生活保護 必要な支援をあきらめないために

生活保護 必要な支援をあきらめないために
「新型コロナで仕事を失って貯金もない。3歳の娘と生活していけない」

生活保護の申請ができなかったというシングルマザーの女性のツイートに反響が寄せられました。最初に窓口を訪れた時は申請できずにあきらめましたが、支援者の助けを得た2回目の訪問で申請でき、受給につながりました。

女性と申請の窓口を取材し、何があったのか、申請への課題は何なのかを考えてみます。
(ネットワーク報道部記者 杉本宙矢 野田綾/SNSリサーチ 三輪衣見子)

申請をあきらめた

ことし2月、生活保護に関するSNSへの投稿が反響を呼びました。

投稿したのは3歳の娘と暮らす28歳のシングルマザーです。
生活保護の申請行ったら、ひたすら仕事紹介されて、もうハローワークに通って面接も受けたけど現状厳しいからと説明しても「譲歩できるところはしなきゃ!」って謎の上から目線で…
女性は申請をあきらめたといいます。

投稿への反応を見ると、女性に寄り添うものが目立ちます。

一方で「仕事を探す義務があることを伝えたのではないか」という意見もありました。

コロナで仕事が…

女性に連絡をとると、申請までのいきさつを話してくれました。
ことし1月まで、繁華街の飲食店で接客の仕事をしていました。

頼れる家族も友人も近くにいないので、娘は夜間の託児所に預けて働いていました。

保育費は月に7万ほどかかり、生活は楽ではありません。

娘の存在が私の支えでした。

ところが、新型コロナの影響で店のお客さんは激減しました。

「申し訳ないが、今月末で…」

店長からそう告げられ、1月末で仕事を失いました。

仕事が見つからない

2月からはハローワークに通って、採用面接を重ねました。でも、子育てと両立できる職場はなかなか見つかりませんでした。

加えて、私は体調にも不安を抱えていました。

幼い頃から体が弱く、偏頭痛に伴う吐き気やめまいに悩まされて、ベッドから起き上がれないこともあり、医師からは自律神経失調症の疑いがあると言われていました。

児童扶養手当や臨時の給付金など、公的な支援策も受けていましたが、2月中旬の時点では、アパートの家賃を支払うと預金は1万円を切りました。

手持ちのお金も数千円になりました。

「来月、この子と生活していけるのかな」と、不安と焦りで頭がいっぱいになりました。
このころコロナ禍で生活に困っている人への支援の在り方が国会で議論されていたので、私も生活保護について調べました。

厚生労働省のホームページには「生活保護の申請は国民の権利です。ためらわずご相談ください」と載っていました。

“支援が受けられるかもしれない”

