砂糖よりタピオカ!? 値上げの背景は

砂糖よりタピオカ!? 値上げの背景は
大豆やトウモロコシ、そして砂糖。いずれも今、国際的な先物価格の大幅な値上がりが続いている。日本の大手メーカーは「企業努力では吸収しきれない」と、食用油や砂糖の値上げに踏み切り、家計への影響も出始めた。砂糖を多く使う業界からは悲痛な声が上がる。食料価格上昇の背景にあるものとは。(アジア総局記者 影圭太/社会番組部ディレクター 村上隆俊)

老舗の悲鳴

「勘弁してもらいたい」

東京にある老舗のあめ店が悲鳴を上げていた。その理由は、砂糖の値上げだ。
どこを切っても同じ顔が出てくる、おなじみのあめ。この店では1日に200キロを超える砂糖を使っている。その砂糖の仕入れ価格が、4月から1キロ当たり5円上がるというのだ。

新型コロナウイルスの影響による売り上げの落ち込みにコストの上昇が追い打ちをかける形になり、店にとっては大きな痛手だ。
仕入れ価格の値上げは、国際的な砂糖の価格上昇を反映している。
代表的な指標であるニューヨーク市場での砂糖の先物価格は、3月下旬、1ポンド当たり15セント余りと、1年前と比べておよそ35%の上昇となった。

こうした情勢を受けて日本の大手砂糖メーカーも値上げを余儀なくされ、一部の商品の出荷価格を1キロ当たり5円上げた。

収穫ピーク、そのはずが

砂糖の価格上昇の背景には何があるのか。

大きな理由の1つが、主要な国で生産が落ち込むという見方だ。
3月中旬、年間1000万トン前後を生産する世界有数の砂糖大国、タイの生産地に向かった。例年タイでは、12月ごろから4月ごろまで原料のサトウキビの収穫が行われる。

取材に訪れた北部の都市ナコンサワンでも、収穫作業のまっただ中…のはずだった。しかし、郊外の畑にはほとんどサトウキビが見当たらない。
この地域にある砂糖工場を訪ねると、いつもより1か月以上早い3月上旬にサトウキビを搾る工程が終わり、機械は止まったままになっていた。

今期は、例年になくサトウキビの収穫量が少なかったのだ。

畑の土が…

起きていたのは深刻な干ばつだ。
現地の農家
「畑の土が乾燥していて全く水分がない。こんな状態では十分に成長しないよ」
畑を案内してくれた農家からは諦めに近いことばが漏れた。確かに畑の土は乾き、近くにある池が干上がってしまっていた。
ナコンサワンの降水量は2005年には年間1200ミリ余りあったが、2018年には1000ミリを下回り、2020年は800ミリ余りまで減った(タイ政府気象当局)。

この農家の畑では、面積当たりの収穫量がいつもと比べて半分程度に減ってしまった。サトウキビは草丈が成長する時期に一定の水分量が必要だが、干ばつによって十分な量が得られず、不作になったとみられている。干ばつは、2期連続だ。

砂糖より、タピオカ!?

干ばつが続いたことで、タイではサトウキビの栽培そのものをあきらめる農家も出てきている。
ナコンサワンで取材した農家も以前はサトウキビの専業農家だったが、より干ばつに強いとされ、タピオカの原料になるキャッサバの栽培を増やしている。

およそ30ヘクタールの畑のうち、今期はキャッサバの割合をおよそ7割まで増やした。農家はこう話す。
現地の農家
「今の天候を見るとキャッサバのほうが栽培に適しているようで、地域全体をみてもサトウキビ畑は減っている」
生活のために、天候不順を前提とした作物の選択を迫られているのだ。

干ばつと、それに対応するためのサトウキビ離れ。タイの昨期の砂糖の生産量は800万トン余りで、前期比で約40%減という大幅な減少になったが、今期は、それをさらに10%程度下回ると予想されている。

大手砂糖メーカー「カセタイ」のナタパン副CEOは、強い危機感を示す
ナタパン副CEO
「干ばつが続いていて、来期も間違いなくいい年にはならないと思う。農家がサトウキビ栽培をやめれば経営は苦しくなり、何もかもなくなってしまう」
このメーカーは、干ばつに強いサトウキビの品種の研究を進めていくという。

穀物価格も上昇

価格の上昇は砂糖にとどまらない。大豆やトウモロコシといった穀物でも起こっている。国際的な先物価格のこの1年の上昇幅は、大豆はおよそ70%、トウモロコシはおよそ45%に上る。

FAO=国連食糧農業機関が、穀物や砂糖など5品目の取り引き価格を元に公表している食料価格指数も、ことし2月の時点で2014年7月以来、6年7か月ぶりの高い水準になっている。食料全般にわたって、価格が高騰しているということだ。

大豆などの場合、その値上がりの理由は主に需要側にある。専門家が指摘しているのは、中国の存在だ。

中国で肉の需要が高まっていることに加え、畜産業の近代化を進めるために質のよい飼料用の大豆やトウモロコシの必要性が高まり、輸入を増やしているというのだ。

これによって需要に供給が追いつかないという見方が広がり、先物価格が上昇。
日本では食品メーカーが相次いで大豆を原料に使う食用油を値上げし、影響はすでに家計に及んでいる。

影響、長期化も?

専門家は、価格の高騰が長期化する可能性を指摘する。
柴田代表
「中国は穀物の輸入を拡大させようと急速に政策転換を進めている。構造的に輸入が増え、需要も高まるので、価格の上昇は長期化すると見ている。日本は食料を輸入に頼る比率が高いので影響を受けやすくなる」
生産国では天候不順が続き、それを“前提”とした農業への模索が進められ、消費国では穀物の輸入増の長期化が見込まれる。
需給両面の変化が食料価格の上昇を招いている。

新型コロナウイルスによる打撃から、世界が、家計が、なんとか立ち直ろうとしている今、その流れに水を差すことにならないか。警戒が必要だ。
アジア総局記者
影 圭太
2005年入局
経済部で金融や財政の取材を担当し2020年からアジア総局
社会番組部ディレクター
村上 隆俊
2016年入局
徳島局で阿波おどりなどを取材し去年9月から「おはよう日本」担当