その名札 見られてますよ!

その名札 見られてますよ!
新学期が始まりました。

入学した小学1年生は、大きなランドセルに、真新しい名札を身につけ、新しいお友達をつくろうとワクワクしているのではないでしょうか。

その名札や持ち物に書き込んだ子どもの名前。

学校の外で他人の目に触れると、思わぬ危険に巻き込まれてしまうこともあるようです。どんなことに注意すればいいのか、対策も調べました。

(佐賀放送局 渡邉千恵/ネットワーク報道部 野田綾 加藤陽平 玉木香代子)

名札の季節

「明日から学校、名札の準備しなきゃ」
「体操着、教科書、筆記用具、すべてに名前を書いて数時間」

この季節、SNS上には慌ただしく新学期の準備をする保護者の姿が目に浮かぶようなコメントが。

一方で、こんなツイートも。

「個人情報、ダダ漏れじゃ…」

狙われた登下校

名札をつけた登下校中の子どもが、個人情報をネット上にさらされるケースもあります。

佐賀県で登校中の小学生の女の子が無断で撮影され、インターネットの掲示板に投稿されていたのです。

警察は写真を撮影した男が女の子を複数回待ち伏せしていたことが県の迷惑行為防止条例に違反するとして、先月、男を書類送検しました。
警察によると、掲示板のサイトには佐賀県内の複数の女の子の写真が50枚以上投稿されていて、顔や容姿に加えて、写り込んだ名札で名前や学校、クラスまで特定できる写真もあったということです。

狙われていたのは、すべて登下校中の女の子でした。

書類送検された男は、掲示板のサイトを閲覧していた人たちから「神」と呼ばれていて、サイトには下記のような書き込みがあふれていたということです。
「ランドセルで胸が強調されている」
「いい画像ですよ。そそります」
「髪を切ったのかな。イメチェンしてます」
このサイトはすでに閉鎖され、男は警察の調べに対し「趣味の合う人に見て楽しんでほしかった」などと供述しているということです。
そもそも、学校外でも名札をつける必要があるのでしょうか。

佐賀市教育委員会に聞いてみると「子どもが登下校中に事故や災害などにあった時、周囲の人が子どもの名前や学校を確認して通報できるようにすることや、名札をつけることで子どもが周りの目を気にして、非行を防ぐ効果も期待できるため」ということでした。

佐賀県警は、今回の事件を受けて、登下校中の名札の着用を見直すよう県内の教育委員会に要請。今月5日、佐賀市内の小中学校は、登下校中は名札を身につけさせないことを申し合わせました。

名札は校内だけに

見知らぬ人に名前を知られるリスクから、子どもたちを守る対策も広がっています。

東京・渋谷区の神南小学校は、都心の繁華街を通学する子どもたちの個人情報を守るため、名札のルールを定めています。
2年生から6年生は、学校の外では名札を着用しない。朝、登校後に教室で名札を付け、下校前には決められた場所に名札を返却する。
1年生は名札の着脱に慣れていないため、つけたまま裏返すことができる名札を使う。登下校中は名札を裏返して、名前などが見えないようにする。
教室の様子を取材すると、6年生の児童は慣れた様子で名札を返却すると「さようならー!」と元気にあいさつして下校していきました。

今のところ、名札が原因で子どもたちがトラブルに巻き込まれたことはないということです。
神南小学校 教諭
「渋谷という、学校の外には観光客も含め多くの知らない人が行き交う土地柄なので、名札の返却は徹底しています。また、保護者にも行事で撮影した写真はネットにアップしないようお願いをしていて、個人情報の扱いには細心の注意を払っています」

過去には誘拐事件も

名前を知られた子どもが、深刻な事件に巻き込まれたこともあります。

7年前、埼玉県朝霞市で下校中の女子中学生が男に誘拐されました。

警察の調べでは、男は、面識がない少女の名前をフルネームで呼んで声をかけ、車に乗せたとみられています。

男は、どうやって女子中学生のフルネームを知ったのか。

捜査関係者によると、男は当時「女子中学生を見つけてあとをつけ、自宅の玄関前にあった傘を見て名前を知った」と供述していたということです。

女の子は、保護されるまでの2年間、男のマンションに監禁されました。

狙われやすい小中学生

埼玉県警によると、18歳以下の子どもが「こっちにおいで」「おうちどこ?」と声をかけられるなどの事案は、その後もあとを絶たず、去年1年間だけで2752件も起きています。

声をかけられた子どもの77%は小中学生で、下校中や帰宅中のケースが全体の54%を占めました。

家庭でできる対策は?

