パラオ大統領 「台湾 米との関係強化を」中国念頭に

太平洋の島国パラオのウィップス大統領がNHKのインタビューに応じ、地域で影響力を強める中国を念頭に、台湾やアメリカとの関係を強化していく考えを示しました。

観光業が主要産業のパラオは新型コロナウイルスの影響で海外からの観光客の受け入れを停止していますが、4月から外交関係のある台湾との間で団体観光客の往来を再開させる予定です。

これを前にパラオのウィップス大統領がオンラインでNHKのインタビューに応じ、「台湾は感染の抑え込みに成功していてパラオは感染者が1人もいない。安全な状態で市場を開くことができる」と述べるとともに、観光客の往来再開が経済の回復につながることに期待を示しました。

またウィップス大統領はパラオの沖合で、最近、中国漁船による違法操業が発生しているとして警戒感を示し、「中国は巨大な国で、影響力が拡大しているのは事実だ。私たちはすべての国と仲よくしたいが、法の支配を尊重してほしい」と述べました。

太平洋地域では近年、中国が巨額の支援や投資を通じて影響力を強めていて、台湾と断交して中国と国交を結ぶ国も出てきていますが、ウィップス大統領はパラオとしては台湾との外交関係を維持する考えを強調しました。

一方、国防を委ねる協定を結んでいるアメリカとの関係については「地域の安全を守るパートナーがいるのは重要なことだ。アメリカ軍の存在はパラオ国民に安全と安心を与える」と述べ、将来的にはアメリカ軍の基地の設置を求める可能性を示唆しました。

パラオのコロナ対策

WHO=世界保健機関によりますと、26日現在で太平洋の島しょ国14か国のうちパラオを含む8か国ではこれまでに新型コロナウイルスの感染者が1人も確認されていません。

こうした島しょ国では医療体制が不十分なところも多いことから、早い段階で海外からの入国を禁止したり入国後の隔離を義務づけたりする措置を導入しました。

このうちパラオではパラオに出発する前の14日間、自主的に隔離することや2回のPCR検査の陰性証明を提出すること、そして入国後に最大21日間の隔離を求めています。

今回受け入れが再開される台湾からの団体観光客については、隔離を免除する一方、訪問先を限定するとともに、個人の自由行動は認めないことで感染の防止を徹底するとしています。

観光業が主要産業のパラオはダイビングなど海のレジャーを中心に日本人にも人気の旅行先ですが、国際線の定期便の運航停止で観光客の入国は1年余りにわたって実質的にストップしていて、国内経済が大きな打撃を受けています。

このためパラオ政府としては感染対策を万全にとったうえで海外からの観光客の受け入れを徐々に再開し、経済の回復を図りたい考えです。

一方、ワクチンの接種についてはアメリカから提供を受けてことし1月に始まり、今月16日の時点で18歳以上のおよそ60%が1回目の接種を終えたということです。

影響力強める中国

オーストラリアのシンクタンク、ローウィー研究所によりますと、2018年の太平洋島しょ国14か国に対する中国の援助額は合わせて2億4000万ドル余り、日本円にして260億円余りで、オーストラリア、ニュージーランドに次いで3番目に多く、主に道路や港湾施設などインフラ整備への支援や投資を行っています。

太平洋地域には台湾と外交関係を持つ国が集中していますが、中国が影響力を拡大させる中で、こうした国にも接近した結果、おととし、ソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾と断交して中国と国交を結びました。

このため中国による巨額の支援や投資の背景には、台湾との関係を切り崩したい思惑があるとみられています。

一方、アメリカはパラオとの協定に基づき、財政支援を行うとともに国防を担っています。

最近では中国を念頭にパラオへの軍事的・経済的な関与を強めていて、アメリカ軍はパラオの周辺海域を監視できるレーダーの設置計画を進めているほか、去年8月には当時のエスパー国防長官がパラオを訪問しました。

またことしに入ってからは新型コロナウイルスのワクチンを提供しています。

太平洋の国々が中国とアメリカのせめぎ合いの現場となる中、パラオとしてはアメリカとの良好な関係を維持したい考えで、台湾との観光客の往来を再開することもそうした考えが背景にありそうです。