そう思い、役所の窓口に行きました。

窓口で仕事を紹介され…

この最初の申請の時の様子はどうだったのか、女性に話を聞きました。

窓口で女性の職員が対応してくれたと言います。

「生活保護の申請に来ました」と伝え、失業した経緯と体調の不安を説明。子育てと両立できる仕事がなかなか見つからないことを話しました。

生活保護をすぐに申請できると考えていました。

すると、対応した職員はまず「求人情報をちゃんとみましたか?」と言って、ハローワークの求人情報をいくつか示したそうです。

「ここなら子育てしながら働いている女性もいるので大丈夫なはずですよ」と、具体的に会社も提示しました。

その中には条件が合わず、すでに採用を断られた会社もあり、女性はその経緯と体調の不安を再度説明します。

職員からは「(求職活動で)譲れる条件は譲らないと。いま見つからなくても、あすはまた新しい求人が出ていますよ」という話があったといいます。

生活保護の申請に来たはずなのが、求人の話が続いたため、女性は職員に「このまま仕事の紹介が続くのですか?」とつぶやきました。

自分は生活保護を受ける資格がないのか、甘えているのか。

そう考えた女性は、この日の申請をあきらめたということです。

冒頭のツイートはこのあとに、投稿されたものでした。

支援者の後押しで

そして、投稿に寄せられた反響の中から、生活保護の申請に付き添ってくれる支援団体の存在を知り、連絡をとってみました。

支援団体の人は丁寧に話を聞いてくれて、預金残高がわかるものやアパートの賃貸契約書などをそろえるようアドバイスをくれました。

そして翌週、生活保護の申請窓口に一緒に行くことになります。

この日、窓口で対応したのは、前回とは別の職員でした。

女性は「先週もお伝えしたのですが、このままでは生活できないので生活保護を申請したいです」と伝え、生活の厳しさを訴えました。

窓口の職員は「もう少し仕事を探してみてはどうですか。生活保護を受けるよりも、早く仕事を決めたほうが収入面で安定しますよ」と話しました。

女性があきらめる気持ちになりかけた時、支援団体の人が間に入って女性の状況を職員に詳しく伝えました。
支援団体
「女性は自律神経失調症の疑いがありますが、いま経済的な余裕がなくて病院にも通えていません。生活保護を受けながら体調を整えて、それから就労を支援するべきだと思います。明確に申請の意思を示しているので、申請する権利の侵害に当たるのではないでしょうか」
しばらく間があったあと、担当の職員は「そんなに困っているとは知らなかったです。本当に大変な状況であれば申請を促そうと思っていました。申請する意思はありますか?」と答え、女性は「申請します」と改めて伝えました。
女性は申請ができて、面接などを経て生活保護の受給が決まりました。

窓口では仕事を探す手伝いも

今回の対応について窓口のとりまとめ役の職員に話を聞くと、個別の事例については答えられないということでした。

ただ生活保護の申請に来た時に、仕事を紹介することや申請の受け付けについての考えを説明しました。

まず仕事については、働く能力がある場合、それを促していること、またその際は、仕事を探す手伝いもしているということでした。
とりまとめ役の職員
「窓口では申請の受け付けだけでなく、就労の支援もしています。もちろん病気で働けない人もいます。その場合は、治ったら働いてくださいとお願いしています。個別の事情は答えられないのですが、女性のケースでは仕事探しを手伝おうとしたのかもしれません」

申請受ける前に検討も

申請の受け付けについては、新型コロナの影響で生活が厳しい人向けの支援制度が拡充しているので、まず、そうした他の支援がないのかを確認し、その後に生活保護について検討するということでした。
とりまとめ役の職員
「生活保護は最後のセーフティーネットで、資産を成形できない制約があったり、定期的な面接などもあったりしますので、まず他の支援を受けられないか検討しています。申請の前に預貯金など使える資産がないかも含めて、細かく検討します。もし申請して審査で却下されると、期待に沿えなかったという事態になるからです。憲法に基づく権利なので、申請を拒否することはありません。いつでも相談に来ていただいて、一緒に対応を考えたいと思います」
また女性が最初に申請できず、あきらめたことについては「窓口に来た方がそのように受け止められ、誤解が生じたのであれば、申し訳なかったと思います」と話していました。

すぐにでも申請をして生活を守りたい女性と、申請までにさまざまなことを検討する窓口。

その間に、思いのそごが生まれていたことが感じとれました。

“事前準備も大切”

女性の申請に同行したのは、支援団体のNPO法人「ほっとプラス」の藤田孝典さんです。
藤田さん自身は、今回のケースを含め、窓口の対応は十分でないケースが目立つと受け止めています。

そのうえで、申請する人も事前の準備が大切だと考えています。
藤田さん
「申請を受けようと思った場合には、給与明細だけでなく、年金や児童手当など収入に関する資料をそろえておくとよいです」

「また預貯金の額によっては生活保護を利用できなかったり、受給できる額が減ったりする場合があります。預貯金の確認ができるようにしておくことも大切です」
また、原則としては車などの資産は売却しないといけませんが、生活上必要な場合は認められることもあるので、きちんと説明できるようにする必要があるということです。
藤田さん
「生活保護は誰でも受ける権利があります。ひとりで悩まず、相談してほしいです」

必要な支援をあきらめないよう

窓口を訪れる際には、厳しい状況を説明できるものを準備しておくことが、より具体的な支援につながることになりそうです。

そして窓口でも、訪れた人が必要な支援をあきらめることがないよう、より丁寧な対応が求められていると思います。

受給が決まった女性は「これで子どもと生活をしていけると思い、安心しました。体調の不安はありますが、なんとか生活保護を受けなくてもすむように仕事に就いて生活を立て直したいです」と話していました。