北海道新幹線 突き当たる見えない壁 建設現場を訪ねると…

北海道新幹線 突き当たる見えない壁 建設現場を訪ねると…
10年後、2030年度末の札幌延伸を目指す北海道新幹線。新幹線では日本で最も北となる新函館北斗から札幌までの区間、212キロの工事が進められている。しかし、作業は今、大きな課題に直面している。いったい何なのか、それを知るために、工事を行っている「鉄道・運輸機構」の特別な許可を受けて現場を訪問した。(札幌放送局記者 五十嵐圭祐)

長大トンネルに挑む 地道な作業

JR函館線、小樽市にある朝里駅から南西に3キロほどの山あい。道路を進むと山肌にあいた半円形の穴が見える。

「札樽トンネル」の小樽側の入口だ。札幌と小樽を結ぶおよそ26キロの長大なトンネルは、ここが起点となり札幌の中心部までを貫く。
3月中旬、この工事現場の最先端、「切羽」を訪れると、掘削作業の真っ最中。現場では、重機が金属製の刃がついたドリルを回転させ、土砂を削り出していた。重機の大きさに比べて、ドリルは小さく、土砂をかき出すスピードはゆっくりだった。
鉄道・運輸機構の担当者
「トンネル工事で最も気をつけるのは崩落させないこと。そのために熟練の作業員による繊細な操作が求められる」
崩落を防ぐために、1メートルほど掘り進めると、今度は壁面にコンクリートを吹き付けて補強する。それが固まった段階で、また次の1メートルを掘削する。そうした地道な作業を繰り返し、少しずつ前進していく。作業が順調でも、1日に進めるのはせいぜい5メートルだという。
今回訪れた区間では、去年11月に作業を開始。4か月余りかけて進んだのはおよそ400メートルにすぎない。工事が完了するのは、5年後の10月を予定している。

それでもこちらの現場では、一歩ずつ札幌に近づいてはいた。

壁に突き当たる 札幌市内の工事

突き当たっている見えない壁は、札樽トンネルの札幌側の工事にあった。

こちらの現場も取材することができた。最初、現場を案内されたとき、不思議に感じた。なぜなら、そこが札幌市西区にあるJR函館線の発寒駅から北西に1キロほどの住宅地だったからだ。小樽側と札幌側では工法が違う。
札樽トンネルは、小樽側は山を貫いて工事を進めるが、札幌側は市街地の下を通る。このため、50メートルの縦穴を掘ったうえで、横に進める形でトンネルを通す。

下はいったいどうなっているのか。鉄道・運輸機構の担当者とともに、地下30メートルまで縦穴を下りた。そこから見えたのは、壁面に取り付けられた円形の鉄製の大きな枠だった。
鉄道・運輸機構の担当者
「われわれは『エントランス』と呼んでいる。この鋼材の内周部分に新幹線のトンネルができる」
この枠に合わせて機械を据え付けて、トンネルを掘り進めるという。

工事が始まったのは2年前の1月。完了予定は5年後の8月というが、まだ肝心の掘削作業は始まっておらず、そのめどもたっていないという。

鉄道・運輸機構の担当者は、記者が「準備が今、整ってきたというような段階?」と尋ねたのに対し、「準備を進めているというような状況です」と淡々と答えた。

工事の着手阻む“対策土”

なぜ、札幌市内で札樽トンネルの掘削作業に着手できていないのか。その原因は、工事で出る土砂の受け入れ地が決まっていないためだ。

土砂の一部には、ヒ素やカドミウムなど自然由来の重金属が含まれている。このため、特別な対策を行った場所で処理する必要があり、「対策土」と呼ばれている。札幌市によると、その量、札幌ドーム0.7杯分に上る。

札幌市と鉄道・運輸機構では、おととし、厚別区の山本地区と手稲区の金山地区の2か所を受け入れ候補地に選び、説明会を開くなどして住民に理解を求めてきた。

しかし、住民からは「安全への不安がぬぐえない」、「説明が足りない」などと慎重な意見が相次ぎ、選定は暗礁に乗り上げた。

土砂の処理は避けられぬ問題

トンネルの土砂の処理は札幌延伸に向けて、極めて重要な問題だ。北海道新幹線の新函館北斗から札幌の区間、212キロのうち、8割をトンネルが占めている。

早く走ることが重要な新幹線にとって、速度を落とさずに走るためには直線的なルートを通る必要があり、結果的に山を貫くトンネルが多くなっている。このため、対策土は決して札幌に限った問題ではない。
完成すれば陸上では国内最長となる32キロ余りの「渡島トンネル」でも同じ課題を抱えている。農業関係者などが土壌への影響を懸念し、受け入れに反対していることなどから、対策土の処分場は全体の半分ほどしか確保できていない。

鉄道・運輸機構によると、トンネルの掘削率は3月1日時点で38.4%。6割以上が手付かずになったままだ。来年3月までに受け入れ先が決まらない場合、工期を延長することも検討しなければならないと危機感を募らせている。
北海道新幹線建設局 依田局長
「着手の遅れは、工程の遅れに影響する可能性が高い。開業に影響が出ないよう毎日がんばっているが、非常にせっぱ詰まった状態だというのは確かだ」
札幌市中心部の再開発やJR北海道の経営など、あらゆるものが2030年度末の延伸を前提にしているだけに、仮に延期となれば影響が甚大なのは間違いない。

候補地住民の理解欠かせず

事態を打開しようと、札幌市と鉄道・運輸機構は、すでに選定していた2か所とは別の場所、手稲区の山口地区を受け入れ地の1つとする方針とし、3月28日と29日に住民説明会を開いた。

対策土の上に盛り土を行うほか、シートで覆うなどの対策を行うことで、周辺環境に与える影響はないと説明したうえで、ことし秋ごろから対策土を運び入れるというスケジュールを示した。住民からは農作物への風評被害を心配する声や、受け入れありきの説明だという反発の声が相次いだ。

それでも札幌市と鉄道・運輸機構は、今後、住民が参加する協議会を設け、説明を尽くしていくとした一方で、示した日程どおり受け入れを進めていく前提で理解を求めた。
秋元市長
「風評被害などへの不安があると受け止め、解消していかなければならないと感じた。今回の説明会ですべてではなく、将来にわたって地域の皆さんと情報を共有する協議の場を設置し、ご了解をいただきたい」
北海道新幹線建設局 依田淳一局長
「国交省でマニュアルを作っていて、その技術基準にのっとって健康被害が出ないよう、安心安全を抱いていただけるように対策していることにご理解いただきたい」
延伸の時期と影響を考えれば「せっぱ詰まっている」というのはよく分かる。しかし、住民の不安の声を置き去りにすることは決してあってはならない。

工事を進める大前提として、札幌市と鉄道・運輸機構は、あらゆる場を通じて、受け入れ地周辺の住民の理解を丁寧に求めていく必要がある。
札幌放送局記者
五十嵐 圭祐
平成24年入局
横浜局、秋田局を経て、札幌局で経済分野を担当