「半沢頭取」が語る銀行 “いまの延長線上に未来はない”

「半沢頭取」が語る銀行 “いまの延長線上に未来はない”
「三菱UFJ銀行 次期頭取に半沢氏」
去年の暮れに発表されたこのニュースは、銀行を舞台にした人気テレビドラマの主人公と同姓の人物がトップに就任という話題性も相まって、ネットでも注目を集めた。その“半沢頭取”が4月に就任し、NHKのインタビューに応じた。コロナ禍で銀行の役割が改めて問われているいま、半沢頭取はどんな将来像を描いているのだろうか。(経済部記者 宮本雄太郎)

保守本流から13人抜き

バブル景気さなかの1988年(昭和63年)、当時の三菱銀行に入行した半沢淳一氏(56)。

約400人の同期の中には「半沢直樹」の原作者で、元銀行員の池井戸潤氏もいたが直接の面識はないという。ちなみに、半沢氏は「半沢直樹」のモデルではない。

半沢氏はバブル崩壊後の金融危機の中、ほぼ一貫して企画畑を歩んだ。事業全体を見て経営戦略の計画を練る、銀行キャリアの中で“保守本流”と呼ばれる部署だ。
2005年の三菱東京フィナンシャル・グループとUFJホールディングスの経営統合の際、統合企画室で現在の三菱UFJフィナンシャル・グループの発足に従事するなどし、頭角を現した。
頭取就任が決まった際には、入行年次が早い副頭取や専務ら13人を抜いてトップに就任する人事も話題となった。

ただ、銀行の出世街道を進んできた半沢氏は、将来の頭取の本命候補で、「決してサプライズではない順当な人事」(同行関係者)という声もある。

異例の抜擢人事も注目された半沢頭取。

「せっかく注目してもらったので、利用できるものは利用したい」と淡々と語る一方、「注目されてしまったがために、しっかりと成果を出していかなければいけないというプレッシャーもある」と苦笑いする。

コロナ禍で問われる銀行

その半沢頭取が「一丁目一番地の課題」とするのが、コロナ禍での資金繰り支援だ。

三菱UFJ銀行が、去年3月から累積で実行した国内での融資額は5兆3000億円(21年3月末時点)に上るが、「この3月になって増える兆しが出てきている」という。

新型コロナウイルスの拡大に伴って、去年3月からの3か月間、銀行では累積で4兆円の融資を実行し、その後の相談件数はやや落ち着きを見せた。

しかし、コロナの感染が収束の兆しを見せない中、企業への影響は長期化している。
半沢頭取
「当初はコロナも1年ぐらいで収まるかなということもあり、1年程度の(短期の)融資をした企業が多かった。しかし、ホテルや旅行など個人向けサービスの売上が行動制限の中で落ちていて、融資をしたローンのリスケジュール(返済条件の変更)や追加の支援が増えつつある。そこにしっかり対応していくことがまさに求められている」

消える店舗 本部も集約

コロナ禍は、銀行自らを見直すきっかけにもなっている。

感染症拡大の防止のため、不急の来店自粛を呼びかけたことも重なり、来店客数は減少の一途をたどる。それは同時に、デジタル化への対応が喫緊の課題であることを銀行に突きつけた。
半沢頭取
「この5年間の来店客数が半分になった一方、スマホを介した(インターネット)バンキングサービスが2.5倍になった。オンラインでの非対面のサービスを利便性の高いビジネスモデルに作り上げる必要がある」
三菱UFJ銀行は、過剰となった店舗網の削減に着手している。

2018年3月に全国で500あまりあった店舗を、2023年度までに4割削減する一方、ネットバンクは口座の開設から解約まで、主要な取り引きはすべて完結できるように拡充する方針だ。
また、銀行の高コスト体質の一因にもなっている本部機能の集約も図る。

半沢頭取は、東京・丸の内にある銀行本店を約40年ぶりに建て替え、グループ内の銀行・証券・信託銀行が周辺に置く9つの拠点を集約させる方針を明らかにした。

来年度にも計画の詳細を固め、2020年代後半の完成を目指す。
半沢頭取
「コロナ禍で、本部の在宅勤務比率が50~60%、逆に言うと40~50%しか出社していない。アフターコロナの世界でも、少なくとも100%また出社してくるということはない。集約で拠点の維持・管理費用を大きく引き下げるとともに、(グループ全体の)経営判断や戦略を練るスピードを上げていきたい」

銀行の“ありよう”を変えたい

聖域なくメスを入れていく姿勢を示した半沢頭取。

銀行を取り巻く環境は厳しさを増している。日銀のマイナス金利政策導入から5年が経ち、超低金利時代と呼ばれて久しい。資金を融資して利ざやを稼ぐ、銀行のビジネスモデルそのものが問われている。
半沢頭取
「超低金利はもう、恒常化するとみていた方がいいと思っている。そういったときに預金と貸し出しに頼るという(従来の)レールの上に乗っている延長線上には未来はない。銀行の顧客は、いろいろな経営課題や新たな問題意識を持っている。我々はその問題意識を的確に捉え、依頼を待つのではなく先取りする形で提案をさせてもらう。例えば(融資だけでなく)M&Aにつなげていくとか、自分たちのビジネスモデルを変えていかないと銀行の将来は明るいものにならない。銀行のありようを変えていきたい」
「半沢直樹」と言えば「倍返しだ!」の台詞が有名だ。
だが、半沢頭取に「何倍返しをしたいか」と問うと、一言「お客様に恩返しをしたい」と答えた。

銀行の伝統や常識を打ち破り、顧客に利益を還元できる次世代の金融モデルを作り上げることができるか。

変革への手腕が問われることになりそうだ。
経済部記者
宮本雄太郎
平成22年入局
札幌局を経て経済部、現在金融業界を担当