コロナ禍 融資受けるも回復見通せず 元本返済始まる中小企業も

新型コロナウイルスの影響の長期化で、多くの中小企業にとっては新年度を迎えても売り上げの回復が見通しにくい状況が続いています。中には、去年、運転資金として借りた融資の元本の返済が始まるところもあり、経営者からは不安の声も聞かれます。

東京・浅草の永森啓史さん(74)は、50年余り前の明治3年から続く祭り用品販売店の5代目社長です。

藍染めの「はんてん」など、こだわりのオリジナル商品は、地元の祭りに携わる人たちだけでなく、外国人旅行者にも高い人気がありました。

しかし、新型コロナウイルスの影響で、全体の4割を占めていた外国人旅行者向けの売り上げはほぼなくなりました。

祭りも中止が相次ぎ、客からの注文を記録するノートは空白が目立ちます。店の近くの倉庫には、冬物の衣装の在庫がまだ多く残っていました。

永森さんは、去年7月、光熱費や税金の支払いなどに充てるための資金として、信用金庫から実質無利子・無担保の融資を受けました。

新型コロナウイルスの影響はそう長く続かないと予想し、元本返済の据え置き期間は1年としました。

しかし、依然として売り上げは感染拡大前の半分以下にとどまったままで、新年度に入っても回復が見通せない中、3か月後には返済が始まります。店の経営を維持する上で、負担は決して小さくありません。
永森さんは「当初の見込みが甘かったと言われるとそれまでですが、コロナの影響がまさか1年以上続くとは思っていませんでした。売り上げが入ってこないと、返済はかなり厳しいです。いつになったら『出口』が見えるのか、悲しくなってきます」と話していました。

据え置き期間「1年以内」が過半数

中小企業庁によりますと、ことし1月末までに実質無利子・無担保の融資を受けることが決まった中小企業や個人事業主のうち、元本返済の据え置き期間を1年以内に設定したのは、政府系金融機関の日本政策金融公庫で66%、民間の金融機関で57%に上るということです。

この融資は、政府系金融機関が去年3月に、民間の金融機関が去年5月に始めました。

新年度に元本の返済が始まる企業が多いとみられることから、金融庁は、各金融機関に対し、返済開始時期の先延ばしなど、顧客からの要望に柔軟に応じるよう求めています。

中小企業庁も、新たな事業や業態の転換などに取り組む中小企業を支援するため、「事業再構築補助金」を設けており、4月15日から申請の受け付けを始める予定です。

信金は取引先企業を支援

借金を増やした中小企業の支援に力を入れているのが、地域密着型の信用金庫です。

横浜市の「横浜信用金庫」では、実質無利子・無担保融資を受けた取引先企業のうち、7割程度が元本返済の据え置き期間を1年に設定しました。

年度末にあたる3月は返済を先延ばしするために、いったん借金を返してその分を新たに借り入れる「借り換え」の申し込みが急増。返済期限の延長などの条件変更も含め、なるべく柔軟に対応することで、資金繰りを支援しています。
30日、信金の営業担当者は、食器の製造・販売を手がける会社を訪ねました。

この会社は、首都圏の1都3県に出された緊急事態宣言の影響もあって外食向けの食器の販売が振るわず、先月、信金を通じて借り換えを行いました。

さらに年末に向けて注文が増えることを見込んでいて、仕入れに必要な資金を確保するため追加の融資を受ける方向で、検討を進めています。
会社の和高如勇社長は「なんとか危機を乗り越えられるのではないかと思います。力強く支援してもらって、感謝しています」と話していました。
横浜信用金庫の野田淳嗣融資部長は「お金を出したままではなく、出したあとも悩みを一緒になって解決していくことが信用金庫の役割だと思う。『運命共同体』ということで一緒に汗をかき、共に地域で生きていきたい」と話していました。

専門家「全体をふかんした支援を」

ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミストは「今回の短観では業種によってばらつきが非常に鮮明になったが、政府に求められるのはまずは全体をふかんし、業界や企業ごとの状況を細かく点検していくことだ。そのうえで、特に弱っている部分には、必要な手当をしていくというスタンスが重要になる」と指摘しています。

そのうえで「時短の協力金といった支援が飲食業に集中しているが、宿泊、娯楽、イベント関連なども非常に厳しい状況に置かれているものの対応は十分ではない。コロナ禍が長引く中、業種によってダメージの蓄積も異なるので、厳しいところにより手厚い迅速な支援ができる態勢を早急に整えていくことが求められている」としています。