ロシア ヨーロッパ各国へロシア製ワクチンの売り込み強める

ロシアは、ヨーロッパで新型コロナウイルスのワクチンの供給が遅れるなか、イタリアなど一部の国がロシア製ワクチンに関心を示し始めたことも契機に、ヨーロッパへの売り込みを強めています。

ロシアは、これまでに新型コロナウイルスのワクチンを3種類開発し、このうち「スプートニクV」は、プーチン大統領の意向を受けた政府系ファンドが海外への売り込みを進めています。

このファンドによりますと「スプートニクV」は、最終段階の臨床試験で91.6%の有効性があったとする中間報告がイギリスの医学雑誌に掲載されたことも弾みとなって、これまでに中東やアジアなど50以上の国や地域で承認されたということです。

さらにロシア側は、EU=ヨーロッパ連合の医薬品規制当局に対して「スプートニクV」の販売許可に向けた申請を行い、EU側も今月から審査を始めました。

審査結果が出るには数か月かかるとみられますが、ロシアの政府系ファンドは「イタリアでスプートニクVを現地生産するため、製薬会社と協力を進めている」と明らかにしました。

ヨーロッパで欧米のワクチンの供給が遅れるなか、イタリアやドイツなど一部の国がロシア製ワクチンに関心を示し始めたことも契機に、ロシアは売り込みを強めています。

プーチン大統領は今月22日、ロシア製ワクチンについて「絶対的に信頼できるもので安心だ」と強調し、翌日みずからも接種しました。

プーチン大統領としては、各国が対応に苦慮している新型コロナウイルス対策で、ロシアが欠かせない役割を果たしていることを世界にアピールするねらいもあるとみられます。

一方、ロシア国内では「スプートニクV」を接種する用意があるとした人は、30%にとどまっているほか、国内の製造能力が追いついていないとされるなど、課題も指摘されています。

ハンガリーとスロバキア 国民への接種始める

ハンガリーは、EU=ヨーロッパ連合の中でいち早く、国の独自の基準でロシアが開発した「スプートニクV」を承認し、2月から国民への接種を始めています。

シーヤールトー外相も今月19日、みずから接種の様子を公開して安全性をアピールしました。

ロシア製ワクチンの接種についてシーヤールトー外相は、NHKのインタビューに「EUによるワクチンの調達は遅く、供給された量も想定より少ない。国民の命を守るには必要だった」と説明しています。

また、ハンガリーに続いてスロバキアも今月、スプートニクVの接種を始めました。

しかし、国内ではこれを承認したマトビッチ首相に対し「EUの承認を待つべきだ」などの批判の声があがり、その後、保健相が辞任する騒ぎとなっています。

ハンガリーやスロバキアは、新型コロナウイルスの感染拡大によって、人口当たりの死亡率が世界でも最悪のレベルになっています。

イタリアやドイツ 独自に購入する可能性も示唆

変異ウイルスの感染が拡大し、再び医療がひっ迫するなかEUの連携を重視してきた国の中からも「スプートニクV」への関心が高まっています。

このうちイタリアのドラギ首相は、今月19日、「スプートニクV」についてEUの医薬品規制当局の販売許可を待つべきだとしながらも「ヨーロッパの連携がうまくいかなければ、健康に関わる問題では単独で行動する覚悟が必要だ」と述べ、イタリアが独自に購入する可能性も示唆しました。

ワクチンの接種を最優先課題に掲げるイタリア政府は、今月はじめにはワクチン不足などを理由にアストラゼネカのワクチンのオーストラリアへの輸出を差し止め、供給が遅れれば、今後も輸出を差し止める姿勢を示しています。

また、ドイツのメルケル首相も「スプートニクV」について、今後、ヨーロッパが共同で調達できなければ、ドイツが独自に購入する可能性もあると示唆しています。

EU 加盟国の足並みの乱れ警戒

EUは、ことし夏までに域内の成人の7割にワクチンを接種する目標を掲げていますが、ワクチンの供給が遅れていて、これまでに接種した人は1割程度にとどまっています。

EUの医薬品規制当局がスプートニクVの審査を進めていますが、一部の加盟国が許可が出る前から接種を進めていることから、EUは加盟国の足並みが乱れることに警戒を強めています。

EUのフォンデアライエン委員長は2月に、スプートニクVについて「ロシアはなぜ自国民への接種が十分に進んでいないのに、何百万ものワクチンを提供しているのか疑問だ」と述べ、ワクチンの提供を申し出るロシアへの不信感をあらわにしました。

また、EUの医薬品規制当局の幹部も安全性に関するデータがまだ不十分だとして「ロシアン・ルーレットのようなものだ」と発言し、慎重な立場を示しています。