“ウイルス研究所から流出の可能性 極めて低い”WHO報告書公表

中国の武漢で新型コロナウイルスの発生源などを調査したWHO=世界保健機関のチームは報告書を公表し、アメリカのトランプ前政権が主張していたウイルス研究所からの流出の可能性は極めて低いと結論づけ、発生源の解明に向けて調査を続ける考えを示しました。

新型コロナウイルスの発生源などの解明に向けてことし1月から先月にかけて中国・武漢で調査を行ったWHOの調査チームは30日、報告書を公表しました。

この中で、ウイルスはコウモリからセンザンコウやウサギなどを介してヒトに広がった可能性があるとする一方で、その起源や発生場所を特定するには至らず、さらに調査が必要だと強調しました。

またアメリカのトランプ前政権が主張していた武漢にあるウイルス研究所からの流出については、安全管理が徹底されていたなどとして、可能性は極めて低いとしています。

調査チームのリーダーを務めるWHOのベンエンバレク氏は会見で「結果を踏まえ、できるだけ早く新たな調査を始める必要がある」と述べ、発生源の解明に向けて調査を続ける考えを示しました。

また、これに先立って行われた加盟国向けの説明会でテドロス事務局長は「調査チームのメンバーは生のデータを入手するのが難しかったと話していた。今後の調査では、包括的なデータのより迅速な共有を期待する」と述べ、中国政府の協力が不十分だったという考えを示しました。

14か国が共同声明 中国の調査団受け入れ遅れを念頭に批判

WHOの報告書の発表に合わせて日本やアメリカ、それにイギリスや韓国など14か国の政府は30日「WHOが行った中国での調査に懸念を表明する」とする共同声明を発表しました。

声明は「われわれは新型コロナウイルスの発生源について、干渉や不当な影響を受けず、透明性のある独立した分析や評価が行われることを支持している」と指摘したうえで「国際的な専門家による調査が大幅に遅れ、完全なデータやサンプルにアクセスできなかったことに懸念を表明する」として中国による調査団の受け入れが遅れたことを念頭に批判しました。

そして「将来のパンデミックを防ぐには専門家が主導する迅速で独立した誰にも妨害されない発生源の調査が不可欠だ」と指摘したうえで「透明性やアクセスを確保するためのWHOとすべての加盟国による新たな取り組みが必要だ」としています。

ホワイトハウスも中国を批判「協力的だとは言えない」

WHOの報告書について、ホワイトハウスのサキ報道官は30日、記者会見で「決定的に重要なデータや情報、アクセス、それに透明性を欠いている。全体像の一部分しか捉えておらず、不完全だ。ウイルスの発生源についても十分な情報を示していない」と述べて、内容は不十分だとの見方を示しました。

そして「報告書は再発防止のための指針や行動も提供していない。今後、国際的かつ独立した専門家による次の段階の調査が行われる。その際、WHOは必要な情報への自由なアクセスや当時、現場にいた人々に質問ができるようにすべきだ」と述べました。

そのうえで中国について「透明性がなく、十分なデータを提供しておらず協力的だとは言えない」と批判しました。

中国外務省 報道官 報告書を称賛 欧米などをけん制

WHOの報告書について、中国外務省の報道官はコメントを発表し「中国は調査に参加した専門家が示した科学的な精神を称賛する」と評価しています。

そのうえで「中国は武漢での調査が順調に行われるよう必要な協力をしており、このことは中国側の開放的で透明で責任ある態度を示している」と強調しています。

一方で「発生源の解明を政治問題化することは世界的な協力を著しくはばむ」として、中国が調査に協力的ではなかったと指摘する欧米などを念頭にけん制しました。

そして「発生源の解明は世界的な課題であり、多くの国々でも調査されるべきだ」と指摘し、今後は中国以外でも調査が行われるべきだという考えを示しました。