換気が不十分だったとする調査結果を、北海道大学の研究グループがまとめました。研究グループは「感染拡大の一因になった可能性が否定できない」としていて、各地の病院でも十分な換気を行えているか、詳しく調べるべきだと指摘しています。

北海道大学の林基哉教授の研究グループは去年3月から、ことし2月にかけて新型コロナウイルスのクラスターが発生した全国8つの病院を訪問して、換気がどのように行われていたのかを調べました。

その結果、4つの病院では、換気を担う設備が、
▽老朽化などが原因で性能が低下していたほか、
▽夜間は止まっていたり、
▽節電のため、定期的に停止していたりしていたことが分かりました。

また、研究グループが病院の病室で、感染者の飛まつに見立てた微細な粒子や二酸化炭素を使った実験などを行って分析したところ、空調がつくる空気の流れで飛まつが病室から廊下に飛散して広がり、ナースステーションや別の病室まで届くケースもあったということです。

空調や換気を担う設備による不十分な換気をめぐっては、アメリカのCDC=疾病対策センターなどが、感染が広がる一因になり得ると指摘していて、各国で対策の強化が求められるようになっています。

研究グループは「不十分な換気が感染拡大の一因になった可能性が否定できない」としていて、各地の病院でも十分な換気を行えているか、詳しく調べるべきだと指摘しています。

林教授は「接触や飛まつによる感染への対策と併せて、換気についても早急に点検をして対策に取り組んでほしい」と話しています。

感染拡大に「換気」どのように影響

今回の研究は、厚生労働省の科学研究の一環で進められていて、新型コロナウイルスの感染拡大に換気がどのように影響しているのかを見極めるのがねらいです。

国の専門家会議は、去年3月、全国で発生した多くのクラスターで共通する条件の1つとして「換気の悪い密閉空間」を挙げ、いわゆる「3密」の1つとして対策を呼びかけてきました。

しかし、どの程度の換気を行えば十分か、明確な指針はなく、研究グループはガイドラインをつくるためにも、全国100以上の病院や店舗などの施設を対象に去年4月から調査を続けています。

研究グループでは、これまでにクラスターが発生した8つの病院を調査し、4つの病院で換気が不十分だったことが分かったとしていますが、病院名は公表していません。

林教授は「設備の古い病院では、換気が不足している可能性がより高くなる。感染拡大を防ぐためにも、まずは病院の担当者や責任者が現状を早急に把握すべきだ」と話しています。

“病院に具体的な換気の基準がない”

今回、研究グループが基準としたのは、一般社団法人の「日本医療福祉設備協会」が目安として定めている換気の量です。

大学病院や病院の建設に携わっている事業者などでつくる団体で、新型コロナウイルスを想定したものではありませんが、国内の病院が満たすべき換気の量の目安を定めていて、たとえば一般の病室では、部屋の空気が1時間に2回、ほぼ入れ替わるよう空調や換気の設備を整える必要があるとしています。

研究グループがこの目安を採用した背景には、病院に必要な換気の量を具体的に定めた国の基準がないからだとしています。

一般的なオフィスビルなどについては「建築物衛生法」を基に定められていて、厚生労働省は、新型コロナウイルスの対策に必要な換気の量として「1人あたり毎時30立方メートル」という目安を示していますが、こうした法律に基づく具体的な目安は病院にはないということです。

研究グループの林教授は「病院は一般のオフィスビルなどよりも、より頻繁に空気を入れ替える必要がある。今後の研究で、必要な換気の量を明らかにしていきたい」と話しています。

厚労省 「換気設備の点検を」

この調査結果を受けて、厚生労働省は「換気の不足が、病院内でのクラスター感染の要因となった可能性が否定できない」として、新型コロナウイルスの患者の治療にあたる全国の医療機関に対し、換気の設備を点検するよう呼びかけました。

これは、厚生労働省が7日に全国の自治体に文書で連絡したもので、北海道大学の研究グループの今回の調査結果を挙げたうえで「病院内での換気の量が設計のときよりも減少してしまう要因としては、換気設備の老朽化や省エネルギー、省コストなどのための調整が挙げられる」と指摘しました。

そして、適切な換気量を確保できていないことが確認されたときは、
▽フィルターの清掃をはじめ、
▽老朽化した換気設備の補修などを行って換気状況の改善をはかることや、
▽改善できるまでの対策として、窓を開けての換気なども検討してほしいとしています。

また、自治体に対しては、医療機関から相談があった場合、連携して改善にあたってほしいとしています。