子どもを守るために保護者は、どんなことを気をつければいいのでしょう。

子どもの安全や防犯対策に詳しい、セコムIS研究所の舟生岳夫 主務研究員に聞きました。
舟生岳夫さん
「小学生への声かけ事案は、連日、全国各地で発生しています。子どもの名前を親しげに呼びかけて警戒心を解いて近づくなど、巧妙で悪質な手口が横行しています。お子さんの名前を他人に知られるリスクを意識して、注意してほしいです」
舟生さんによると、目立つ名札については、登下校中は付けないなどの対策が学校で広がっているということですが、持ち物に名前を書く際も細心の注意が必要だと言います。

子どもの持ち物ごとに注意点を教えてくれました。
ランドセル
側面などの目につく場所に名前を書くのは避け、内側に記名する。

通学帽
つばの内側も見えてしまうので避け、かぶった時に隠れる場所に記名する。タグに書いた名前は、外にはみ出して見えてしまうことがあるので注意。タグの四隅を縫い付けて外にはみ出ないようにすると安心。

手さげ袋など
できるだけ袋の内側に記名する。袋の底面に書いている人もいるが、歩いている時に見られるリスクがある。


中敷きや内側など、履いたら見えない場所に記名する。靴底やかかとに書いた名前は歩いている時に目につくので注意。
また、ハンカチのような落としやすい持ち物や、防犯ブザーや傘などの名前が隠しにくい持ち物には、名前の代わりに「★」などのマークを書き込んだり、シールを貼ったりするのもおすすめで、持ち物の取り違えを防ぐ効果も期待できるといいます。

SNSにも気をつけて!

悪意を持った人に名前を知られるきっかけは、持ち物に書いた名前だけではありません。

舟生さんが特に注意を呼びかけているのが、SNSなどに投稿する画像です。

家の中や玄関先、近所で撮影した子どもの写真を投稿する保護者も少なくありません。表札はもちろん、玄関先に置かれた自転車などに書かれてる名前や近所の風景も、悪意がある人にとっては十分な「情報」なのです。
舟生さん
「お子さんや友だちの顔がわかる写真はもちろん、名前や呼び名を書いたりするのはできるだけ控えたいですね。いくつかの情報を組み合わせれば、自宅の場所やお子さんの行動パターンを把握するのは案外簡単で、情報がすぐに拡散するおそれもあります。お子さんに関する情報は、どんなに些細なことでも悪用される可能性があることを念頭に、慎重に取り扱うようにしていただきたいです」

ちょっとした注意を

舟生さんは「知らない人に声をかけられた際にどう対応すればいいのか、日ごろから親子で話し合うことも大切です。家庭で十分に注意するとともに、もし学校側が名札の扱いなどに配慮が足りないと感じた場合には、保護者として疑問点を伝えて話し合ってみてほしいです」とも話していました。
ちょっとした注意を積み重ねれば、犯罪の被害にあうリスクは減らせます。

新学期はまだ始まったばかり。
記者も小学生の子どもを持つ保護者として、子どもの「名札」「持ち物の記名」「SNS」など、身近に潜むリスクに目を向けてみたいと思いました。
名札は「管理教育」の慣習?

ところで、そもそも学校の名札はいつごろ、どんな目的で始まったのでしょうか。

教育史が専門の東京大学の小国喜弘教授に聞いてみました。

詳しいことは分からないということですが、過去の新聞記事などを調べて教えてくれました。

小国教授
「子どもたちが胸に名札をつける習わしが始まったのは第2次世界大戦中で、国民学校の子どもたちが空襲などの被害にあった時、個人を識別する目的があったのではないか」

ただ、小国教授は、その戦時中の習慣が定着して戦後も続いたのかは確認できないと言います。

戦後、新聞に「学校の名札」が登場したのは1970年代はじめで、登校する子どもたちに名札をつけさせることを批判的に伝えた記事だったということです。

小国教授
「学校での名札の再登場は、いわゆる『管理教育』が浸透し始めた時期と重なります。子どもの数が多くなったため、子どもの行動を把握して、場合によっては『周りが見ているぞ』と、子どもの非行を抑止する目的もあったのかもしれません。それが”慣習”として現代にも続いている可能性はあると思います」