エスカレーター “立ち止まって利用を” 埼玉県で条例成立

エスカレーターの安全な利用を促進しようと、利用者に立ち止まって乗ることを求める条例案が26日に開かれた埼玉県議会で可決・成立しました。
県などによりますと、こうした条例が制定されるのは全国で初めてとみられるということです。

この条例案は、エスカレーターでは急ぐ人のために片側をあけることが慣習となり、追突や衝突などの事故のおそれがあるとして自民党県議団が提出していて、26日の県議会で賛成多数で可決・成立しました。

条例では、エスカレーターの利用者に立ち止まって乗ることを求めています。

さらにエスカレーターの管理者に利用者に周知することを求めたうえで、知事は周知が不十分な管理者に指導や助言、勧告ができるとしています。

一方、条例に違反しても罰則はありません。

県や自民党県議団によりますと、エスカレーターで歩かないことを求める条例は全国で初めてとみられるということです。

エスカレーターをめぐっては全国で事故が相次いでいて、日本エレベーター協会によりますと、平成30年からおととしまでの2年間で発生した事故は全国で1550件にのぼっています。

このうち、手すりを持っていなかったり、歩行中につまずいたりして転倒したケースが805件あり、歩かないで乗る習慣をどう広げていくかが課題となっています。

この条例はことし10月から施行されます。
エスカレーターで歩く人がいることで、身の危険を感じている人がいます。

埼玉県に住む会社員の川瀬正広さん(48)は6年前に脳出血を起こし左半身にまひが残りました。

リハビリでゆっくりと歩けるようにはなったものの、手は右手しか使えません。

エスカレーターで安定して立つためには手すりを持てる右側にいる必要がありますが、関東では右側をあける習慣が広がっているため、何度も舌打ちをされたり、左によけるよう言われたりしたということです。

このため、川瀬さんはエスカレーターではまず右側に乗ってから右手で体を固定したあと、ゆっくりと左側に移動するようにしています。

しかし、都内の会社への通勤時には急いでいる人も多く、右から左に移動することも難しいことから、手すりを持たずに左側に乗らざるをえないことも多いといいます。

川瀬さんは「条例化しないと守れないのは、さみしいところですが、困っている人はとても多いと思います。エスカレーターでの事故は本当に命取りになるので、これをきっかけに、もう少しだけ周りのことを考えてもらいたいと思います」と話していました。
エスカレーターの歴史や文化に詳しい江戸川大学の斗鬼正一名誉教授は「マナーとは本来は市民が考え、行動して作るものだと思うので、条例として定めなくてはいけないことは少し残念だ。ただ、ここ10数年、呼びかけが行われてきたのに、ほとんど状況が変わらなかったので、条例ができたことは評価したい。条例が監視や罰則ではなく、自主性を尊重しており、われわれ自身が自主的に自分の問題として考えることが必要ではないか」と指摘しました。

課題として「都心の一部の駅のラッシュアワーでは、全員が歩いているような状況があり、埼玉県内のそのような駅でどこまで効果があるのかは疑問だ。埼玉県だけでどれだけ実効性があるかもわからず、ほかの自治体でもぜひ考えてほしい」と訴えました。

そのうえで「エスカレーターの片側空けが進んだのは効率を第一とする高度成長期やバブル経済のころで、弱者への配慮があまりなかった時代だ。コロナ禍でライフスタイルを見直していく中で、この条例が働き方改革や生き方改革を考える1つのきっかけになってほしい」と話していました。
さいたま市大宮区のJR大宮駅前でエスカレーターの利用や条例について聞きました。

80代の女性は「エスカレーターでは人にぶつかられたことがあって、とても怖い思いをしました。若い人のことを思うと、止まってじっとしていると悪いことをしている気がしてしまいます。条例で止まることが当たり前になればいいなと思います」と話していました。

7歳の娘がいる30代の女性は「子どもと手をつないで横に並んで乗ってから、左側につれてくるようにしています。右から急いでいる人が上ってくるときにぶつかることがあって、小さい子はそこでバランスを崩すこともあるので止まって乗るように決めてもらえたら安心だと思います」と話していました。

20代の男子大学生は「エスカレーターは足が弱い人や歩きたくない人が使うべきものなので、急いでいるなら階段を使えばいいと思う。ただ、エスカレーターで走る人も一定数いて、僕もたまにやったりするので、条例が抑止力になればいいと思います」と話していました。