高齢者のワクチン優先接種「6月中に2回目終えたい」東京 北区

およそ3600万人の高齢者を対象にした新型コロナウイルスワクチンの優先接種が、4月12日から始まります。かつてない規模のワクチン接種は、どのように進められるのか。東京 北区のケースを取材しました。

東京 北区で優先接種の対象となる高齢者は、およそ8万7000人です。

最初はワクチンの供給量がかぎられることから、まずは区内の特別養護老人ホームに入居するおよそ900人に接種を行います。

続いて、それ以外の高齢者施設に入居するおよそ9000人に行います。

医師を施設に派遣するなどしてワクチンを接種します。

施設の入居者を優先するのは、特に重症化しやすい人が多く、集団感染のリスクもあるからです。

それ以外の高齢者には、4月中旬をめどに接種券を配布。

大型連休の前後に一定量のワクチンが届けば、区内の3つの病院に設けられた「ワクチン接種センター」で集団接種を開始します。

さらに、5月中旬以降、ワクチンが大量に入ってくれば、区内10か所の病院と、およそ120か所の診療所でも接種を始めます。

ただ、全国的にみると、地域の診療所でも接種を行うかどうかは、対応がまちまちです。

東京 北区では接種体制を診療所にも広げたことで、ワクチンの供給が順調に進めば、6月上旬には区内のすべての高齢者が1回目の接種を終えられるのではないかと考えています。

そして、できれば6月中に2回目の接種もすべて終わらせたいとしています。

地域の診療所でも広く接種を行うため、北区保健所では随時、ワクチンを専用の保冷バックに詰めて各所に配送します。

診療所にはワクチンを保存する冷凍庫が無いためです。

また、接種後に副反応が起きた際、迅速に対応できるよう緊急の医薬品や酸素を吸入する器具なども配備します。

一方、保健所が懸念しているのが感染の再拡大です。

医療機関は、新型コロナの患者の対応に当たりながらワクチンの接種も進めていくことになるため、これまで以上に医療体制がひっ迫するおそれもあると、警戒を強めています。

北区保健所の前田秀雄所長は「6月中には2回の接種を終えたいと考えているが、それにはワクチンの供給スケジュールが鍵となる。供給量の情報や実務対応について不確定な部分が多い中でも、すべての住民に遅れることなく確実に接種していくことが必要で、自治体の実力が問われている。もし第4波が起きても、接種体制が縮小しないよう円滑に業務を進めるための遂行計画や人材の確保など、十分な備えをしていきたい」と話しています。

移動難しい高齢者 身近な診療所で接種も コロナ特有の課題も

東京 北区では、自宅から遠い接種会場まで移動するのが難しい高齢者も多くいるため、身近な診療所でもワクチンの接種を実施します。

持病の有無などを把握するかかりつけ医が直接接種する意義は大きいとする一方で、通常の診療を行いながら接種を進めていくうえで課題もあります。

このうち、区内にある内科の診療所「共和堂医院」では、およそ500人の高齢者を診療しています。

増田幹生院長は、高齢者の場合、持病や服用薬など、ふだんの状況を把握しているかかりつけ医が接種する意義は大きいと考えています。

実際、診療所に通院する高齢者に話を聞いても、かかりつけ医に接種してもらうほうが安心だという声が聞かれました。

その一方で課題もあります。

この診療所では、発熱外来を設けて感染した疑いのある人の診療も行っていて、感染が大きく拡大すればワクチン接種と診療をどこまで両立できるのか不安を感じています。

また、ワクチン接種後の副反応についても警戒を強めています。

診療所では通常診療の合間にワクチンを接種していく予定ですが、万が一、副反応とみられる症状がでた場合は、ほかの患者の診療も中止して対応にあたらなければならないと考えています。

さらに、新型コロナウイルス特有の課題もあります。

ほかのワクチンでも、接種後に発熱する高齢者は珍しくありませんが、今回、もし発熱した場合、それが接種によるものなのか感染によるものなのか、見極めが難しいといいます。

このためPCR検査を受けてもらう必要があり、そうした対応が続けば業務がひっ迫し、通常の診療にも影響が出るおそれもあると懸念しています。

さらに今回のワクチンは、一定時間内に使い切らなければならず、増田院長は、むだがないよう効率的に打たなければならないと考えています。

そのため、担当する高齢の患者には予約どおりにきちんと来院してもらうよう、あらかじめ一人一人にお願いすることにしています。

増田院長は「インフルエンザのワクチン接種より何倍もの労力が必要となるが、地域の診療所が力を合わせて対応していきたい」と話しています。

移動できない在宅の患者には

一方で、高齢者の中には足腰が弱く持病もあり、接種会場や診療所に移動できない在宅の患者もいます。

東京 北区では在宅患者がおよそ1700人いて、そうした人たちにはふだん訪問診療を行っている医師が自宅を訪れて接種します。

このうち「横山医院」は、診療所での通常の診察に加えて、週に3日、在宅患者の訪問診療を行っています。

現在、担当している在宅患者はおよそ20人。

寝たきりで免疫力が低下している人も多く重症化のリスクが高いため、できるだけ早くワクチンを接種すべきだと考えています。

患者や、その家族もワクチンの迅速な接種を願っています。

在宅医療を受ける92歳の女性の娘は「母の場合、かぜをひいてはいけないと言われているぐらいなので新型コロナに感染したら、それは死を意味するのに等しい。母の細かな体調まで把握してくれているかかりつけの先生に接種してもらいたい」と話しています。

一方で、診療所の横山健一院長は、副反応への警戒を強めています。

重度の認知症で自分の症状を伝えられない高齢者もいて、接種後の体調を医師が注意深く観察する必要があると考えています。

このため、患者1人当たりのワクチンの接種には、ある程度の時間がかかることも予想され、この診療所では、通常の訪問診療の日とは別に、ワクチンの接種だけを行う日を設ける方針です。

横山健一院長は「突然、患者の調子が悪くなって接種できなくなることも考えられる。一方で、ワクチンを余らせてはいけないのでスケジュールをどう組むか、非常に悩んでいる。在宅患者は、接種後の副反応も含めて何が起きるか分からないので、20人全員に1回接種を行うだけでも1か月以上かかるかもしれない。患者の家族とも綿密に打ち合わせをしたうえで慎重に対応していきたい」と話しています。