中西さん、経済界は脱炭素を実現できますか ?

中西さん、経済界は脱炭素を実現できますか ?
2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を実現するという政府の目標。しかし、日本の産業界からは「実現へのハードルが高い」という声も上がっています。
世界で活発になる温室効果ガスの大幅な削減に向けて、日本はどう答えを見つけていくのか。果たして実現は可能なのでしょうか。
経団連の中西宏明会長に、日本がたどるべきカーボンニュートラルへの道筋と、その課題を聞きました。(経済部記者 山田賢太郎)

“不退転の覚悟”

2018年に経団連の会長に就任した中西氏。就任以来、気候変動問題で産業界に対する社会からの厳しい視線を意識してきたと言います。

海外では、EUが日本に先んじて「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」という目標を打ち出し、中国も「2060年までに実質ゼロを実現できるよう努力する」という目標を掲げました。ことし就任したアメリカのバイデン大統領も、選挙で温室効果ガスの実質ゼロを公約に掲げていました。
(問)国や地域を挙げた取り組みが世界中で活発になる中で、中西会長はこれまでの日本の産業界の対応をどう見ていますか。そして政府の「本気度」はどのくらいだと考えていますか?
中西会長
「政府は不退転だと信じていますし、菅総理大臣もその覚悟で話をしていると、私は実感しています。正直に言いますと、これまで日本の従来型の産業構造の経営トップは、『出来ないよ』という事をずいぶん言っていましたし、気候変動問題については、どちらかといえば、正直なところ保守的だったと思います。しかし今、脱炭素を目指さないかぎり、経済界そのものの存在意義を疑われるところまで来ています。官民が必死になって、力を合わせて脱炭素を実現する方向に走らなければならないと思っています」

産業界、果たして自信は?

日本の産業界からは、「政府の目標には全力で取り組む」とする一方、「実現には高いハードルがある」という声もあがっています。
国内の二酸化炭素排出量のおよそ15%を占める鉄鋼業界もその一つ。日本鉄鋼連盟は、2月、カーボンニュートラルの2050年までの達成に向け、取り組みを加速させるという声明を発表しました。
具体的には、石炭の代わりに水素を活用した新しい製鉄技術の研究や、二酸化炭素を外に出さないよう回収して、地中にためる技術の開発などを推進するとしています。
ただ、特に水素を使った製鉄技術は「各国とも開発の途についたばかりの極めて野心度の高い挑戦だ」として、実現の難しさを強調。二酸化炭素の排出量に応じて企業が費用を負担する「カーボンプライシング」については、技術革新を阻害するため反対だと明記しました。
自動車業界からも声が上がっています。ハイブリッド車やEV=電気自動車など、二酸化炭素の排出量が少ない車の開発が進んでいますが、そもそも生産の過程で使われる日本の電力は、70%余りが火力発電のため、EVなどにシフトしただけでは、社会全体の二酸化炭素の排出は、大きく減らないというのです。
日本自動車工業会の豊田章男会長は、政府目標について「全力でチャレンジするが、部品メーカーを含むサプライチェーン全体で取り組まなければならない。国のエネルギー政策の変革なしには、カーボンニュートラルの達成は難しい」と発言しています。
(問)こうした産業界の声を、どう受け止めていますか?
中西会長
「脱炭素は本当にできるという自信が、みんなある訳ではありません。しかし、地球がこのままでは、存立の基盤がなくなるよねという共通認識はあるので、やらなきゃならないと、みんなが思っています」
「EVへのシフトなど産業構造の変化は避けられません。では、産業構造が変わったらどうするのか。対策はしっかりやったうえで、鉄鋼業界や自動車業界だけの話ではなくて、エネルギー業界、電力業界、それから流通など、産業界がうまくベクトルをあわせて推進していく必要があると思います。そして、そうした大きな産業政策は、手を打っていくべきだと思います」

エネルギー政策がカギ

カーボンニュートラルの実現に向けて、中西会長は、国のエネルギー政策が大きなカギになると考えています。下に示したのは、日本の発電における「電源」の内訳。火力が圧倒的に多いことがわかります。
(問)政府は、2050年には、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの割合を50%から60%程度に増やすことを参考値として示していますが、これは実現可能だと考えていますか?
中西会長
「技術的には私は可能だと思います。1つは洋上風力発電の活用です。うまく活用すれば結構な容量までいくでしょう。もう1つは太陽光です。家庭や建物に装備する分散型の発電と、それから大型の発電も適地は、まだまだ増やせるところはあるのではないか。そんなに悲観的に考えている数値ではありません」
「現在のエネルギー事情の中で、石炭が持つ重要性は相当あるというのは事実だと思います。そういう理解の中で、石炭火力に代わる電源というのは、原子力しかありません。日本における原子力の活用をどうしていくのかということは、議論できるように思います。前向きの議論も安全の問題も含めてですけれども」

新しい世代を巻き込んだ議論を

脱炭素の実現に向けては多くの課題がありますが、中西会長はオプティミスティック(楽観的)に考えていると話しています。その理由は、今後、社会を担う若者たちの環境問題への意識の高さです。
中西会長
「気候変動問題は、人類が大量生産を繰り返しながら築いてきた地球そのものが、相当深刻な状況にあることを示しています。これに対して、21世紀に生まれた若い人たちの、地球をなんとかしていこうという意識は強く感じますし、そういう事に貢献する仕事をしたいという思いもあると感じています。われわれ(の世代)よりも社会に対する貢献、あるいは地球に対する貢献という意識は、むしろ高いのではないかと思っています。その意識の高さをどんどん発展させて、引き継いでいくためには、新しい世代がどんどん背負っていく形にしていかなくてはいけない。そういう風に常日頃から思っています」
脱炭素社会の実現には、消費者や企業がどこまでコストを負担するのかや、私たちのライフスタイルを変えられるのかなど、それぞれの立場を超えて議論しなければならないテーマも数多くあります。
“財界総理”とも呼ばれる経団連の会長が議論をリードし、産業界の中でも異なる意見を束ねる役割を果たせるのかどうか。そのリーダーシップが求められていると思います。
中西さん、経済界は脱炭素を実現できますか?
経済部記者
山田 賢太郎
平成14年入局
自動車や電機メーカー
などの担当を経て
経済3団体などの
財界を担当