卒業旅行の代わりに… 思い出どう作る? 学生と事業者の模索

感染拡大が続く中で迎えた卒業旅行シーズン。旅行会社が学生向けに行ったアンケートで、卒業旅行に「行かない」もしくは「迷っている」という回答が9割を占める中、3密回避のため“巣ごもり”や“オンライン”で『旅行』に代わる最後の思い出作りを模索する動きが広がっています。

卒業旅行は、政府の分科会が謝恩会や歓送迎会と併せて控えるよう呼びかけています。

東京 豊島区の旅行会社が先月学生らを対象にインターネット上でアンケート調査を行ったところ、回答した470人のうち、コロナ禍でも「行く」と答えた人は1割で、「行かない」が6割近く、「迷っている」が3割余りとなりました。

「行かない」と答えた人の半数が、理由に「コロナへの感染が心配」と挙げていました。

各地の宿泊施設などでは従来型の卒業旅行に代えて、外出せず都内の高級ホテルの館内に滞在するプランや、人との接触を避けるためヘリコプターで郊外のキャンプ場まで送迎するプランなど3密回避を掲げた代替案を打ち出していて、緊急事態宣言の解除を受け予約が増える傾向にあるということです。

全国に高級旅館などを展開する「星野リゾート」は6月末まで学生対象のプランを延期することにしたほか、アンケートを行った旅行会社では、ハワイやバリ島、それにオーストラリアなど海外の観光地をオンライン中継で紹介するツアーも人気を集めているということです。

アンケートを実施した旅行会社「旅工房」の担当者の間野恵理香さんは「大学生にとって卒業旅行は一生に一度の思い出となるイベントですが、コロナ禍で断念する人も多いと思います。旅行会社として安易に旅行を促すのではなく、十分な感染対策を呼びかけて、今の時代の卒業旅行の在り方を模索していきたい」と話しています。

ホテルの“巣ごもりプラン”が人気

卒業旅行に行けない学生たちのため、都内の高級ホテルでは、人と接触しないよう“巣ごもり”しながら思い出作りをしてもらおうというプランが人気を集めています。

東京 文京区にある「ホテル椿山荘東京」では、卒業旅行に行けなかった学生向けに、客室内にとどまりながら楽しんでもらおうと、客室向けのサービスを手厚くしたプランを企画しました。

1人1泊税込み2万4000円からですが、滞在中は館内で販売されている人気のスイーツセットを部屋で楽しめるほか、スパークリングワインのボトルが客室に用意されるということです。

追加料金を払えば、感染対策を取りながら広さ5万平方メートルの庭園で通常料金の最大2割引きで記念写真を撮影することができ、はかまもレンタルできるということです。

ホテルによりますと、販売を開始したことし1月ごろは予約が入らなかったものの、緊急事態宣言の解除を見据えて今月上旬辺りから問い合わせが増加し、すでに数十組の予約が入っているということです。

ホテル椿山荘東京の武村美紀商品造成課長は「海外旅行ができない状況でも、友達どうしで思い出を作りたい、就職前に気持ちを入れ替えたいという方、卒業旅行の代わりに少しぜいたくしたいというお客様もいました。コロナの疲れもあると思うので、旅行に行った気分を味わってほしいです」と話しています。

「対策をし最後に思い出になることを」

キャンプなどが楽しめる首都圏近郊の複合施設では、ほかの人と接触を避けられる環境で卒業旅行に代わる思い出を作ってもらおうと、感染対策を打ち出したプランを提供しています。

埼玉県越生町のテントやログハウスがある複合型リゾート施設では、ことし春に卒業する生徒や学生を対象に、感染防止対策を打ち出したプランを先月から販売したところ、これまでにおよそ200組の予約が入っているといいます。
この施設では消毒液の設置や検温といった基本的な対策に加え、利用者と従業員が顔を合わせないよう事前にバーベキューの食材をセットしておくなど配慮がされているほか、施設を訪れる際の感染リスクを下げるため、希望する人には有料でヘリコプターによる送迎も行っています。
今月下旬にはこの学生向けのプランを利用して6組が訪れ、東京の大学に通う2人組の女子学生は就職して忙しくなる前に一度思い出を語り合いたいと、ほかの人と接することなく滞在できるこの施設を選んだということです。

移動に公共交通機関は使わず、車で敷地内の宿泊施設まで直接訪れたあとは、食事をとるとき以外はバーベキューをしている間も含め互いにマスクを着け、感染対策を徹底していました。

22歳の女子学生は「外出を控えなくてはいけないのは分かっていますが、自分たちは思い出も作ってはいけないと言われると少し理不尽に感じてしまいます。対策をすればできることもあると思うので、その範囲で最後に思い出になることをしたいと思いました」と話しています。

「オーパークおごせ」の白石純也支配人は「SNSで卒業旅行を中止してくださいという投稿を多く見て、学生のために代わりに何かできることはないかと思い企画しました。施設として感染対策に十分配慮していきたい」と話しています。