拉致被害者家族会 キム総書記にメッセージ 強く決断を促す

北朝鮮による拉致被害者の家族会がキム・ジョンウン(金正恩)総書記に宛てた新たなメッセージを出しました。すべての被害者の即時一括帰国が実現するなら、被害者から秘密を聞き出し、日朝国交正常化の妨げになることはしないという思いは変わらないとしたうえで、家族の高齢化を踏まえ、「メッセージには期限がある」と明記して、キム総書記の決断を強く促しています。

3日は東京 港区で拉致被害者の家族や支援組織の会議が開かれ、家族会の代表で田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さん(82)が「新型コロナウイルスの影響で救出活動がかなり制限されているが、われわれは絶対に諦めない」と話しました。

そして会議では、家族の高齢化が一層深刻になり、残された時間は僅かだという危機感が改めて共有され、家族会はキム総書記に宛てたメッセージを出しました。

家族会は先月で結成から24年がたちましたが、北朝鮮の最高指導者にメッセージを出すのは、おととし以来、2度目です。

この中では、被害者全員の即時一括帰国が実現するなら、帰国した被害者から秘密を聞き出し、日朝国交正常化の妨げになることはしないという思いは変わっていないとしています。
そのうえで、結成時から家族会の中心的な役割を担ってきた有本嘉代子さんと横田滋さんが去年、相次いで亡くなったことに触れ、「メッセージには期限がある」と明記して、親の世代が健在なうちに被害者との再会が実現するよう、キム総書記の決断を強く促しています。

さらにメッセージには、前回はなかった日朝首脳会談に応じるよう求める訴えも盛り込まれています。

また3日は今後の運動方針も取りまとめられ、政府に対し、早期に日朝首脳会談を行い、すべての被害者の即時一括帰国を実現するため、ハードルを下げずに交渉するよう求めることなどを決めました。

家族会 「残された時間は長くない」

今回のメッセージで拉致被害者の家族会が「期限がある」と明記した背景には、被害者と親世代の家族の再会を実現するために残された時間は長くないという強い焦りがあります。

去年は2月に有本恵子さんの母親の嘉代子さんが、そして6月には横田めぐみさんの父親の滋さんが亡くなりました。今も健在な親は恵子さんの父親で92歳の明弘さんと、めぐみさんの母親で85歳の早紀江さんの2人です。

また田口八重子さんの兄で、家族会の代表を務める飯塚繁雄さんは82歳で、きょうだいの世代も高齢化が進んでいます。

家族たちは病気を患うなどして体調に不安を抱えながら、わが子や肉親と抱き合える日が来るのを、今か今かと待ちわびています。

被害者の帰国が実現できても、その時に待っている肉親がいなければ問題の解決とは言えないとしていて、「真の解決」と呼べる日を迎えることができるのか、危機感を募らせています。

「このメッセージには期限がある」

拉致被害者の家族らが初めてキム・ジョンウン総書記にメッセージを出したのは、おととし2月でした。

当時、対話に乗り出していた北朝鮮側の懸念を取り除くため、被害者から秘密を聞き出し、国交正常化を妨げることはしないという姿勢を示すことで、帰国の実現につなげたいという思いがありました。

今回のメッセージではその思いは変わっていないとしたうえで、前回にはなかった「このメッセージには期限がある」ということばを盛り込みました。

また親の世代と被害者の再会が実現しなければ、「大多数の日本国民は北朝鮮との関係改善に反対するでしょう」とも明記し、キム総書記に対し、1日も早く日朝首脳会談に応じるとともに、すべての拉致被害者の即時一括帰国を決断するよう強く促しています。

その背景には去年、被害者の親が相次いで亡くなったことを受け、親の世代が健在なうちに被害者と再会できなければ、拉致問題の解決とは言えないという立場をきちんと伝える必要があるという思いがあります。

また、北朝鮮の政治体制を踏まえれば、すべての決定権を握る最高指導者に働きかける以外に道はないという思いから、日朝首脳会談の実現を強く求めています。

メッセージに込めた家族の思い

会議のあと拉致被害者の家族は、キム総書記へのメッセージに込めた思いなどについて話しました。

横田めぐみさんの母親の早紀江さんは「年がたつごとに体力がなくなってきて、早く娘に会いたいという思いでいっぱいです。違う人生を送らされていることに対して親として怒りしかなく、本当に胸をかきむしられる思いで毎日、無事を祈っています。最後の勝負だと思うので、子どもたちをみんな親のもとに返してくださいとお願いしたい」と話していました。
また、めぐみさんの弟の拓也さんは「この時期、桜の花を見ると、中学校の桜の木と写った姉の写真のことを思い出し、44年もたってまだ解決できていないという時の重さや、人権問題の深刻さをひしひしと感じます。親世代の体力の限界が現実的なものとしてあり、期限を区切ることで、キム総書記の決断を促したい」と話していました。

そして、田口八重子さんの長男の飯塚耕一郎さんは「コロナの話題ばかりで拉致問題がなかなか表面化せず、改めて私たちの思いを掲げることにしました。私たちの命は限られており、もう時間がありません。元気なうちに被害者と会えなければ意味がないということを強調したい」としたうえで、「政府は拉致問題は最重要課題という方針を継続しているが、変化が必要だと感じる。菅総理大臣にはもう一歩進んだ形のメッセージをキム総書記に向けて発信し、日朝首脳会談を実現してほしい」と話していました。
会議に出席した松本京子さんの兄の孟さん(74)は「今回、メッセージを出すことで、北朝鮮の反応が少しずつ見えてくると思う。政府に期待するだけではなく、わたしたち家族が一生懸命取り組み、1日も早く家族を救出したい」と話していました。

拉致当時撮影の桜はことしも満開に

横田めぐみさんが拉致される7か月前、昭和52年4月に撮影された満開の桜をバックにした写真。

広く知られたこの写真は、病気で中学校の入学式を欠席しためぐみさんを、父親の滋さんが、数日後の日曜日に学校に連れて行って撮影しました。

新潟市立寄居中学校の敷地には今も当時の桜の木があり、ことしも花を咲かせて満開の時期を迎えています。
しかし、44年がたち、当時に比べれば、咲かせる花の数は少なくなったように見えます。

また中には、この間に寿命を迎え、伐採された木や枝が切り落とされたものもあるということです。
2日、学校を訪れためぐみさんの同級生の池田正樹さん(56)は「この季節になると、あの写真を思い出します。これだけの老木になったのを見ると、『それだけ時間がたったのだ』と涙が出そうな思いになります。助けを待ち続けているめぐみさんの帰国を実現できるよう、同級生として力を尽くしたい」と話していました。